最近さまざまな分野から聞こえてくる「サスティナブル(またはサステナブル)」という言葉をご存知でしょうか?

これは、人類の未来に大きな革新をもたらすキーワードです。そして不動産業界においても、この理念を採り入れた事業活動が始まっています。

「丈夫で長持ち」だけでは革新は起こせない

サスティナブルを日本語に訳すと「持続できる」「耐え得る」という意味になります。この言葉に「不動産」を組み合わせると「持続性・耐久性の高い建物」というような意味合いになります。

「雨風や地震に強い“100年長持ち住宅”を造ります」

サスティナブルな不動産をキャッチフレーズで表すとこんな感じです。しかし、これでは「人類の未来に大きな革新」を起こせる気はしません。そこで、サスティナブルブームの火付け役となった「SDGs(エスディージーズ)」について理解を深める必要があります。

SDGsとは、2015年に国連で採択された「Sustainable Development Goals(サスティナブル・ディベロップメント・ゴールズ=持続可能な開発目標)」の略称です。SDGsには「貧困をなくそう」「質の高い教育をみんなに」「気象変動に具体的な対策を」「平和と公正をすべての人に」といった<17の目標>が掲げられています。17項目すべてを要約すると「地球上に暮らす生き物すべてが平等かつ幸せに暮らせる環境を維持するための努力目標」という感じでしょうか。

この壮大なテーマに則った活動が、いま世界各国の企業・団体によって推し進められているのです。

不動産業界におけるSDGsへの取り組みとは

再生可能エネルギーで暮らしをクリーンに

<17の目標>の中にある「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」からアイディアを得た再生可能エネルギー採用の住宅企画が生まれています。屋根に太陽光発電設備を取り付け、余分なエネルギー消費を抑える高気密・高断熱工法を採用することでクリーンエネルギーの創出と環境面への配慮を実現しています。

そのほか、IT技術により住宅内の家電製品やガス機器操作をコントロールしながらエネルギー消費を最適化する「スマートハウス」を建築する企業も増えています。これは<17の目標>の「産業と技術革新の基盤をつくろう」にもつながる取り組みです。

健康的な暮らしのために自然由来の建材をチョイス

人体に有害なホルムアルデヒドの発生を減らすために、化学物質を原料とする建材を極力使用せず、無垢材や漆喰、珪藻土など自然由来の建材を多用した住宅建築を心がけている企業もあります。この取り組みは<17の目標>にある「すべての人に健康と福祉を」に当てはまります。

しかしながら、自然の木材を多用した住宅建築が推進されると森林伐採による環境破壊が懸念されます。<17の目標>のひとつ「つくる責任つかう責任」にならい、建物を造る側が必要最低限の資材だけ確保して環境を守るという心がけも忘れないでほしいものです。

ユニバーサルデザイン採用で、誰もが便利で快適に

障害者や高齢者など、身体・体力的なハンディを抱えた人たちが不便を感じることなく暮らせる環境、すなわち「ユニバーサルデザイン」を採用した住まいや街並みづくりを実践することで、<17の目標>にある「住み続けられるまちづくりを」を実現している企業もあります。

「スマートシティ」はサスティナブルな不動産の集大成

ここまでは一戸の建築企画においてどのようにSDGsが採り入れられているかを紹介してきました。次に、<17の目標>が見事に具現化されたサスティナブルな不動産の集大成、「スマートシティ」について紹介します。

スマートシティとは、IOT技術によって交通、医療、防災、教育などの環境基盤を統制することにより、その街で暮らす人々の生活の質を高め、便利さや快適性を持続してゆく地域包括的な取り組みのことです。スマートシティの軸となるのは、自動運転を採用した公共交通システムの構築や、学校・病院・役所などと各家庭とを結ぶIT環境の整備です。

スマートシティは全国15都市で計画進行中

海外ではすでに複数の都市でスマートシティが稼働しており、世界のスマートシティ・ランキングまで発表されているほどです。上位各国の取り組みで評価されているのは、貧困地域における衛生環境の向上や公共交通機関の整備状況、リサイクルサービスの充実などです。

日本国内では、国土交通省の主導によりスマートシティ実現に向けた施策が進められており、現在は以下の15都市において先行モデルプロジェクトが進行しています。

北海道札幌市:ICTにより健康・快適を実現する市民参加型スマートシティ
秋田県仙北市:イノベーションの駆動力としてのスマートシティ
茨城県つくば市:スマートシティ「つくばモデル」
栃木県宇都宮市:宇都宮スマートシティモデル
埼玉県毛呂山町:毛呂山町スマートシティ先行モデル事業
千葉県柏市:柏の葉スマートシティ
東京都千代田区:大手町・丸の内・有楽町地区スマートシティ
東京都江東区:豊洲スマートシティ
静岡県熱海市・下田市:「VIRTUAL SHIZUOKA」が率先するデータ循環型SMARTCITY
静岡県藤枝市:ふじえだスマートコンパクトシティ
愛知県春日井市:高蔵寺ニューモビリティタウン
京都府精華町・木津川市:スマートけいはんなプロジェクト
広島県三次市:中山間地・自立モデル検討事業
島根県益田市:益田サイバースマートシティ
愛媛県松山市:松山スマートシティプロジェクト

各都市が掲げる達成目標は、住みやすさ、観光事業の推進、防災能力の強化、居住者の健康増進、交通インフラの整備、農業事業の推進、CO2排出量の削減、AIデバイス利用者数の促進、高齢者対策、Iターン・Jターン・Uターン転入者勧誘による労働人口の確保などです。これらの目標を同時並行でクリアできれば理想的ですが、優先順位を決めて一つずつクリアをめざす都市もあります。

例えば静岡県藤枝市では、20歳代若手層や子育て世代の転入と関係人口(移住や観光ではないものの、何かしらの目的で他地域から訪れる人の数)の増加に的を絞っています。また広島県三次市では、公共交通機関の充実や、バス・タクシー会社と連携した域外移動サービスなど、交通の便が乏しい中山間部における交通インフラの充実に力を注いでいます。

観光事業の発展に尽力しているのは、北海道札幌市(札幌市時計台やさっぽろ羊ヶ丘展望台など)、栃木県宇都宮市(宇都宮餃子や大谷石採掘場跡など)、静岡県熱海市(熱海サンビーチや熱海温泉など)、愛媛県松山市(松山城、道後温泉など)で、いずれも独自の観光資源を活かした地元産業の活性化をめざしています。

高齢者の生活改善に力を入れているのは茨城県つくば市と愛知県春日井市です。つくば市では高齢者が身軽に活動できるよう顔認証技術を用いた公共交通サービスを構築し、春日井市では老人介護認定率の向上をめざしています。また千葉県柏市では、医療施設を頻繁に利用する高齢者のためインターネットによる診察予約システムを導入し、診察までの待ち時間短縮を図っています。

まとめ

サスティナブルな不動産とは「100年長持ち住宅」から「スマートシティ」に至るまで広義です。SDGsについても個人や一企業であれば身近なことから着手すればいいと思います。

SDGsの理念では、持続可能な社会を創るため、限りある地球資源を皆で共有することを最大目標としていますが、所有欲旺盛な日本人がこの理念をどこまで許容できるのか、そのあたりが今後の課題になりそうです。