戦後から数十年間も塩漬けになっていた「都市計画道路」事業がオリ・パラ特需を起爆剤に続々と認可され、各地で用地買収がはじまっています。「予定は未定」と高を括っていた道路沿いの地主も事業決定となれば後の祭りで、建物諸共立ち退きを要求されることになります。

そこで、現在所有している土地の一部または全部が都市計画道路予定地である場合、事業決定される前にどのような対策を打っておくべきかについて検証します。

オリ・パラを機に道路拡張工事が活性化

「都市計画道路」とは、将来的な交通量の増加を想定して、それに相応しい車線拡張を行うための工事が計画されている道路のことをいいます。

都市計画道路予定地(以下、道路予定地)においては、事業決定(=工事に向かって動き出すこと)されるまでは、一定の制限(土地の利用範囲や、行政の建築許可等)をクリアすれば建物の建築はできます。

そのため、道路予定地が含まれている土地であっても「住宅用地」として販売されているケースは多々あります。都市計画道路の多くは戦後間もない昭和20年代から同40年代頃に計画されており、これまで事業決定された事例が少なかったため、一部の不動産業者は「予定は未定ですから、半永久的に工事ははじまらないかもしれませんよ」などと営業していたほどです。

前述の通り、新築の際には一定の制限が課されるため、道路予定地を含む土地の販売価格は周辺相場より低めに設定されるのが一般的です。たとえ駅に近く利便性に恵まれた場所であっても、「道路予定地であれば格段に安く購入できる」というのが定説でした。

しかし、2度目の東京オリンピック誘致が決定して以降、長年塩漬けとなっていたこれらの工事計画がポツポツと認可され、その定説が崩れはじめたのです。

都市計画道路事業のフロー

ここで、都市計画道路事業がどのように進んでいくのかについて説明します。

➀計画決定

将来的に「拡幅工事が必要」と考えられる道路を対象に法的な手続が行われ、都市計画道路事業の計画が決定されます。

②実施計画の検討・地元説明会の実施

対象道路のどの箇所をどのように整備・拡張するかについて検討が重ねられ、その後、地元自治会や地域住民、地権者への説明が行われます。

③事業決定(事業認可)

都市計画法に基づいた事業計画書が作成され、その計画書をもとに都道府県が事業認可を下した段階で、工事に向けて本格始動することが確定します。

④土地買い取りのための調査・話し合い

事業計画書に基づき、道路拡張に関わる各地権者の合意を得て測量作業が行われます。その後、詳細な道路工事図面が作成され、土地の買い取り価格や、既存建物の移転・改築・取り壊しにかかる補償額についての話し合いが持たれます。

⑤工事開始

土地の買収価格や補償額、転居スケジュールなどについての話し合いが決着すると、いよいよ工事開始です。道路工事日程に併せて沿線の建物が撤去・解体されるので、土地上の住民は順次転居していくことになります。

上記➀~②までの期間であれば、道路予定地であっても売買は可能ですし、建物の新築・増改築もできます。問題は③の「事業決定」となった後です。この段階で土地は「自治体の収用」という取り扱いになるため、売買取引は凍結されてしまいます。

ある日突然、「事業決定」となってしまったら…

事業決定の期日について事前予告はありません。売買の話がまとまる直前であっても、事業決定となれば契約は難しくなります。役所による測量調査や地元説明会がその前兆と捉えられますが、地域住民の反対意見が多く、計画が頓挫するということもあります。

ただ、今回のオリ・パラ特需によって各方面が経済的に潤い、予算ができたため、本格工事に向けて着々と進んでいる事例は少なくありません。

事業決定以降、道路予定地は自治体に買い取られ(=収用)、土地上の建物は撤去・解体されることになります。

そこに暮らす住民は別の場所へ転居するか、部分改築で済む場合でも工事中は仮住まい先へ引っ越すことになるのですが、その際にかかるほとんどの費用は自治体が補償してくれることになっています。その補償内容は以下の通りです。

・土地買い取り代金(最新年の公示価格、近隣取引価格等をもとに決定)
・建物移転補償(建物撤去・解体、移転費用等)
・仮住居補償(一時転居が必要な場合)
・営業補償(店舗・工場等で一時休業が必要な場合)
・工作物移転補償(門、塀、庭石等の移転費用)
・立竹木補償(庭の植木等の移転費用)
・動産移転補償(家財道具、店頭商品、事務用備品等の移転費用)
・借家人に対する補償(賃貸物件の場合、借家人の転居費用等)
・家賃減収補償(賃貸物件で、移転中に家賃収入が入らなくなる場合)

公示価格などをベースに算出される土地売買代金は、道路予定地であるため相場価格より安く購入した当時より高めに査定される傾向にあります。

そのため、土地所有者にとっては想定外の収益となる可能性があります。そういった利幅を見込んで、計画決定前の土地を買い占めている投資家もいます。

売却するべきか? 現状維持か?

収用による売却益を目的に購入した投資家は別として、先祖代々暮らした土地が不運にも道路予定地にかかってしまった後継地主、または道路予定地のリスクを重く捉えず購入してマイホームを建ててしまった若いファミリーは、今後どのような対策を練れば良いのでしょうか。

まだ事業決定されていない段階であることを前提に、以下3つのケースで考えてみました。

・所有地全体が道路予定地に含まれている場合

たとえ相場より大幅に価格を下げたとしても、第三者への売却は大変難しいと思われます。愛着のあるマイホームであれば、その役割を終える日まで暮らし続け、計画決定後に自治体から買い取り・補償のお金を受け取って新居へ移ることをおすすめします。

また、建物がアパートなど賃貸住宅の場合は、賃借人に対し計画決定後の速やかな退去が促せる「定期借家契約」を結んでおくことも必要です。

・所有地の半分に道路予定地がかかる場合

土地面積や用途地域指定の違いによって判断は異なりますが、概ね15~20坪(約50~60㎡)以上の土地が残るのであれば一戸建て住宅は建てられるので、それを前提とした売買ニーズは期待できそうです。

加えて工事完了後、前面道路が拡張することで路線価が上がり、それに同調して土地評価額が高くなる可能性もあります。暮らしに余裕があれば、そのまま保持して価格上昇後に売却するという手もあります。

・所有地のほんの一部に道路予定地がかかる場合

道路予定地の面積が10㎡程度などごく少ない場合は、私道(42条2項道路)に面した土地のセットバックと同様と考えることができます。

対象土地が駐車場の一部、または建物の改築が生活に支障のない程度であれば、計画決定前に売却を考える必要はないでしょう。苦労するのは建物改築中の仮住まい期間程度で、その後は以前と同じように生活を再開できることでしょう。

まとめ

都市計画道路事業の多くは昭和中期に起案された計画であり、これまであまり具体化されていませんでした。しかし、このたびのオリ・パラ開催によって都市のインフラ整備が求められ、潤沢な予算も充当されたために「予定は未定」といわれ続けた事業が実行されるに至りました。

都市計画道路事業の事業決定(事業認可)がいつ下りるかはわかりません。道路予定地の土地所有者はその時に備え、土地の特性に合わせた対応を考えておくことが賢明です。