法的には木造で22年、鉄筋鉄骨コンクリート造で47年というように、建物の耐用年数は決まっています。その年数をはるかに経過した空き家や古民家は、まだ使用できる状態であっても評価額はゼロ円のため、土地価格のみで売買されています。そして、そのような古い建物を安く買い取り、リノベーションを施した上でシェアハウスや古民家カフェとして貸し出す不動産投資ビジネスもあります。

今回は、リノベーション費用はどれくらいかかるのか、実際のところ採算が取れているのかについて解説します。

全国で深刻化する「空き家問題」

総務庁の「住宅・土地統計調査」(平成30年度)によると、全国の総住宅数6,241万戸のうち、空き家状態になっている住宅は約850万戸。その数は全体の約14%を占めています。空き家の増加傾向は顕著で、今後も増え続けるとなると様々な問題が懸念されます。

その1つは建物の老朽化です。人が住んでいないと老朽化のスピードは加速し、台風や地震などの天災をきっかけに屋根や壁面が崩壊するリスクが高まります。また不審者やホームレスなどが勝手に住みついたり、家財の窃盗や放火といった犯罪を誘発したりすることも問題です。所有者のみならず近隣住民に不利益が及ぶ可能性もあるでしょう。

だからといって、老朽化した建物を取り壊すとなると莫大な解体費用がかかりますし、また更地にしてしまうと(以前は)固定資産税が高くなるということで、所有者は「建物を残したまま売却してしまった方がいいのではないか」と考えます。

すると空き家は「土地」として売り出され、建物付き不動産としては近隣相場より安くなります。

そこに目を付けた不動産投資家が、老朽化した建物を再生して賃貸運用できないかと考えたのが「空き家・古民家」ブームのきっかけなのです。

空き家・古民家のリノベーション方法とは?

一般住宅として使用されていた空き家と、施主の深い思い入れのもと創り上げられた古民家では、リノベーションの手法が一部異なります。

古民家とは日本古来の軸組工法で建てられた住宅のことで、竣工時期も明治・大正・昭和初期と歴史が重ねられてきたものを指します。一部の地域では、郷土の歴史を色濃く残す「街のシンボル」として文化財的に取り扱っているところもあります。

古民家の構造体は堅牢で、その耐久性は200〜300年ともいわれます。柱や土台に補強工事を施せば耐震性能をさらに高められますが、工事費用は建物の状態によって100万〜500万円台と様々です。古き良き建物の風情を残すため、内外装工事には比較的お金がかからず、素人でも施工できる部分については所有者自らDIYすれば費用がさらに節約できます。

しかし、「古民家カフェ」のように飲食店舗へとリノベーションする場合は別です。保健所で営業許可を取るために厨房設備や排煙ダクトを増設する必要があるため、総額で1,000万円以上の費用がかかることになります。

一般的な空き家のリノベーション費用はピンキリで、壁や床工事のみであれば200万〜300万円台程度で済みます。しかし、キッチンや浴室など水回り設備の新規入れ替えや床下配管の交換を行うとなると、内装だけで700万円以上にのぼります。このほかに耐震補強工事が加わりますから、建物の状態によっては総額2,000万円以上の費用がかかる可能性もあります。

「空き家再生補助金制度」を利用する場合の注意点

年々深刻となる空き家増加の問題を受けて、国土交通省は居住環境の整備改善を図ることを目的とした「空き家再生補助金制度」を立ち上げました。この制度は、個人や企業などの民間事業者が空き家の増改築を行う場合、諸費用の2/3を国と地方公共団体で補助するというものです。近年では新潟・長野・石川・富山・福井・奈良・兵庫・広島の各県で同制度活用を推進しており、実施事例も各地で誕生しています。

ただし、この制度には厳しい条件があります。それは、リノベーション後の建物を地域のコミュニティ施設として10年以上提供することです。ここでいうコミュニティ施設とは、郷土の魅力を紹介する文化イベント・展示会場、移住検討者の滞在体験宿泊所、創作活動を通して近隣住民や観光客が気軽に交流できる場所のことです。

もちろん会場のレンタル料や宿泊代を徴収することはできますが、最低10年間は「お役所仕事」の一端を担わなければなりません。費用の補助は魅力ですが、地域ボランティア要素が濃いため一般の不動産投資家にとっては重荷になるかも知れません。

空き家や古民家で賃貸・民泊事業を始めるのに必要な費用は・・・?

公的な助成金に頼らず、自らの資産だけで空き家・古民家を再生するとなったら、賃貸運用や民泊営業をスタートさせるまでにどのくらいの費用がかかるのでしょう。那須や軽井沢などの別荘地に建つ空き家を購入したと想定して計算してみます。

初期投資

購入価格:300万円
リフォーム費用:300万円
合計:600万円

収益

賃貸運用(家賃)の場合:5万円/月
民泊営業(宿泊代)の場合:15万円/月(宿泊料5,000円/日として)

リノベーション部分は床や壁などの内装中心と仮定し300万円としました。一般的な住居として貸し出す(賃貸運用)場合、表面利回りは10%、初期投資額を回収するのに約10年かかります。一方、民泊営業の表面利回りは30%、約3年で回収できる計算です。とはいっても、民泊の運営には予約受付業務やチェックアウト後の室内清掃といった外注手数料が別途かかりますので、実質利回りは半分(15%)程度になるでしょう。

次に、東京の八王子など郊外の住宅街にある古民家を買い取り、カフェにリフォームして賃貸した場合を想定して計算します。

初期投資

購入価格:1,000万円
リフォーム費用:700万円
合計:1,700万円

収益

賃貸運用(家賃):20万円/月

リフォームは店舗用厨房設備など水回り工事も行うと仮定し、700万円としました。表面利回りは14%、初期投資額の回収には約7年かかります。このように、飲食店営業目的で空き家・古民家を取得する場合、ある程度人通りがあり可視性の高い場所に建つ物件を選ばなくてはならず購入価格は高くなります。その上、飲食店舗用のリノベーションには大きな費用がかかるため、潤沢な資金が必要になります。

コロナ禍の影響により民泊はアイドリング状態に

かつて話題が沸騰した民泊ブームの際は、京都エリアの空き家や古民家が不動産投資家の間で争奪戦となりました。ちなみに京都を含む関西圏は関東圏と比較して家賃相場が低い(ワンルームで5万円台/月前後)分、売買価格も安価です。

しかしこれを民泊施設として運用すれば、相場家賃の6倍以上(宿泊費1万円/日として31万円/月)稼ぐことができます。京都・大阪は国内屈指の観光エリアですから、これに気づいた投資家が動かないはずはありません。まずは京都市内にある町家造りの古民家から次々と売買され、無秩序な民泊開業ラッシュが始まったのです。

外国人観光客は「ホテルよりリーズナブル」な民泊を好んで利用します。繁華街のみならず、民泊が林立する住宅街にも外国人グループが溢れるようになると、近隣住民との間でトラブルが相次ぐようになりました。そこで行政は、住宅街における民泊営業を抑制する条例を発布したのです。

街中から締め出された民泊は、物流団地にポツンと建つマンションの一室や、民家もまばらな山奥の一軒家で営業を再開したものの客足は伸びていません。さらにコロナ禍の影響を受け、現在はアイドリング状態にあります。

まとめ

街中に建つ空き家・古民家は国の補助金によって解体が進み、いずれ再開発の波に飲まれていくことでしょう。問題は、誰も見向きもしない郊外の住宅街や別荘地に建つ物件です。しかし、そういったところにビジネスチャンスは隠れているものです。

民泊ブーム再来の前に、投資見込みエリア・物件の情報を収集しておくといいかも知れません。