今、「ドローン(小型無人機)」の商業利用が話題になっています。
ドローンといえば、オリンピック開会式の演出で登場するなど多方面で活用されていることはご存知の通りです。全国にスクールも増え、今後益々ビジネス需要が高まる分野といえるでしょう。

そこで、不動産業界におけるドローン活用法について、すでに実践されている斬新なアイディアや、今後実現が期待される活用構想まで幅広く紹介します。

ドローンを飛ばすための基本ルールとは?

ドローンは、いつでもどこでも好き勝手に飛ばせるわけではありません。主だった規制がなかった過去、首相官邸にドローンが侵入・落下したり、林野火災時に不審なドローンが現場を飛び回って消火活動を妨害するなど、ドローンに関わるさまざまな迷惑事件が発生しました。

これらの事件をきっかけに、一定以上の重量があるドローンの飛行を規制する「航空法」の法改正が行われ、原則として以下のエリアがドローン飛行禁止区域に定められました。

ドローン飛行禁止区域

・空港周辺
・緊急用務空域(災害時の捜索・救助等活動に当たる航空機の飛行が想定されるエリア)
・地上150m以上の上空
・人口集中地区(DID=Densely Inhabited District)
・国の重要な施設等の周辺(国会議事堂、首相官邸、裁判所、皇居・御所、政党事務所等)
・大使館など外国公館の周辺
・防衛関係施設の周辺
・原子力事業所の周辺

これらの規制はあくまでも「原則」です。空港周辺や大使館の近くにも民間所有の土地や建物はありますから、そこでの飛行を全面禁止されてはドローンの商業利用に支障を来たしかねません。そういった場合は、飛行予定日の概ね10日前までに行政窓口へ申請し許可が得られれば、これらのエリアでもドローンを飛ばすことができます。

加えて、ドローン操縦時にやってはいけない行為についても定められています

ドローン操縦時の禁止行為

・飲酒しての操縦
・近くに人がいる場所での危険な飛行
・夜間の飛行
・ドローンの機体が目視できない場所からの操縦
・人や建物などから30m以上距離が取られていない場所での飛行
・イベント会場での飛行
・爆発・発火物といった危険物の輸送飛行
・ドローンに積んだ荷物を空中から地上に落下させること

上記をすべて遵守するとなると、夜景の撮影や、建物近景の撮影もNGとなり、これもまた新たなドローン・ビジネスの障壁となります。しかしこれらも、事前申請によって人や物に危害が加わるような飛行でないことが承認されれば飛行が可能になります。

今や全国のドローンスクール数は200校を超えています。そのカリキュラムは各校で様々ですが、いずれにも共通する内容は以下の通りです。

ドローンスクールのカリキュラム例

・ドローン開発の歴史や機種
・航空法、道路交通法、民法、都道府県条例などドローンに関わる法律
・飛行前の行政機関への申請方法
・安全飛行のための操縦技術
・飛行時の気象や電磁波の影響
・万一事故を起こしてしまった際の対応や事前対策

これらのカリキュラムを数日間受講すれば、各スクールが加盟する民間団体認証の操縦技能証明、すなわちドローンの「免許証」が得られます。

もっともドローンが活用されている業界は?

ドローン免許を取得した人たちが一体どんな分野で活躍しているのかというと、その多くは「農業」「設備点検」「物流」の各分野へと進出しています。

農業分野

農薬散布や、空中から撮影した映像による農作物の育成状況や病害虫の確認、収穫時期の判断などにドローンを活用しています。有機農家が増えたことにより農薬散布の需要は少なくなったものの、一部地域ではいまだ実施されています。

以前は農協職員がヘリコプター操縦免許を取得して散布を行っていましが、年に数回という少ない操縦経験が災いし、衝突・墜落事故も頻発し負傷者も出ていました。ドローンによる農薬散布は、そういった人的被害の減少にも貢献しています。

設備点検分野

高層ビルの外観調査や橋梁の老朽状況調査、太陽光・風力発電といった再生可能エネルギー施設の定期点検の現場でドローンが活躍しています。

主に人が立ち入ることが困難な場所でのニーズが高いので、通常の設備点検業務のほか、台風や土石流発生時など大規模災害時の被害状況把握にも役立っています。

物流分野

コロナ禍の影響もあり急増する商品デリバリーのニーズに対応するため、大手通販会社が中心となりドローンによる商品配送システムの構築が進められています。とくに、物流に関わる人材が希少な離島・過疎地での荷物配送にドローンを採り入れることが急務となっています。

不動産業界での活用例は?

不動産広告の眺望撮影

新築マンションなどの不動産広告に欠かせないビジュアルといえば、部屋からの眺望写真です。都心の夜景や花火大会の光景、オーシャンビュー、富士山の遠景など、建物竣工前に全戸完売を目指す新築マンション販売では魅力的なビジュアルが売上促進のカギを握ります。

しかし建設現場での眺望撮影は難しく、カメラマンが危険な足場に登って撮影したり、クレーン車を駆使してベストな撮影アングルを模索するなど苦労は山積みでした。そこでドローンを活用すれば、土台が固定された足場やクレーン車より自由自在に移動できるので、さまざまなアングルからの撮影が可能になります。

大規模修繕前の建物診断調査

マンションの大規模修繕計画を立てるには綿密な建物診断調査は欠かせません。その際、マンション外壁に建築現場同様の足場をかけて調査を行わなくてはならず、タワーマンションとなればゴンドラなどの特殊な足場をかける必要性も出てきます。

建物診断は調査員が目視で行うため、調査日数も10日以上かかるのが当たり前でした。そこで、足場をかけての診断作業をドローンで撮影した映像による診断作業に置き換えると、調査日数は2日程度に短縮でき、人件費も大幅に削減できます。

不動産鑑定調査

工場・商業施設・リゾートホテルなどといった大規模建物や、山林・崖地・海岸沿線・無人島などの道路が整備されていない土地、再生可能エネルギー施設用地や公共事業用地などは、不動産鑑定士が直接現地に入って現況調査することが大変困難です。

これまではインターネットから得た情報や過去の航空写真を頼りに鑑定調査が行われてきましたが、これにドローンを活用すれば、リアルな現場の状況や土地境界の所在などを手に取るように把握できます。

夜間のセキュリティ

広大な敷地を有する大規模マンションの夜間警備は、敷地内の複数箇所に防犯カメラを設置したり、警備員が定期的に巡回する形で行われてきました。これらのアナログな警備体制をドローンに置き換えると防犯性能は格段にアップします。

防犯カメラの欠点は、複数台設置したとしても「死角」が出来てしまう点です。映像録画機能を搭載したドローンは常に飛行しながら移動しているため死角がなく、不審者を迅速に発見することができ、さらにその追跡や、不審者の特徴を画像に残すことも可能です。

警備員による定期巡回も有効ではありますが、万一不審者と鉢合ってしまった際、もみ合いになり負傷したり、最悪は命を落とすリスクも考えられます。ドローンは不審者の手の届かない上空に退避し、映像を撮影しながら警報を発信することもできます。

まとめ

不動産業界をはじめ、さまざまな分野でドローンが活用されはじめていることがお分かりいただけたと思います。今後は主に物流分野での躍進が期待されており、DID上空、および目視外飛行を行おうとする宅配業のドローン操縦者を対象とした国家ライセンス制度も検討されています。

加えて、ドローンの所有者情報や機体情報などを登録制とする法改正も進められており、ドローンを取り巻く環境は今後も変化していきそうです。