日本における不動産登記は所有者による「任意」登録制です。そのため、古くからの所有者が死亡して、その後相続人が所有者移転登記を行わないと、土地の権利関係が容易に把握できなくなってしまいます。

そこで提案したいのが「登記情報の電子(オンライン)化」です。電子化といっても、すでに行われている紙ベースからコンピュータへの情報移行程度のことではありません。不動産の売主・買主にとって登記が身近で便利になる、抜本的な改革案について紹介したいと思います。

資産管理がずさんな国・日本

日本のお国柄といえば、列車運行時刻の正確さ、ビジネスパートナーに対する礼儀正しさなど、諸外国と比べて真摯・誠実なイメージがあります。そのため国の統治体制も高いレベルが保たれているであろうと思われがちですが、色々調べてみると、日本国における個人資産の管理体制は意外とずさんであることがわかります。とくに不動産の所有権についてはその傾向が顕著です。

九州の面積より広い「所有者不明土地」

全国には所有者不明、すなわち誰が所有しているのかわからず荒れ野原になっている土地が、九州地方の面積(約367万ha)より少し大きめの約410万haもあり、これらが近年取り沙汰されている空き地・空き家問題の元凶となっているのです。しかし、なぜこんなに所有者不明土地が増えてしまったのでしょう? それは、日本における不動産登記が義務ではないことに所以します。

マイホームや投資用不動産を購入する際は、売買取引を仕切る不動産会社が司法書士に土地・建物の所有権登記を依頼して、引渡しの数日後には不動産所有の権利を証明する「登記識別情報」が買主に届く、というのが一般的な不動産登記の流れです。

このように、購入・売却の際は不動産会社が売主・買主に代わって手配をしてくれるので、当事者が移転登記をし忘れることはありません。買主にとっては高額を支払って手に入れた不動産ですから、自分の所有権を誇示するための登記を行わないという選択肢はないはずです。

「負動産」ともいえる農地・山林の「相続」の行方

ではなぜ、不動産を取得した当事者が登記を行わないようなケースが生まれるのでしょうか?

それは、親や兄弟姉妹など親族からの「相続」が発生した場合に起こります。たとえば、地方の実家に住む父親、または母親が亡くなり、その息子・娘である当事者が実家の土地・建物や農地・山林を相続することになったとします。実家については、自分の生まれ育った場所ですし、建物があれば賃貸経営もできますから、快く相続し、所有権移転登記も行います。

しかし、農地・山林はどうでしょう。相続してしまうと、使用していないにも関わらず土地の管理責任を負わされ、地域によってはいくらかの税金を徴収される場合もあります。まさに「負動産」ともいえる農地・山林は、都会に住む相続人にとって厄介なお荷物でしかありません。

また、相続人が亡父・母が所有していた農地・山林の存在を知らない場合もあります。そういったケースでは所有権移転登記が行われず、亡くなった所有者名のまま放置され、その結果これらの土地は所有者不明土地となってしまうのです。

こういった問題を解消するため、土地・建物の相続登記は2024年以降「義務化」されることになりました。それに伴い、「相続登記をしたいが、やり方がわからない」「司法書士に依頼すると手数料がかかる」と二の足を踏む相続人も増えることでしょう。そういった人たちのためにも、登記情報のオンライン化が急務となります。

アナログ登記を「ブロックチェーン」に置き換える

さて、ここから本題に入ります。未だ旧態依然たる不動産登記システムをいかに便利に、効率的に変えていくべきか、その近道はやはりオンライン化にあります。

具体的なアイディアとしては、仮想通貨の世界で採用されている「ブロックチェーン(分散型台帳)」の活用です。ブロックチェーンとは、歴代のデータ(ブロック)が、時系列で、次々と鎖(チェーン)のように繋がっていくデータ保存の仕組みをいいます。では、不動産登記におけるブロックチェーンの活用手段とはどのようなものなのでしょうか。

たとえば建物の登記情報であれば、1つ目のブロックには「〇〇年〇〇月〇〇日、〇〇さん所有の土地に建物が新築された」というデータが記録されます。次に「〇〇さんが土地と建物を□□さんへ売却」というデータのブロックが連なり、3つ目には「□□さんが死去したため、土地・建物は△△さんが相続」と続いていきます。

ブロックに記録される登記情報は、〇〇さん、□□さん、△△さんら当事者が自らのパソコン端末から法務局の専用サイトにアクセスして登録します。法務局は登録内容に虚偽や誤りがないことを確認した上で登記情報を一般公開します。

データ登録には当事者本人であることを示す「シークレットキー(=登記識別情報に代わる暗証番号)」が必要で、その際、故意に登録対象以外のブロック(=過去の情報)を故意に書き換え(=改ざん)すると、情報の不一致が他のブロックに連鎖して全体的な歪みが発生し、管理者(法務局)の知るところとなります。ブロックチェーンは、この情報の連鎖とシークレットキーによって第三者からのデータ改ざんから重要データを守る仕組みなのです。

ブロックチェーン登記に「特記事項」を盛り込む

ある中古マンションの売買取引で、買主が引渡しを受けた後に過去の雨漏り跡を発見した事例があります。その雨漏りは、今回の売主よりさらに以前の所有者が修繕しており、売主自身は雨漏りやその修繕について全く知らされていませんでした。この場合、売主は知らなかったにもかかわらず「契約不適合責任」を負わされてしまいます。

このような不本意な事態に巻き込まれないためにも、ブロックチェーンでの登記にプラスαの情報として、過去その不動産に起きた不具合や瑕疵についても記録しておく必要があるのではないかと考えます。

雨漏りをはじめとする物件固有の瑕疵情報は、売買契約書や重要事項説明書の文末にある「特記事項」欄に記載されます。特記事項は売買取引毎に仲介担当の不動産会社が記載するため、過去に発生したものの現在は確認できない瑕疵は記載しない、すなわち瑕疵情報が引き継がれないことがほとんどです。

一戸の中古マンションが転売され続け、転売のたびに異なる不動産会社が仲介に入ると、昔あった瑕疵情報はいつしか特記事項から消えてしまいます。雨漏りのみならず、室内のリフォーム履歴、床下配管のメンテナンス時期、給湯器やエアコンの取り付け時期などの情報も引き継がれれば、売主の契約不適合責任リスクは低く抑えられます。

マンションなどの共用部に関しても、大規模修繕の実施状況や、管理委託会社の変更時期とその理由、管理費・修繕積立金の金額改定時期とその理由、ゴミ置場火災、エレベーター事故などといった情報も記録されれば、買主も諸々吟味して購入を検討することが出来ます。

まとめ

情報のブロックをチェーンのように繫いでいく、これがブロックチェーンの原理です。もしこの仕組みが活用されれば、登記情報の漏れや売買取引における瑕疵情報の伝達漏れは解消されることでしょう。

しかしブロックチェーンは未だ開発途上であり、今後どのような業界で、どのように利用されるのかも未知です。現段階で試験的な動きがみられるのは、金融・宝飾・食品・自動車などの業界で、権利者・商品の真贋判断、製品のトレーサビリティでの活用を模索しているようです。