シェアハウス「かぼちゃの馬車」の破綻事件では多くのサラリーマン投資家が被害に遭いましたが、不動産投資は本来、危険なものではありません。投資家自らが率先して学び、動き、判断すれば、後から「失敗した…」と憔悴するような事態も避けられるはずです。
今回はこの事件を題材に、不動産投資家が売買契約前に実践すべきことを解説します。
不動産投資とダイエットは似ている?
電車で見かけたダイエット指南本の広告に、こんなキャッチコピーが載っていました。
「口コミ」
「やってはいけない」
「知らなかったでは済まされない」
これだけでは意味が分からず、その横に書いてある解説文を読んでみると、要は「『炭水化物や乳製品を一切摂らなければ痩せる』とか、『水をたくさん飲めば痩せる』といった口コミがあるが、その根拠を調べもせず鵜呑みにすると逆効果になる場合もあるのでやってはいけない、知らなかったでは済まされない」とのこと。
これはダイエット指南本の広告ですが、不動産投資に当てはめれば以下のようになるでしょうか。
・不動産投資は失敗する、という「口コミ」
ワンルーム投資の失敗談を語る人がたくさんいますが、すべての不動産投資家が失敗している訳ではありません。
・不動産投資で「やってはいけない」こと
物件選びやローン返済計画、賃貸経営において、やってはいけないことをやってしまうから失敗する訳で、成功のセオリーを知っていれば失敗することはありません。
・不動産投資で「知らなかったでは済まされない」こと
何もかも不動産仲介業者や賃貸管理業者任せにしておきながら、失敗したら「業者に騙された」と愚痴をいう投資家がいますが、それは投資家自身が知らなかった(事前によく勉強しなかった)ことにも原因があるのです。
失敗してしまった投資家から学ぶこと
「かぼちゃの馬車」事件によって、「不動産投資は失敗しやすい」というイメージが強まってしまいました。しかし、この失敗は不動産投資そのものが原因なのではなく、丸腰で賛同した投資家の受け身の姿勢にも一因があります。彼らが失敗してしまった理由は、「知識」という武器を備えていなかったためです。
それでは、彼らは契約前にどのような知識を得ればよかったのでしょうか?
・自分の支払い能力を知る
一般的に、購入する不動産価格の目安は年収の5倍程度、ローン返済額の目安は月給の3割程度とされます。
そうすると、年収800万円の人の場合は販売価格4,000万円前後の物件が理想的で、月々のローン返済額は20万円前後が妥当となります。しかし、かぼちゃの馬車の投資家たちは年収800万円で1億円以上の物件を購入していました。投資用不動産向けローンは金利が高めですから、最低でも月々50万円(年利4%・30年ローン)・年間600万円以上のローン支払いをしていたはずです。
独身や夫婦2人だけなら何とかなるかも知れませんが、子供がいるファミリーであれば、生活費として月々20万円未満しか捻出できないようでは、暮らしに支障が出てしまいます。
・周辺相場を把握する
対象物件が建つエリアの家賃相場を知ることや、最寄り駅の利用状況と近隣に暮らしている人の年齢層、スーパーやコンビニなどの便利な商業施設が徒歩圏にあるかなど、実際に現地周辺を歩いて観察することも大切です。
不動産業者が作った物件パンフレットだけに頼らず、投資家が自ら情報収集を行うことも、より現実的な投資可能性の把握につながります。とくに初心者が初めて物件を購入する場合はなおさらです。必ず現地へ足を運び、周辺にどんな世代の人たちが暮らし、どの程度の生活レベルなのかを分析しておくことをおすすめします。
ちなみに、かぼちゃの馬車は郊外物件でも3坪で月額6万円という高額家賃が設定されていました。坪単価2万円といえば山手線円内の賃貸オフィスと同等です。地方から出てきたばかりで、まだ仕事にも慣れていない女性がそんな高額な家賃で納得するとは思えません。
家賃相場については、インターネットの不動産ポータルサイトに掲載されている近隣類似物件の家賃平均値を割り出せば分かります。最寄り駅の利用状況については、各鉄道会社が公表している各駅乗降人員数から把握することができます。周辺住民の年齢層については、大学や専門学校などが近くにあれば若い層が、デイサービス施設や小規模診療所が多い場合は高齢者が多いと推測できます。
生活レベルについては、近くのスーパーマーケットの売場に並ぶトイレットペーパーや卵といった日常消耗品の価格から概ね判断できます。
・ビジネスモデルに疑問を持つ
かぼちゃの馬車物件は「利回り9%」を謳っていたため、購入価格が1億円であれば年間900万円の家賃収入が入ってくることになります。ローン返済額は年額600万円(月々50万円×12カ月)ですから、差し引き300万円の年間収益が得られる計算です。
たとえ空室があっても、不動産業者が家賃を保証してくれる、いわゆる「サブリース」物件なので、ローン返済期間中ずっとサブリース契約が続けば投資家は安泰です。1棟14戸で1戸の家賃を月額6万円に設定すれば年間家賃は1,000万円を超えます。しかし、あまりにも入居者が決まらなかったため、家賃を月額4万円程度に下げして募集していたところもあったようです。4万円では年間672万円にしかならないため、サブリース保証家賃の900万円に届きません。
そもそも、「駅から徒歩10分以上離れた3坪程度の狭小シェアハウスに需要などあるのか?」とビジネスモデルに疑問を持つことも必要なのです。
ビジネスモデルは高評価だったが…
かぼちゃの馬車はもともと、都心の利便性に恵まれたエリアに建つ数棟から始まったビジネスです。地方から上京する女性に対し、住居と併せて就職先も斡旋するという斬新なビジネスモデルを掲げ、社会貢献とも受け止められるイメージの良さで差別化を図っていました。
ところが、評価が高まるにつれて新規契約を希望する投資家が増え、顧客数に対し提供物件数が不足し始めます。利便性が低い場所でも土地をどんどん仕入れ、採算度外視の分譲を進めるようになると案の定、不便な場所にあるシェアハウスの人気は伸びず、ほとんどが空室状態のまま塩漬けとなったのでした。
破綻直前に契約した多くの投資家は、入居の見込みがない「張りぼてアパート」を買わされる羽目になります。その上、支払った購入代金はほかの投資家へのサブリース支払いに充てられていたのです。
まとめ
ローンの支払い能力や周辺の家賃相場、ビジネスモデルに関連する収支計算は、情報の読み解き方さえ学べば誰にでも把握できます。もちろん、質問をすれば不動産のプロである仲介業者がいろいろと教えてくれますが、ときにはそれが主観的であったり、無意識のうちに物件購入へ誘導したりするようなアドバイスである場合もあります。
プロは収益を得るための「アドバイス」はしてくれますが、儲かる「確約」はしません。不動産投資は最終的には「自己責任」であると心得ましょう。
不動産投資は株式投資などと違って、所有するオーナーの采配によって利益が上がったり下がったりするものです。そういう意味では面白みややりがいがあるものです。サブリースに頼らずに、オーナー自身で賃貸運用することも十分可能ですので、チャレンジのしがいがある投資といえます。
企業に勤務していると、自分の成果が形となる機会がどうしても少なくなります。そういったジレンマを解消できるのが、副業としての不動産投資なのです。