1年中でもっとも新規入居が増加するシーズンは「春」といわれます。
これは新入学生・新社会人の賃貸ニーズが高まることが要因ですが、賃貸市場の繁忙期はこの時期だけではありません。1年間における賃貸住宅の入居ピークと、昨今のコロナ禍による影響、今後の賃貸市場動向について解説します。

入居者募集のピークは様々

一般的に、賃貸住宅の入居ピークは「春」といわれます。
しかし、春といってもそのスパンは長く、1月の正月休み明けから4月前半まで続きます。これは大学や専門学校の新入学生・新社会人が親元を離れて新生活を始めるためです。

ですが、実際にはそれよりも早い時期、学生なら志望大学を絞り込む11月頃から、新社会人なら企業から内々定が出始める10月頃から物件探しが始まっているようです。そういった状況を考慮すれば、新入学生・新社会人の入居ピークは前年10月から4月までと解釈した方が正しいかも知れません。

新入学生・新社会人が動く春以外にも入居ピークはあります。それはキャリア・ビジネスマンに人事異動が出されるタイミングです。そのスケジュール感は日本企業と外資系企業とでまったく異なります。

日本企業の場合は、決算時期にあたる3月と9月の異動が多いといわれますが、現場実感でいうと7月に集中している印象があります。7月異動スケジュールの場合、異動直前の6月中旬前後に正式辞令が出るため、物件探しから契約まで1~2週間程度とごく短期間しか取れません。そのため部屋の内見もできず、電話やメールのやり取りだけで予算に合った物件を選んで契約することになります。

一方、外資系企業や在日大使館等の場合は9月に異動が集中する傾向にあります。家族とともに母国を離れ海外赴任となるため、おおむね3カ月前には内示が出されます。内示を受けた6月に1週間程度の長期休暇(バカンス)を兼ねて来日し、10件前後の候補物件を内見、本社の決済を経て賃貸借契約が結ばれます。契約書類はすべて英文、当然のように賃料交渉も入るので、日本企業のケースと比較して契約に手間と時間がかかります。

それぞれのスケジュールを取りまとめると、新入学生・新社会人の入居ピークは前年10月~4月、企業の人事異動に絡む入居ピークは6~9月なので、1年のうち5月以外のすべての月が入居ピークに該当することになります。すなわち春にこだわらず、いつ入居者募集を始めても賃貸需要は期待できるということです。

コロナ禍によって入居ピークが激変?

賃貸市場の動きは1年を通してほぼ変わらないことが分かったものの、昨今のコロナ禍によってこのセオリーが大幅に崩れてしまったことも事実です。今後、コロナ禍の影響によってどのような変化がもたらされるかについてはまだ未知の領域です。そこで、2019年からの市場動向を振り返りながら予想をしてみたいと思います。

・2019年冬~2020年前期(コロナ禍勃発~緊急事態宣言発令)

昨年(2020年)の賃貸市場は波乱の展開となりました。その原因はいわずもがな「コロナ禍」です。

19年末から20年2月までは例年通りの動きでしたが、3月に入ると雲行きが怪しくなり、4月には1回目の緊急事態宣言が発布されました。それと同時に多くの不動産会社がテレワークにシフトし、賃貸市場は事実上「停止」する形となります。一部では「オンライン内見」などで営業を続けた会社もありましたが、思うほど集客できず、契約件数は伸びませんでした。

・20年5月~12月(緊急事態宣言解除後)

緊急事態宣言は5月に解除されましたが、各不動産会社とも店舗営業再開には慎重で、大手を中心にテレワークを続行する会社がほとんどでした。従来通りの店舗営業が再開したのは7月に入ってからで、そこから猛烈な挽回戦が始まります。

店舗では物件探しを保留している見込み客の呼び戻しに力を入れ、その一方で商談・内見には「ソーシャル・ディスタンス」を心がけ、空間と時間に余裕を持たせながら、接客予約リストを地道に埋めていきました。地道な努力の末に来客数は回復し、テレワーク需要に対応した広めの間取りを中心に契約件数は増えていきました。

・21年1月以降(2度目の緊急事態宣言発布)

20年と21年を合わせた2年分の賃貸契約が短期集中したため、一部を除き、賃貸住宅の供給戸数が過少傾向となりました。残っているのは、駅に近いなど利便性の良い場所にある10~20㎡台ワンルームマンションです。これらの物件はおしなべて家賃が高く、加えてテレワーク化で高まる「自宅でも仕事ができるもう一部屋」というニーズに当てはまらないため検討除外されてしまったのです。

これまで10~20㎡台ワンルームに住んでいたシングル層は30㎡以上の1LDKへ、40~50㎡台2LDKに住んでいたファミリー層は70㎡以上の3LDK・4LDKへとそれぞれ移行する傾向が顕著です。これは賃貸市場だけでなく、売買市場においても同様の傾向が見られます。

22年の賃貸市場はどうなる?

では、コロナ禍以降の賃貸市場はどのように変貌していくのでしょうか。

・内見や契約は「オンライン」が主流に

昨年からweb会議サービスを利用したオンライン内見が普及し始めました。加えて以前から試行されていた賃貸借契約(主に需要事項説明)のオンライン化についても、コロナ禍によってかなり実用化が進んでいます。今後は、物件選びはもちろん内見・契約・入居まで、不動産会社の営業担当者とリアルに対面することなく完了できる時代がやってきます。

・「郊外」「広め」の物件に人気が集中する

コロナ禍の影響で、「巣ごもり需要」や「新しい生活様式」に適った住まいが求められるようになりました。それに伴い、賃貸住宅のアピールポイントも変わりつつあります。これからのトレンドは「便利さ」よりも「ゆとり」、「駅近」よりも「広さ」へとシフトしていきます。

利便性の高い都心の一等地よりも、郊外の方が同じ家賃負担で広い賃貸住宅を借りられます。テレワーク化で都心の勤務先へ毎日通う必要がないのなら、ワークスペースを設けられて、余った時間は趣味や娯楽も楽しめる広い住まいの方が快適です。今後も「郊外」「広め」の賃貸物件の需要は伸びていくことでしょう。

・「都心」「駅近」物件は今後どうなる?

これまでの不動産投資のセオリーは、「20㎡以下の狭小でも、都心・駅近の物件を選べば成功する」というものでした。しかし22年以降の賃貸市場動向を鑑みれば、その理論はもはや空前の灯といっても過言ではありません。

コロナ禍以降の賃貸需要においては、都心の利便性が必須ではなく、自分時間を楽しむための住空間であることが重要視されています。周辺の利便性に頼ることもなく、豊かなひと時を過ごすための環境が整っていれば充足できる時代が到来するのです。

まとめ

19年末からのコロナ禍の影響で、従来の入居ピーク時期や賃貸住宅へのニーズは激変しており、22年以降の賃貸市場は、物件探しから内見、契約まですべてオンライン化される機運が高まっています。

また、賃貸のニーズは現在暮らす住宅よりもさらに広い住宅へと移行する傾向にあります。

空室が目立つ「都心」「駅近」物件の評価が変わって価格相場は一時的に下落することが予想されており、投資家にとってはチャンスとも言える状況がやってくるかも知れません。