毎年7月1日に国税庁から「路線価」が発表されていますが、今年はこの全国平均が6年ぶりに下落しています。

例年上昇の一途にあった銀座の一等地までもが不動産評価を落とし、「やはりコロナ禍、恐るべし…」と落胆する一方、地方都市では上昇傾向にあるスポットも存在しています。

地方都市の不動産評価が上がっている要因とは一体何なのでしょうか。

不動産評価の基準となる「路線価」とは?

路線価とは、不動産の相続税や贈与税を算出する基準となる価格のことをいいます。「路線」という名の通り、その土地が面している道路毎に価格が設定されており、国税庁のホームページでは、全国主要都市の道路上に路線価が書き込まれた「路線価図」を見ることができます。

路線価は税金ばかりでなく、不動産売買や金融機関融資の査定指標にもなっています。土地査定の計算式でよく使われるのが、対象土地の路線価に1.25を掛ける方法です。

路線価は、より実勢価格に近い「地価公示価格」の8割程度に設定されているため、この1.25という数字が使われるのです。この仕組みを、銀座の一等地・鳩居堂前の路線価を例に取って説明します。

鳩居堂前(銀座5丁目)の路線価:4,272万円/㎡×1.25=土地査定評価額5,340万円/㎡

鳩居堂前からもっとも距離が近い銀座4丁目の地価公示価格が5,360万円/㎡なので、20万円の誤差はあるものの概ね近い数字になります。不動産取引事例が少ない住宅地などでは地価公示価格が発表されていないところもありますので、そういった場合、不動産業者はこのような計算式で査定評価の目星を付けているのです。

コロナ禍でも路線価が上昇している地方都市がある

さて、2021年の路線価はどのようになっているでしょう。国税庁の発表によると、標準宅地の路線価の全国平均値は前年比で0.5%下回り、6年ぶりの下落となってしまいました。都道府県別で見ると、47都道府県中39都府県が下落、1県が横ばい、そして次に挙げる7道県が上昇しています。

1位:福岡県(1.8%)
2位:沖縄県(1.6%)
3位:宮城県(1.4%)
4位:北海道(1.0%)
5位:千葉県(0.2%)
6位:佐賀県(0.4%)
7位:熊本県(0.1%)
※上記( )内の数字は対前年上昇率です。

コロナ禍以前と比較すればその上昇率は微々たるものですが、これらの7道県の土地評価額が上昇した要因が何なのかが気になります。もちろん、この7同県内すべての都市が上昇傾向にあるわけではありません。

上昇しているのは一部地域に限られます。そこで、福岡・沖縄・宮城の各県内でもっとも上昇率が高い、すなわち対前年変動率・県内ナンバーワンの住所地に焦点を当てて、その要因を探っていきます。

福岡県

福岡県の対前年変動率トップは、福岡市早良区西新4丁目の10.0%(路線価88万円/㎡)です。最寄り駅は福岡市地下鉄空港線「西新(にしじん)」駅で、九州一の繁華街として知られる中央区天神の西方約4㎞に位置します。

駅周辺は中低層ビルが立ち並び、その中で異彩を放っているのは、高さ約137m、地下2階・地上40階建ての再開発ビル「PRALIVA(プラリバ)」です。同ビルは2021年春にグランドオープンしたばかりで、地上4階までが商業棟、上層階は住居棟になっており、このビルの存在が西新エリアの路線価を押し上げた要因ではないかと推測されます。

「九州初の地下鉄駅直結・最高層・最大規模のタワーレジデンス」と称する住居棟の中古販売価格を調べると、坪単価350~370万円の物件がずらりと並びます。

西新駅を最寄りとする競合マンションの坪単価と比較してもその差は2倍以上、天神エリアの築浅物件でも高くて200万円程度ですから、かなりの高値であることがわかります。その中古販売戸数や賃貸募集物件数から推測するに、ほとんどが投資目的で購入されていると考えられます。

西新はもともと庶民的なエリアで、第二次大戦後は農作物の行商を行う「リヤカー部隊」が犇めき合っていた場所でした。リアカー部隊は平成直前まで存在し、その後は後継者不足などから減少、1981(昭和56)年の駅開業とともに誕生した駅ビル「西新エルモール」にその役割を譲るかたちとなりました。

この西新エルモールも2015年夏に閉店・解体され、その跡地にPRALIVAは建てられました。かつてのリアカー街は、今やハイソサエティな街並みへと一新されつつあります。

沖縄県

沖縄県の対前年変動率トップは、中頭郡北谷町字美浜の2.3%(路線価22万円/㎡)です。美浜は那覇空港から北東方約20㎞、車で約30分の場所にあり、「美浜アメリカンビレッジ」と呼ばれる広大な観光スポットが街のメインとなっています。

ショッピング施設や映画館、観覧車、レストラン街のほか、海岸に面しているので海水浴を楽しむこともでき、2010年にオープンした商業施設「デポアイランド」の賑わいも輪をかけて、ますます魅力を増しています。

リゾート、アメリカ軍用地など、東京・大阪の都心部と比べて投資物件がバラエティに富んでいる点が沖縄の魅力ですが、その中でも美浜はリゾートに特化した物件が豊富で、築浅コンドミニアムは坪単価180万円前後で売買されています。

コロナ禍にあっても、沖縄県へは多くの観光客が訪れているようです。2020年夏の「Go To トラベル」スタートの際にも若いグループや富裕層の多くが沖縄を訪れ、緊急事態宣言以降も沖縄滞在の様子をSNSに投稿する人たちが絶えません。

沖縄県における新型コロナ感染率が全国トップレベルに達していることは残念なことですが、コロナ禍に屈することなく街の賑わいが保たれたことが路線価上昇につながったものと推測できます。それだけ多くの人々を魅了して離さない、沖縄の底力を感じずにはいられません。

宮城県

宮城県の対前年変動率トップは、JR仙台駅西口エリアにあたる仙台市青葉区中央1丁目の3.8%(路線価330万円/㎡)です。その要因となったのは「せんだい都心再構築プロジェクト」ではないかと推測されます。

1975年、仙台市は全国に先駆けて市街地再開発基本構想を策定し、仙台駅周辺エリアを中心に14地区の事業を完了させました。駅前を縦横無尽に結ぶペデストリアンデッキはこの時期に建設され、当時はその規模と建築物としてのデザイン性の高さが全国的に評価されました。

再開発から40年余りが経過した今、仙台駅前エリアの新たな再開発が必要となり、「せんだい都心再構築プロジェクト」は始動しました。その先駆となる事業が、2017年2月に閉店したさくら野百貨店仙台店跡地(青葉区中央)を舞台とした再開発計画で、2024年度着工、2027年度の完成を目指しています。

宮城県といえば、2011年の東日本大震災の被災地というイメージがありますが、被災直後の仙台市街地は経済低迷どころか、復興工事のために来訪した多くの労働者による「復興特需」に沸いていたのです。

震災から今年で10年、年月を重ねる毎に公的復興投資が先細り、近年は復興工事を請け負っていた建設業者の倒産件数も増え続けています。しかし、仙台市は新たな再開発事業によって活性化しつつあります。震災やコロナ禍に屈せず、転んでもただでは起きないリスクに強い都市であるといえます。

まとめ

厳しいコロナ禍の時代にあっても、路線価(=不動産評価)が上昇している地域があることがお分かりいただけたと思います。

路線価という単なる数字を追っていくだけでも、その地域ごとに異なる「発展のドラマ」を垣間見ることができるのです。このような観点をもって投資物件探しを行えば、大きな失敗の目に合うことも少なくなるでしょう。