全国では毎年10万戸超の新築マンションが誕生していますが、それらの建物形状は立地条件などに合わせて多種多様にプランニングされています。

また、マンションの建物形状と住戸の間取り形状は一定の相関関係にあります。羊羹型、雁行型、クライスター型など、建物形状ごとに異なる間取りの特徴と、そのメリット、デメリットについて検証します。

マンションの建物形状は「土地」で決まる

世の中にはさまざまな建物形状のマンションがありますが、どんな形状で建てるかは建設予定地の特性によって大きく左右されます。平坦な土地、風光明媚な高台、ひな壇の丘陵地などの土地特性に合わせて日当たりや眺望を考慮した建物構想が練られるほか、用途地域が住宅系、商業・工業系のいずれに属するかによってもさらなるアレンジが加えられます。

たとえば建築予定地が第一種低層住居専用地域内にある場合は、マンションであっても地上3階建て程度の低層建物しか建てられず、庭や空地の面積も広く取らなければなりません。一方、商業系用途地域内の場合は、敷地いっぱいに建築面積が取れる上、タワーマンションなど高層建物の建築も可能になります。

設計担当者はこれらさまざまな制約に縛られながらアイディアを絞り、その土地に相応しいマンション企画を構築していくのです。

マンションの建物形状あれこれ

・羊羹型(または板状型)

和菓子の羊羹のように四角く凹凸がない建物形状から「羊羹型」と呼ばれています。昭和時代の公団住宅などでよく採用されていましたが、近年では高級住宅街に建つ専有面積100㎡超の間取りを中心とした低層マンションでも採り入れられるようになりました。

建物の片面に住戸が並び、もう片面が外廊下になるため、ほぼすべての住戸が同じ方位を向いています。間取りの形状は正方形または長方形でデッドスペースが少なく、プランのバリエーションは単一的です。角住戸は1フロアにつき建物両端の2戸しか取れないため、中住戸より価格が高くても希少な角住戸に人気が集中します。

・スクエア型

四角く凹凸がない建物形状は羊羹型と同じですが、羊羹型よりも建物に厚みを持たせ、その中央に廊下やエレベーターホールなどの共用設備を配置し、外郭にぐるりと住戸を配置したのが「スクエア型」と呼ばれる建物形状です。

郊外に建つ総戸数100戸超の中層マンションでよく見られます。間取りの形状はデッドスペースが少ない正方形や長方形で、各住戸の方位は東西南北の四方向に向きます。また角住戸は1フロアにつき4戸取れます。

・ボイド型(または口の字型)

スクエア型と同じ四角い建物の中央に、共用設備のほか吹抜け(=ボイド)を設けたのが「ボイド型」の建物です。吹抜けがあることで、バルコニー側のほか廊下側にも開口部が設けられるため通風性に優れ、また共用廊下にありがちな閉塞感も解消されます。

大規模タワーマンションなどで採用されることが多く、高層階から吹抜け下を覗くとなかなかのスリル感が味わえます。スクエア型同様、間取りの形状は正方形や長方形、角住戸も1フロアに4戸、方位も東西南北の四方向に向きます。

・雁行型

複数の住戸がスライドしながら並ぶ形状が、渡り鳥(雁)の群れが飛ぶ姿に似ているところから「雁行型」と呼ばれています。バルコニーが隣住戸と直線的に繋がっておらず、左右のいずれかは開放、もう片方は壁になっているため、全戸に角住戸のようなプライベート感が生まれます。

構造上のバランスが不安定となるため高層マンションには不向きとされ、主に低・中層マンションで採用されています。斜め方向に延びる建物形状なので、羊羹型のような直線方向に延びる建物が建てにくい変形地(ひし形や台形など)でも建築が可能です。

羊羹型同様、建物の片面に住戸が並び、もう片面が外廊下になるため、ほぼすべての住戸が同じ方位となり、間取りの形状も正方形や長方形のみでバリエーションは単一的です。

・トライスター型

建物がY字状に3方向へ広がり、上空から俯瞰すると星型にも見えることから「トライスター型」という呼び名が付きました。建物中心部にエレベーターホールを置き、そこから放射線状に内廊下が伸び、廊下を囲むように住戸が連なります。

360度まではいかないものの、各住戸のバルコニーはあらゆる方位を向いています。1フロアに20戸以上の住戸を配置することができるため、1,000戸超の大規模タワーマンションで採用されています。

間取りの形状は正方形や長方形といったスタンダードタイプからワイドバルコニーを有する横長タイプまでバリエーション豊かに揃います。しかし、総戸数が多いわりに角住戸率は1フロア3~6戸程度とそれほど高くありません。加えて、住戸の向きによって日照時間が限られるというデメリットもあります。

・円柱型

文字通り、建物が丸い円柱のような筒状になっているため「円柱型」と呼ばれます。上空へ高く伸びるスッキリとしたデザインが特徴で、建築面積が限られた都心のタワーマンションで多く見られます。

建物中心部にエレベーターホールや吹抜けを配し、その外郭に住戸が並びます。間取りの形状は主に扇形で、方位が360度あらゆる方向にひらけ、どの住戸からもワイドな眺望が楽しめます。しかし、間取りのバリエーションは単一的であり、正方形や長方形の間取りと比べるとデッドスペースが多くなります。加えて、開口部がバルコニー側の1面しか取れず、全戸とも中住戸扱いとなります。

・半円型

半円型の土台の上に建てられた建物を「半円型」と呼びます。ちょうど円柱型を縦半分にカットしたような形状なので、間取りの特性も円柱型と同様の扇形が主となります。半円のため方位は180度に限られますが、各住戸ともワイドな眺望が楽しめます。

間取りはバリエーションが少なく、室内にデッドスペースが多い点も円柱型と同様です。1フロアに2戸ある角住戸は2面採光になりますが、それ以外の住戸はバルコニー側の1面しか開口部が取れません。半円型の建築計画は眺望重視の設計プランであり、眺望豊かな立地、たとえば海を望む高台に建つリゾートマンションなどでよく見られます。

建物形状ごとの耐震性は?

近年ではあまり見られなくなった建物形状ですが、「L字型」や「コの字型」といった平面形状または断面形状が不整形なマンションは揺れに弱く、大きな地震が起きた際に建物の接合部(「L」や「コ」の角部分)がズレたり崩壊してしまう心配があります。

また羊羹型や雁行型に分類される建物の中で、階層が高く多数の住戸が延々と連なる細長い形状のマンションの場合は、地震が起きた際に波打つように建物が揺れ続けてしまうため、桁行方向(長辺方向)に被害が集中しやすいといわれます。建物全体を眺めてみて、縦横・左右の比率が極端に違うなど構造上のバランスが悪そうなマンションは気を付けた方がよさそうです。

まとめ

今回はマンションの建物形状あれこれと、建物ごとに異なる間取り形状の特徴について検証してみました。マンションの建物形状は四角いものだけでなく、星形、円形などバラエティに富んでいることがお分かりいただけたと思います。

またそれぞれの建物内に造られる間取りプランも、デッドスペースの少ない四角形のものから伸びやかな眺望が楽しめる扇形までバラエティに富んでいます。

その一方で、建物形状によっては地震などの天災に弱いものもあるため、購入を検討する際には構造上のバランスが取れているかどうか現地でしっかり目視確認することも必要です。