「不動産の資料取り寄せや物件の内見は何度もしたけれど、実際に購入するのは初めてで、どうしたらいいか分からない」という人は多いと思います。基本的には不動産仲介業者がサポートしてくれますが、すべて任せきりではいけません。希望の不動産がどのような過程を経て自分の所有物になっていくのかを理解しておきましょう。

不動産売買の基本フロー

ネットやチラシで購入したい物件を見つけたら、すぐにその物件を仲介(媒介)している不動産会社に問い合わせましょう。不動産会社は次のような流れで段取りを取ってくれます。

①買付証明書の発行

不動産売買は「買付証明書」を売主に送ることから始まります。

この証明書には購入希望者(買主)の名前、住所、購入希望額、代金の支払い方法、契約・引き渡し希望日などを記載します。購入希望額は販売広告に載っている金額以外でもよく、ある程度値引きしてほしい場合は「指値(値引き交渉額)」で記入しても問題ありません。不動産投資上級者は、必ずといっていいほど指値をします。

しかし、どうしてもこの物件を手に入れたいという場合は勝負に出ず、「満額(広告金額)」で提示した方がいいでしょう。買付が殺到する人気物件は「買い上がり(広告金額より高い金額提示)」される場合もあります。

②価格交渉

指値をした場合は、売主との価格交渉が始まります。これは売主側と買主側、それぞれの仲介業者が代行します。300万円、250万円、200万円と値引き幅を狭めていき、お互いの利潤に叶う値になった時点で交渉成立です。この段階で、売主から買主へ「売渡承諾書」が発行され、契約へと進みます。

③契約

売主・買主の日程調整が済み、契約日が確定したら、仲介業者は売買契約書(以下「契約書」)と重要事項説明書(以下「重説」)の作成を始めます。できれば契約日の数日前までに重説のドラフト(書類案)を確認しておくべきです。

不動産契約のキモは契約書ではなく重説です。重説は基本、契約時に仲介業者所属の宅建士が「すべて読み上げる」のがルールですが、真面目に読んだら2時間以上かかるため、宅建士は契約に不慣れな買主でも分かるように、聞いておいてほしい要点だけをピックアップして読むことがほとんどです。

そのため、契約前にドラフトを熟読しておくことは極めて重要です。

もし、重説のなかに腑に落ちない内容、とくに買主にとって不利益なことが書いてあったら、契約当日でも質問しましょう。売主・買主ともに納得できれば、契約当日の書類訂正も可能です。

④引き渡し

一般的に引き渡し日は「大安」が好まれます。金融機関で融資を受ける場合は、引き渡し会場としてその金融機関の応接室などを借りることができるので、大安の平日、午前中で日程を組むといいでしょう。

引き渡し日に行うのは、売買残代金の振り込みと、固定資産税・都市計画税の精算、オーナーチェンジ物件であれば賃料・預かり敷金の精算、司法書士による所有権移転登記の事務手続き程度です。

各種精算金は残代金から差し引き、司法書士報酬および登記印紙代は現金でのやり取りが一般的です。精算金を差し引いた残代金が確定したら、買主は売主の口座に送金を行います。売主口座への着金が確認できた時点で司法書士が法務局へ向かい、登記手続を完了させます。同時に不動産の鍵の受け渡しが行われ、引き渡しが終了します。

⑤不動産取得税の納付

不動産取得税の納税通知書は忘れた頃にやってきます。不動産の所有権が移転した日、すなわち引き渡し日からおおむね半年~1年後以降と、厳密には決まっていないようです。突然やってきた高額の納税通知書に腰を抜かさないよう、引き渡しを受けたらすぐに申請して支払ってしまうか、または支払い準備をしておくことをオススメします。

不動産取得税額の計算式は「不動産価格×税率」ですが、不動産価格とは実際に購入した金額ではなく、固定資産税評価額になります。また税率は土地・建物ともに原則4%ですが、令和3年3月31日までに取得した不動産については税率の減免措置があります。

関東と関西でこんなに違う!①固定資産税等の精算

固定資産税・都市計画税(以下「固都税」)の納税義務者は、その年の1月1日時点の不動産所有者です。そして、その納税通知書は5月下旬~6月上旬に届きます。もし同じ年の2月1日にその不動産を売却して他人の手へ渡ったとしても、その年の固都税納税通知書は元の所有者のもとへ届くことになります。売主・買主ともに後日改めて精算するのでは二度手間になるので、引き渡し時に前年度の固都税額で精算してしまうのが関東式です。

例えば引き渡しが2月1日の場合、1月1日を起算日とし、売主は1月1日~31日までの31日間、買主は2月1日~12月31日までの334日間の固都税を負担することになります。一方、関西では4月1日を起算日とする取引が多く、その方法に当てはめると、売主は前年4月1日~1月31日までの306日間、買主は2月1日~3月31日までの59日間の負担となります。

関東と関西でこんなに違う!②オーナーチェンジ物件の「預かり敷金」

投資用不動産を購入した場合、そこに賃借人がいれば家賃が発生し、預かり敷金もあるはずですので、これらの精算も必要になります。こちらは固都税精算ほど複雑ではなく、引き渡し当月分の日割り計算で済みます。2月1日引き渡しなら、売主が1月中に集金した2月分家賃と預かり敷金分を残代金から差し引けば完了です。

関西のオーナーチェンジ物件でよくあるのは、預かり敷金(または保証金)を買主に引き渡さないケースです。その理由として売主は「前の売主から引き渡されなかった」とか、「敷金も礼金と同じくオーナーの利益」などといいます。しかし賃貸借契約書には、契約時に預かった敷金の金額が明示されているので、退去時に賃借人から返還を求められるリスクがあります。

まとめ

不動産契約は細かな取り決めが多く、忙しい人や判断しきれない人は「すべて仲介業者に任せきり」になっても仕方ないでしょう。しかしそれをいいことに、売主・買主双方の仲介業者同士が顧客に確認せず、自分たちの作業効率を優先して決めてしまうケースも多々あります。

例えば古都税の精算方法(1月1日にするか、4月1日にするか)、手付金の額(とりあえず売買代金の10%で)、土地・建物それぞれの価格表記や消費税額(ブランクにしておく)、契約日や引き渡し日の設定(自分たちの定休日は避けたい)など。売主と買主双方の希望を調整しながら決めなければならないものを仲介業者間で決めてしまい、それぞれの顧客に「一般的にはこのようにやっていますから」と納得させているのです。

とは言え、これらの内容はすべて重説に記載されているものです。契約の数日前までに重説のドラフトを入手して、自らじっくり確認しましょう。「これは納得いかない」という内容を発見したらすぐに仲介担当者へ連絡し、売主側に重説の訂正を交渉してもらいましょう。契約書にサインしてしまったら、その段階で重説の内容も確定します。契約後に「説明されてない」と嘆くことのないよう、しつこいくらい熟読し、質問しましょう。

不動産取引のルールは複雑で、地域によって見解の相違もありますが、当事者間の交渉においては「こうあらねばならない」という決まり事はありません。すべてに疑問の目と意見を持って取引に臨みましょう。