「不動産投資を始めたいけれど、ちゃんと家賃が入ってくるかどうか心配」

そんな投資初心者の心理を逆手に取り、「空室でも家賃が保証される方法がありますよ」と言葉巧みに高額な新築ワンルームを売り込んでくる不動産業者がいます。

そのような業者が必ず口にするのが「サブリース」です。

今回はサブリース契約の概要と、業者による強引な勧誘・契約締結を抑制するため2020年12月に施行された「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」について説明します。

空室でも家賃が保証される「サブリース」とは?

不動産投資に興味があれば「サブリース」という言葉を一度は聞いたことがあるでしょう。

不動産オーナー(賃貸人)と入居者(賃借人)とが直接契約を交わす賃貸借契約(マスターリース)に対し、オーナーが不動産管理会社に所有物件を貸し、さらにその管理会社が第三者(実際に入居する賃借人)に又貸し(転貸)する契約をサブリース(一括借り上げによる家賃保証制度)と呼びます。

サブリース契約の多くは、新築ワンルームマンションを販売している不動産業者が、その物件を購入したオーナーと賃貸借契約を結び、その期間中は例え空室であっても不動産業者が家賃を払い続けることで月々の賃料収入を保証するというものです。

しかしこれは、顧客に新築ワンルームマンションを購入させるための「殺し文句」となっているきらいがあり、業界的には「購入者の優良誤認を招きかねないグレーな営業戦略」と考えられ、問題視されてきました。

充実のサポート体制がサブリースのメリット

グレーではあるものの、多くのオーナーが不動産業者とサブリース契約を結んでしまうのはなぜでしょう?

その理由は家賃保証だけではありません。入居者募集はもちろん、家賃の集金や室内設備の修繕対応、家賃収益の税務処理サポートなど、オーナー自身ではやり切れない業務を代行してくれる点をメリットと感じているからです。

サブリース契約を交わせば家賃は入ってきますし、入居者が決まったとしても直接やり取りする必要はありません。室内設備の不具合が発生した場合も不動産業者が対応してくれます。家賃収入は年度末までにオーナー自身が確定申告しなければなりませんが、不動産業者の税務有資格者が必要書類の作成を支援してくれます。

このようにサブリースはサポート体制が整っているため、日々多忙な物件オーナーから重宝されているのです。

サブリース契約をめぐる訴訟が頻発

毎月の家賃収入が保証される上、入居者対応や税務サポートが受けられる「至れり尽くせり」のサブリースですが、ある程度のリスクも覚悟しなければなりません。

サブリース契約の際には、不動産業者がその物件が建つ地域の家賃相場を調べ、部屋の広さや築年に見合った家賃を決めます。不動産業者はそこからリース料を差し引いた額をオーナーに支払います。このリース料は家賃の1~2割程度ですので、オーナーの取り分は8割前後になります。

家賃は定期的に見直され、当然ながら築年数が経つごとに値下がりしていきます。加えて家賃相場は経済的な影響も受けますから、不景気時には輪をかけて下がる可能性もあります。

例えば3,000万円の新築ワンルームをローンで購入したとします。設定家賃が15万円で、リース料2割(3万円)を差し引いた12万円がオーナーの利益になります。不動産業者によっては毎年家賃の見直しが行われ、月額5,000円前後の値下げを提案してくるところもありますから、ローン返済額を月々10万円程度に設定してしまうと、購入6年目以降は赤字になってしまいます。

こういった将来リスクをしっかり説明せず、あらゆる不利益情報に蓋をしたまま契約までこぎ着けるというのがサブリース契約を推奨する不動産業者の常套手段です。そのため契約の数年後に破綻するオーナーが後を絶たず、不動産業者対オーナー間の訴訟も頻繁に起こっています。以下にその例を紹介します。

「家賃保証契約期間が10年だけだった」

契約時にしっかり書面を読み込んでおけば気づくことですが、家賃保証契約に10年の期限があり、11年目以降は空室時の家賃は支払われず、リース料の支払い義務だけが残るというものです。

「現状回復費用を全額オーナー負担にされた」

実質的な賃貸借契約は入居者と管理会社の間で交わしますが、その契約に賃借人の退去時の現状回復義務について明記がなかったため、賃借人の不注意による床の傷や壁紙の汚れまでオーナー負担でリフォームしなくてはならなくなったものです。

「サブリース契約先の不動産業者が倒産した」

契約半ばにしてサブリース契約先が倒産し、管理委託している物件の賃貸借契約書は所在不明、入居者の家賃支払い状況や契約期間なども一切分からず、手の打ちようがなくなってしまったものです。

迷える不動産投資家の救世主「賃貸住宅管理適正化法」とは?

「サブリース契約をすれば家賃が保証される」という甘い言葉で投資初心者を拐かし、高額な新築マンションを購入させる行為は、グレーではあるものの違法ではありませんでした。なぜなら、この契約行為は宅地建物取引業法外で、取り締まる法律がなかったためです。

新築ワンルームマンション分譲を行う不動産業者のほとんどが自らサブリース契約し、不動産投資の初心者を強引に勧誘しているのは事実です。しかし「おひとりさま」世帯の増加により賃貸ワンルーム需要が高まる中、法によって強制的に新築ワンルームの開発・分譲を抑制することもできません。

そこで、販売方法として乱用されているサブリース契約を取り締まればいいのではないかという発想から、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(以下、賃貸住宅管理適正化法)」が生まれたのです。

ここで、賃貸住宅管理適正化法の主なポイントについて説明します。

「賃貸住宅管理業者」登録制度の創設

ご存知の通り、不動産取引を行う業者については国や都道府県に「宅建業者」の登録を行うことが義務付けられています。

しかし、不動産の管理業務についての登録は任意でした。そこで今回の法施行では、管理物件の戸数が200戸を超える不動産業者に対し「賃貸住宅管理業者」の登録を義務付けることにしたのです。登録の条件としては、「実務経験6年以上の業務管理者を選任する」「保有財産を分別管理する」「オーナーに対し管理状況の定期報告を行う」などです。

契約者(オーナー)に対する重要事項説明の徹底

これまでのトラブルの原因のほとんどは、不動産業者がオーナーに対してサブリース契約の詳細内容を説明しなかったことにあります。良いことばかりを大げさに誇張するのではなく、家賃の定期的な見直しがあることや家賃保証期間の期限などのデメリット面もしっかり説明することが義務付けられました。

この重要事項説明は、賃貸住宅管理業者の登録時に選任された業務管理者が行うものとしています。

まとめ

サブリース業者のやり口が悪質であることは事実ですが、オーナー自身も契約前に書類をじっくり読んでいれば問題箇所を発見できたかも知れません。「騙された」と嘆いているばかりではいけません。

事前に交付された契約書類を熟読する時間があり、その内容に納得して署名・押印した場合、救済されないケースがあることも心得ておきましょう。