オリ・パラ特需を見越して多くの宿泊施設が新規オープンしましたが、期待していたインバウンド効果はおろか、国内需要さえも望めず、結果的に「肩透かし」を喰らっているのが現状です。オリンピック開幕を待たず事業撤退や施設売却が相次ぐなど、ホテル業・民泊事業主の立場は窮地にあります。

今回は、そんな厳しい状況下にあっても活路を見出し、事業価値・投資評価を回復させようと躍起になる事業者たちの新たな試みについて紹介します。

ホテル業界の独り勝ち、のはずだった

日本国内の旅行・観光業界、とくにホテルなどの宿泊関連業界は窮地に立たされています。名立たる大手ホテルチェーンが所有施設の売却に踏み切ったり、新進気鋭と持て囃されたリゾートホテル・シティホテルチェーンが相次いで倒産するなど、コロナ禍の影響をもろに受けている状況です。

振り返れば、オリンピックの東京招致が決定した2013年から、ホテルをはじめとする旅行・観光業界の快進撃は始まりました。日本を訪れる外国人観光客数は激増し、都市部にある観光ホテルの稼働率は軒並み8割超え、オリンピック開催はまだ数年先だというのに、東京・大阪・京都・沖縄といった人気観光地を中心にインバウンド需要が大爆発したのです。

こうなると既存のホテル・客室数では消化しきれません。

そこで政府が旅館業法の規制緩和を実施して簡易宿泊所の新規参入にテコ入れしたため、民泊登録件数も鰻登りに増えました。それでも足りないと、首都圏各港に停泊しているクルーズ船をホテルとして活用する「ホテルシップ」案まで検討されたほどです。

世界中どこも同じですが、オリンピック招致が決まった都市では決定後直ちに再開発ラッシュとなります。日本においても、都会の片隅で細々と生き残っていた昔ながらの商店街や雑居ビル街がひとまとめに解体され、その跡には大手ホテルチェーンのラグジュアリーホテルが建ち上がります。

大手ばかりではありません。駅に近く利便性も良い下町界隈には、個人経営のゲストハウスやホステル、ドミトリーといった簡易宿舎、いわゆる民泊が増殖していったのです。

これだけ宿泊施設数が増えても、顧客争奪戦どころか、国内出張の宿泊予約が取れなくなるくらいの満室盛況ぶりです。リーマンショックによる経済的痛手もまだ残る2010年代半ば、オリンピック特需に沸いたのは旅行・観光業界オンリー、まさに「独り勝ち」かのように見えました。

コロナ禍で旅行・観光業界の快進撃に急ブレーキ

しかし、2019年末になると一機にコロナ禍の暗雲が立ち込めます。旅行・観光業界の快進撃に急ブレーキがかかり、明けて2020年の春節以降はぱったりと、まるで火が消えたように外国人観光客の客足が遠退いてしまったのです。

全国の外国人観光客(宿泊者数)の状況を見ると、2019年には毎月約1,000万人が訪れていたものが、2020年4月以降は20万人程度(2019年同月比-97%)まで落ち込んでいます。この低迷を受けて、近鉄グループホールディングスは「都ホテル京都八条」など8施設を売却、阪急阪神ホールディングスも「大阪新阪急ホテル」など6施設の営業を撤退するなど、有名ホテルチェーンであっても身銭を切るしかない状況です。

民泊事業者も然り、2020年4月の緊急事態宣言以降から廃業が増えはじめ、毎月500件前後のペースで廃止届が出されています。

コロナ禍における新たなニーズとは何か

待ちに待ったオリンピックも無観客開催となったことで国内宿泊需要の見込みがなくなった上、オリ・パラ終了後の明るい材料も見当たりません。ホテル業者・民泊事業者は今後どのような活路を見出せば良いのでしょうか?

ホテルは用途変更で現状利回りを死守

まずは近年増えているホテルの経営スタイルをシミュレーションしてみましょう。不動産投資法人が投資用1棟ビルを取得し、投資家を募ってREIT方式で賃貸運用を始めます。フロア毎に区分してオフィス賃貸することもできますが、東京オリンピック招致決定直後に取得した物件であれば、複数のオフィス賃貸よりホテル業者への1棟貸しの方が有望と考えるのが妥当です。

しかしその読みは外れ、コロナ禍の影響でホテルへの客足が途絶え、業績赤字がかさんでいきます。テナントであるホテル業者は民事再生法の適用を申請したものの事業再建の見込みもなく、やがて家賃の滞納が慢性化します。

例えばこの1棟ビルの取得費用が20億円で投資利回りが5%なら、大家は毎月800万円超、年間1億円の年収を失うことになります。大家である不動産投資法人ばかりでなく、顧客であるREIT投資家にとっても大きな損害になりますから、早急に新たな一手を打たなければなりません。

不動産投資法人はホテル業者との話し合いで賃貸借契約を解約し、その後3億円の費用をかけてリフォームを実施。ホテルからシェアオフィスへと用途変更を行いました。初期の取得費用と併せた不動産評価額は23億円になるので、今後この物件は年収1億円超(23億円×利回り5%=1.15億円)の利益を生む使命を担うことになります。

民泊は地域に根差した社会貢献を

青息吐息の民泊事業者に対しては、「インバウンド需要が回復するまでの間、海外からの邦人帰国者やコロナ軽症患者の自主隔離施設として提供しませんか?」といったセールスがひっきりなしに入っていることと思います。

本来ならばいま頃は、自らの語学力を駆使して世界各国から訪れる旅行者を存分にもてなしていたはずなのに、一時退避所的な利用価値しか見出せなくなってしまっています。しかしその一方、水面下では民泊の開業件数が増え続けているという事実もあります。500件の廃止件数と比較すると半分以下の200件前後と微増ではあるものの、この状況下にあっても民泊にポテンシャルを感じている事業者がいることは喜ばしいことです。

実は、民泊廃業に伴いローン破綻した所有者が相場より安価で物件を手放すケースが増えており、それらを購入した投資家が、今後再起するであろうインバウンド需要を見込んで民泊経営の助走を始めているようなのです。

若い外国人旅行者はラグジュアリーホテルよりむしろ安価で庶民的な民泊を好む傾向にあります。民泊は生活感溢れる住宅街に立地していることが多いため、飾り気のない、ありのままの日本文化に浸ることもできます。

将来的にはホテルより民泊の方に人気が集中し、ホテル以上の収益を上げる事業に成長する可能性もあります。とはいえ、いまの業績低迷を打破するためには何かしらの施策が必要な状況は変わりません。前述の不動産投資法人のようにシェアオフィスへと転身する民泊あり、月額定額料金のサブスク賃貸運営に積極的な民泊ありとさまざまです。

外国人観光客が戻ってくるまでの間は、それぞれの工夫でこの苦境を乗り越えていくしかありません。

まとめ

東京オリンピック招致決定当時、ワンルームマンションとして建築確認を受けていた新築物件は軒並み、インバウンド需要を見込んだ観光者向けホテルへと計画変更されており、周辺の不動産業者は「こんなにホテルが増えたら地域の人口バランスはどうなるの?」と憂慮していました。

ところがいまでは、ホテルをワンルームマンションやシェアオフィスへと計画変更する逆転現象が起こっています。

ただ、民泊施設についてはホテルほど極端な変化はなく、開業件数もじわじわとした増加傾向を保っています。民泊はインバウンドとはまったく別分野の課題である「空き家」問題の解消策としても評価されている背景があり、宿泊客が少ない時期は、高齢化が進む地域のコミュニティ(シルバーカフェ)や、子供たちの居場所(子ども食堂)としての役割を担いながら営業するという手段もあります。

そういった社会貢献度の高さが開業件数増に反映されているのかも知れません。社会から求められるビジネスは存続し、そうでないものは淘汰される運命にあるのです。