オリンピック特需を受け、各地で大規模な再開発が目白押しです。虎ノ門、渋谷、そして下町の立石にまでその波が迫っています。しかし、今年になって想定外のコロナ禍襲来、オリンピック延期…。都心の大規模再開発の行方はどうなるのでしょうか。そして、話題となった選手村改装マンションの売れ行きは? 気になる再開発現場の近況をレポートします。

「あべのハルカス」を超えるビッグプロジェクトが始動

2019年夏、森ビル株式会社を主体とする再開発事業「虎ノ門・麻布台プロジェクト(虎ノ門・麻布台地区第一種市街地再開発事業)」の現場工事がスタートしました。これは、同社の代表的な再開発事業である六本木・表参道・虎ノ門ヒルズシリーズの「未来形」と称されるビッグプロジェクトです。虎ノ門、麻布台、六本木の3町にわたる広大な敷地内には、大阪「あべのハルカス」の高さを超える高層メインタワーをはじめ全4棟が配置され、それぞれの建物にはホテルやインターナショナルスクール、商業・文化施設が入居する予定です。4棟の建物を結ぶのは、緑豊かな遊歩道と中央広場。都心にいながら自然の潤いを感じられる環境が整備されます。

このエリアの歴史を紐解くと、古くは「麻布我善坊(あざぶがぜんぼう)町」と呼ばれ、江戸時代には芝・増上寺に所縁のある武家一族の法要が行われたと語り継がれています。この由緒ある土地に長く住み続けていた世帯も多かったため、地域住民との協議には時間がかかりました。スタートは1989年、麻布我善坊地区の町内会と「街づくり協議会」を設立したのを皮切りに、同年内に他の2つの町内会とも協議会を設立、4年後の1993年に「虎ノ門・麻布台地区市街地再開発準備組合」として3町の協議会をまとめ、2016年に都市計画提案、2017年に都市計画決定と、2019年の着工までに30年余の歳月を経ています。

コロナ禍による緊急時代宣言発布時、建設現場での感染リスクが高まったために現場作業所が一時閉鎖となったこともありましたが、現在は通常工程に戻っています。竣工は2023年春予定です。

渋谷の「谷」を克服できるか?街の動線改良プロジェクト

渋谷駅の周辺でも大規模な再開発事業が進行中です。渋谷駅はJR・私鉄の合計8路線が乗り入れるビッグターミナルですが、各路線への乗り換えは非常に複雑です。半蔵門線、副都心線、東急東横・田園都市線は地下に、JR線と銀座線、井の頭線は地上2・3階に改札があります。

なぜこのような配置になったのかは、渋谷独特の起伏に富んだ地形に由来します。地名からわかるように、渋谷駅がある周辺の土地は「谷」になっており、それぞれの線路を地表に敷設することが難しかったのです。そのため駅のホームを高架にするか、トンネルを掘って地下に設置するか、どちらかの方法を取るしかありませんでした。加えて地表には国道246号線(青山・玉川通り)、明治通り、六本木通りという都内屈指の交通量を誇る幹線道路が走っています。特徴的な地形と都心の大動脈に阻まれて、渋谷駅を利用する人々は空中に登ったり地下に潜ったりして鉄道乗り換えをするしかありません。この悪しき動線の改良は渋谷区の長年の課題でした。

谷間のアクセスをスムーズにするべく、渋谷区は地権者の一社である東急株式会社とともに「渋谷駅周辺再開発プロジェクト(渋谷駅街区土地区画整理事業)」を立ち上げ、2010年度から2026年度にかけて駅前整備を実施することで合意しました。

鉄道各線間の乗り換えについては、立体的な歩行者動線「アーバン・コア」で地下の路線と高架の路線とをつなぎ、スムーズかつ快適な動線を確保していきます。このアーバン・コアは、すでに開業している「渋谷ヒカリエ」「渋谷ストリーム」、そして2019年秋に開業した「渋谷スクランブルスクエア(東棟)」「渋谷フクラス」に装備され、さらにこれらのビル間もペデストリアンデッキを介して横方向でつながります。

次に一般歩道に関する課題です。渋谷駅の東口と西口間を徒歩で移動する場合、地下道や歩道橋を利用しなければならず、直線で200m程度の距離でも徒歩8分(実質歩行距離640m)かかってしまいます。この問題を解消するため、桜丘口地区の再開発工事が現在進行中です。2026年度のプロジェクト完了までに、東口・西口それぞれの駅前広場が整備され、さらに東西の駅前広場をつなぐ「自由通路」が開通する予定です。

同プロジェクトにかかわる複合ビルのほとんどは2019年度中に開業しており、残るは渋谷スクランブルスクエア(中央棟・西棟)と、桜丘口地区に建つ再開発ビルのみとなりました。最先端の街・渋谷の大規模リニューアルに大いに期待したいところです。

下町の人気飲み屋街にも再開発の波が

「千ベロ(=千円でベロベロに酔える)の聖地」ともいわれる京成押上線「京成立石」駅前の再開発が始まっています。現在施行されているのは駅北口(立石駅北口地区第一種市街地再開発事業)で、地下2階・地上35階と地下3階・地上13階の複合ビル2棟が建設され、完成後は葛飾区役所本庁舎などが入居する予定です。昔ながらの味わいある商店街の取り壊しを惜しむ声もありますが、京成押上線の連続立体交差や狭隘道路の拡張工事とも連携しているため、街のインフラが整備される事業を受け入れざるを得ません。

線路を挟んだ駅南口の再開発も予定されています。南口は午後2時の開店から満席の居酒屋「宇ち多゛」や立ち食い寿司の「栄寿司」など人気店が林立するエリアです。細い路地状の商店街には惣菜店や生活雑貨店がひしめき合い、どの店も活気に満ちています。こちらも狭隘道路や老朽化した建物が多いため、再開発は必至なのかもしれません。

関係者は「メディア等でも取り上げられている飲み屋街など、良いところは継承していきたい」(葛飾区都市計画審議会会議録より)と考えているようです。この風情を残しながら新たな街づくりを考えるとなると一体どのようなマスタープランが出来上がるのか楽しみです。

オリンピック延期でどうなる?「晴海フラッグ」の近況

オリンピック選手村のクラブハウスをリフォームして分譲販売するという、斬新なアイディアで注目を浴びた「晴海フラッグ」。総戸数5,632戸(賃貸住宅含む)の住宅と、店舗、保育施設、介護住宅、商業施設を併設する大規模複合開発の街は、いまどうなっているのか気になります。

同物件のホームページには「第32回オリンピック競技大会、および東京2020パラリンピック競技大会の延期を受けて、現在は販売活動を一時休止しています」とあるので、主立った販売活動は行っていないようです。すでに第1期販売は終了し契約者もいますが、もともと2023年引き渡しだったものが1年遅れてしまうため、解約を希望している人もいるとのこと。都心・湾岸エリアの新築マンションとしては低価格(坪単価300万円前後)の物件ですが、今後のオリンピック開催も先行き不透明ですし、いまのところ、前向きに検討しようという人は少ないかもしれません。

まとめ

東京オリンピックの開催を見込んで、東京都内の各エリアで再開発事業に拍車がかかりました。虎ノ門では30年間も頓挫していた事案が動き出し、渋谷ではこれまで交わる機会がなかった区と鉄道が団結し、立石では希少な昭和の下町の風景が消えつつあります。「必要悪」という言葉がありますが、オリンピックを起因とする再開発も、そしてコロナ禍も、それに当てはまるのかもしれません。再開発は都市機能を向上させ、コロナ禍は新しい生活様式を私たちにもたらしました。いまが変革のときと受け止め、この時代を賢く生き抜いていきましょう。