不要不急の外出、都道府県境をまたぐ移動の自粛によって、近隣の街並みをブラブラお散歩する「街ブラ」が週末の楽しみになっているという人が増えています。

ただ散策するだけでも良いですが、併せて、その街が持つ不動産投資のポテンシャルを探ってみるのはいかがでしょうか?

今回は、街ブラを楽しみながらできる投資有望エリアの見極めポイントを解説します。

<新宿>ワンルームは若者層から高齢者へ

新宿御苑や神楽坂、思い出横丁に歌舞伎町など、バラエティーに富んだ街ブラスポットが目白押しの新宿区ですが、群を抜いて賑わっているのはK-POPの聖地・新大久保エリアでしょう。韓流アイドルのグッズショップや本格的な韓国料理が味わえる飲食店をハシゴすれば、ちょっとした海外旅行気分に浸れそうです。

このエリアには、江戸時代に幕府のSP部隊「鉄砲組百人同心」の拠点が置かれていた歴史があり、当時の長屋風情を彷彿とさせる低層建物の街並みがいまも残っています。戸建住宅が林立するなか、築2~3年程度と思われる築浅アパートも多く見られ、この街にも不動産投資の波が押し寄せているのだなと実感します。

新宿区の賃貸需要は10~20代の若者層がメインです。区内の専門学校数が23区中トップということもあり、毎年多くの新入学生が地方都市から転入してきます。年明けから春にかけて新宿駅周辺の不動産店は大混雑、築浅物件を中心に争奪戦となります。

たとえ家賃が安くても、築10年前後の物件ではインテリアに古臭さを感じてしまうようで、親からの仕送りが期待できる学生は新しい物件、とくに新築ワンルームマンションを選ぶ傾向にあります。

しかしいま、新宿区をはじめ都内全域でワンルームの新築が抑制されています。その理由は、昨今のワンルーム投資ブームで物件が過剰供給されたことにより、世帯分布が単身若者層に偏りすぎて、いたるところで真夜中の騒音問題や、ゴミ捨てのルール違反が頻発する事態となったためです。

街の平静を取り戻すため、各自治体は独自のワンルーム抑制条例を施行しており、新宿区でも以下のような条例が定められました。

◆新宿区 ワンルームマンション等の建築及び管理に関する条例
施行の目的:ワンルームマンションの新築に起因する近隣トラブルの予防と良好な住環境の保持。
新築の条件:ワンルーム住戸が30戸以上となる場合は、ワンルーム住戸のうち2割以上を高齢者仕様住戸とすること。入居を希望する高齢者の受け入れについても配慮すること。 等

以前、新宿区には学生・単身者向けの家賃助成制度がありましたが、2019年度の受付を最後に終了しています。いくら学生に助成しても、学校を卒業すれば彼らのほとんどは区外へ転出してしまいます。それならば永住が見込める高齢者の支援にシフトした方が得策、と考えたのかも知れません。

壁という壁に手すりを取り付け、段差をなくし、車イスでも出入り可能なバリアフリー仕様のワンルームとなれば、設備・施工費が今まで以上にかかってしまうことは必至です。新宿区内では今後、総戸数30戸未満の小規模マンションや軽量鉄骨造アパートが増加してくることが予測されます。

<北区>70㎡以上の賃貸戸建に勝算あり

日本資本主義の父・渋沢栄一氏が新たな一万円札の「顔」になることが決まりました。日本初の銀行設立をはじめ、電気・ガス・繊維・製紙といった企業の創設など、渋沢氏のバイタリティ溢れる活躍ぶりは大河ドラマの題材にも取り上げられるほどです。

創設企業の一つである「抄紙会社」(現在の王子製紙)の創業地は北区・王子エリアにあり、その跡地は現在「紙の博物館」として公開されています。そしてその周辺にも、「渋沢史料館」や「飛鳥山博物館(大河ドラマ館)」といった渋沢氏ゆかりの街ブラスポットが集結しています。

「住めば、北区東京。」をブランドメッセージとする北区では、子育てファミリー層の定住化を重要課題としており、区外への転出を抑えるため、区内の賃貸住宅へ引っ越すファミリー世帯に対して転居費用の助成を行っています。

◆北区 ファミリー世帯転居費用助成
助成の対象:北区に1年以上居住しており、18歳未満の子どもが2人以上いる世帯。
助成金額:礼金と仲介手数料の合算額で、上限30万円まで。
助成の条件:転居前より広い区内の民間賃貸住宅に転居すること。等

この助成制度のネックは、これまで住んでいた賃貸住宅より面積が広い住宅へ引っ越すことが条件になっている点です。北区内のファミリー向け賃貸マンションのボリュームゾーンは40~50㎡台であり、60㎡以上の物件は希少です。直近の入居者募集状況を見ると、60㎡以上の募集件数は40~50㎡台の1割程度しか出ていません。要するに、現状(40~50㎡台)より広い物件へ転居したくても、広い(60㎡以上)物件を見つけることは困難だということです。

渋沢氏よろしく、実業家目線に立って「無いものは造ればいい」と考える人はいるようです。転居先はマンションに限られている訳ではありません。地元不動産業者の話では、不動産投資家が古い戸建住宅を買ってリフォームし、賃貸運用しているケースが増えているというのです。

北区では、昭和後期~平成初期築で建物面積70㎡以上の戸建が1,000~2,000万円台程度で手に入るため、リフォーム代を含めても初期出費は3,000万円程度で済みます。もしその物件で月額20万円の家賃が入れば、最低でも8%の利回りが見込めます。

<台東区>アーティストに特化した賃貸経営

台東区で街ブラといえば「谷根千」、すなわち谷中、根津、千駄木といった下町風情溢れる商店街の散策が思い起こされますが、近年沸々と人気度が上がっているのは「東京のブルックリン」と称される蔵前・浅草橋エリアです。

その名の元祖となったアメリカ・ニューヨーク市のブルックリンは、感度の高いクリエイターやアーティストの集まる街として知られています。彼らはイーストリバー周辺に点在する廃工場や倉庫跡をアトリエやサロンに改装し、自分やゲストが寛げる空間として楽しんでいます。近年の蔵前・浅草橋エリアにおいてもこれと似たムーブメントが起こっており、隅田川沿いに林立する空きビルや作業場跡を有効活用しようというアーティストたちが、アトリエやギャラリー、カフェやレストランを続々オープンさせているのです。

台東区はそもそも、宝飾品加工や革工芸といった「ものづくり」の専門業者が多い場所です。そのため、ものづくりを通して起業を考えている若手アーティストに対する手厚い公的支援も用意されています。

◎台東区 アトリエ・店舗出店支援助成金
助成限度額:100万円(対象経費の1/2以内)。
助成対象経費:工房・店舗を新規オープンする際の店舗内装工事費や広告宣伝費。
助成対象者:台東区内に本店がある中小企業または個人事業主。

工房・店舗スペースの状態として具体的に求められているのは、「ものづくりの現場が外部の通行者から容易に見えるようにすること」です。もしこのエリアで不動産投資を考えるなら、外部から可視性の高い「路面店舗」の取得が理想的といえます。賃貸物件を探しているアーティストからの問い合わせも1階店舗や1棟ビル・戸建への問い合わせがほとんどで、助成金への期待が大きいことが分かります。

まとめ

コロナ禍でなかなか遠出はできないものの、身近な街を見渡せば意外な魅力が発見できるものです。とくに東京23区は歴史や文化が息づく「街ブラ」の宝庫といえます。仕事の合間で立ち寄れなかった「気になるスポット」へ改めて出かけてみたり、そのついでに投資家目線で街を眺めてみるのも、趣味と実益を兼ねた有意義な休日の過ごし方になるかも知れません。