「都心立地のワンルームなら10㎡台でも借り手が付く」というのは過去の話。今は最低でも25㎡以上、その上コロナ禍によるテレワーク勤務が増えて、「もう1部屋あれば…」という声も聞かれるようになりました。

賃借人はどんどん広い部屋へ引っ越して行き、新たに入居者募集をしても反響はゼロ、半年以上も空室状態が続いてしまうなど、10㎡台狭小ワンルームのオーナーは窮地に立たされています。

そこで、部屋の面積はそのままに、限られた住空間を広く効率的に活用できる「ミニマム・マルチ家具」のアイディアを探してみました。

もはや「狭小ワンルーム」は戦力外?

平成期のワンルーム投資では15~19㎡程度の狭小タイプが主流でした。都心にある個人宅や町工場跡地をマンションデベロッパーが安く仕入れて、法が許す限り戸数の多い賃貸マンションを新築し、投資家たちに分譲します。部屋の面積が狭いぶんグロス価格は低く抑えられているので、不動産投資の初心者も「ローリスク」と判断して躊躇なく購入していたようです。

このような「ワンルーム商法」は不動産業界で一大ブームとなり、街中に細長いエンピツ型のワンルームマンションが増殖していきました。しかし、昔からの地元住民とワンルームに住む若い賃借人たちとの融合は難しく、「ゴミ捨てのルールを守らない」「夜中に騒いだり、大音量で音楽を聴いている」など、新参者によるルール違反を訴えられるようになります。

それに加えて、一部不動産業者による強引な販売営業が原因で、半ば無理やり買わされた素人投資家のローン破綻が急増するなど、ワンルーム商法自体が社会問題として取り沙汰されるようになりました。

これには行政側も目を瞑るわけにいかず、自治体ごとにワンルームマンション開発抑制のための条例が設けられるに至ります。ちなみに東京都内の自治体の多くは、「15戸以上の一棟マンションを新築する場合、1戸の最低面積を25㎡以上にすること」を義務付けています。そのため10㎡台の新築ワンルームは激減し、ワンルームマンションの主流は「25㎡以上」となっていったのです。

昨今のテレワークニーズにより、多くの単身ビジネスマンは「もう一部屋の余裕」が持てる新居を求めて30㎡以上・1LDK以上の賃貸マンションへと移っています。10㎡台の賃貸物件は退去が増えるばかりで新規入居者がなかなか決まらず、売買市場においても売れ残り感が顕著です。稼げない、売れない10㎡台狭小ワンルームは今後どうなってしまうのでしょう?

「保有して活かす」方法を考える

コロナ禍以降の投資用ワンルーム市況を見てみますと、都心部の築浅物件であっても利回り5~6%(表面)を望む投資家がほとんどです。もっとも引き合いが多いのは30㎡以上の物件で、10㎡台は利回りを7%以上にしないと注目してもらえません。

利回りを上げるとなると、家賃を値上げするか、売買価格を下げるかのいずれかになりますが、不人気・未入居の物件では売買価格を下げるしかありません。テレワークニーズが沸騰する現況では、20㎡台のワンルームでさえも安値で叩かれているほどです。

狭小ワンルームにとって現在の市況は最悪であるため、このまま保有して活かすことをおすすめします。要は多くのテレワーカーが望む「もう一部屋」を作ればよいのです。狭くでもアイディアを凝らせば新たなスペースを構築することはできます。

その手段の一つとして、変幻自在の家具、すなわち「ミニマム・マルチ家具」を活用する方法があります。家具の力によって新たな住空間を創造することができれば、入居者は暮らしやすさや面白さを見いだしてくれるはずです。

ミニマム・マルチ家具① Rotate(回転)

“回転”する家具のアイディアは、香港の建築系デザインスタジオ・Lim + Luが設計した「プッシュカートファニチャーシリーズ」から得ることができます。

ワンルームにひとつソファーを置いてしまうと、それだけで住空間が占領されてしまいます。Lim + Luのアイディアは、従来は横長に置いているソファーを、腰かけない時は回転させて縦に置き、ハンガーラックとして使用するというものです。

寛ぐときはソファーに、就寝時は縦に回転して衣服を掛け、余裕ができた床面に寝具を広げれば、狭小ワンルームでもゆとりを感じながら暮らすことができそうです。

この家具の応用で、ソファーの中央にアームレストを設置し、縦に回転した時にこのアームレストがタブレットサイズのテーブルになれば、ソファーの座面と背もたれの壁に包まれたテレワークスペースを作ることができます。

このように、家具の置き方を変える(=縦横回転)という発想から新たな空間を生み出すことが可能となります。

ミニマム・マルチ家具② Transform(変身)

インダストリアルなデザインで定評のあるブランド・Trent Austin Designの「コンバーチブルダイニングテーブル」は、5段の本棚だった家具が一瞬にして卓球台ほどの大きなダイニングテーブルに“変身”します。その仕組みは、本棚の棚板部分を水平方向にスライドさせることにより、棚板同士が横方向に繋がってテーブル状になるというものです。

10㎡台の部屋に大きなテーブルを常に置いておくのは非現実的ですが、複数の友人が遊びに来た時など床に食材を並べてパーティーするのではあまりに貧相です。そういった機会のためにこのような本棚兼テーブルを常備しておけたら大変重宝です。

ミニマム・マルチ家具③ Fold(折りたたむ)

壁面の一部にベッドを組み込み、就寝の際には壁を斜めに下ろすように引き出す「ウォールベッド(またはウィングベッド、プルダウンベッド、マーフィーベッドなどとも呼ばれています)」も限られたスペースを有効活用できる家具のアイディアです。

狭小ワンルームの住空間を大きく占有してしまっていたベッドを“折りたたむ“ように壁面へと収容できるもので、1970年代のワンルームマンションにもよく採用されていた建付け造作です。近年の新築物件ではほぼ見られなくなりましたが、コロナ禍におけるテレワークニーズをきっかけに再評価されるかもしれません。

折りたたむというスタイルでは、本棚の一部に組み込まれた板材を引き出すと読書机になる「ライティングビューロー」の考え方とも重なります。ライティングビューローはアンティークショップでも取り扱われる歴史のある西洋家具です。

ライティングビューローもウォールベッドと同様に「スペースを有効活用する」というコンセプトのもと誕生したもので、住宅規模が大きい西洋の暮らしにもそういった概念があるのかと意外に思いますが、より広い住空間を望む気持ちは万国共通ということなのかもしれません。

まとめ

住空間を占有する大きい家具を「回転させる」「変身させる」「折りたたむ」ことにより、住まいの有効面積を増やすことは可能です。

ここでは世界各国で製作されているミニマム・マルチ家具数例について紹介しましたが、オーダーメイドであったり、1点物であったりとほとんどが入手困難です。しかし、これらのアイディアからインスピレーションを膨らませて、お付き合いのある工務店やリフォーム業者の協力も得ながらオリジナル家具を造るという手もあります。

通常より施工費は少々高額になってしまうかもしれませんが、原状回復リフォーム時にこれらミニマム・マルチ家具の造作を付け加えれば、30㎡超物件にも引けを取らない、空室知らずの賃貸物件に生まれ変わるかもしれません。