不動産業者の仲介手数料は、以前から「高過ぎるのでは?」と疑問を持たれています。「売買価格の3%」という基準値だけではあまりに大雑把な印象で、内訳が気になるところです。

果たして3%は妥当なのでしょうか。そして、不動産業者は仲介手数料分しっかり働いてくれるのでしょうか。そんなモヤモヤを解明します。

手数料3%どころではない!「4%、5%」の場合も…

不動産を売ったり買ったりする場合、一般的には宅地建物取引業の営業免許を持つ不動産業者に仲介を依頼するものです。そして依頼した不動産の売買・購入が成約となった場合、売主または買主は仲介を任せた不動産業者に対し「仲介手数料」を支払うことになります。

仲介手数料は不動産を売却または購入した不動産価格の「3%」と多くの方が思っているようですが、実はその背景には複雑な計算式が隠されているのです。

① 400万円を超える部分にかかる仲介手数料の掛け率:3%
② 200万円を超えて400万円以下の部分にかかる仲介手数料の掛け率:4%
③ 200万円以下の部分にかかる仲介手数料の掛け率:5%

仲介手数料は、上記の①~③のように金額の段階ごとに掛け率を変えて算出されています。この掛け率の数値だけでは分かりにくいかも知れませんので、1000万円の不動産を売却または購入した場合を例に、①~③の掛け率ごとに仲介手数料計算式を当てはめてみましょう。

1,000万円のうち400万円を超える部分=600万円×3%(上記①)=18万円
1,000万円のうち200万円を超えて400万円以下の部分=200万円×4%(上記②)=8万円
1,000万円のうち200万円以下の部分=200万円×5%(上記③)=10万円

→仲介手数料(①18万円+②8万円+③10万円)=36万円

上の計算式の通り、不動産価格1,000万円の場合の仲介手数料は36万円になります。しかしこれでは少々複雑なので、以下のように短絡化して計算する方法もあります。

1,000万円×3%+6万円=36万円

こちらが一般的に知られている「仲介手数料3%」の計算式です。①~③の掛け率ごとに計算して導かれた答えも、後者の計算式の答えのどちらも「36万円」になります。そのため、宅建業法ではいずれの計算式を適用しても良いルールになっています。

ただ、この短絡化された計算式についてはすべての価格帯に当てはまるわけではありません。不動産価格が400万円以下の場合は、「不動産価格×4%+2万円」という計算式に変わります。そこで、400万円の不動産を売却または購入した場合を例に計算してみましょう。

400万円×4%+2万円=18万円

さらにこれを金額ごとの掛け率で計算してみましょう。

400万円のうち200万円を超えて400万円以下の部分=200万円×4%(上記②)=8万円
400万円のうち200万円以下の部分=200万円×5%(上記③)=10万円

→仲介手数料(②8万円+③10万円)=18万円

不動産価格1,000万円の場合と同様に、こちらも2つの計算式の答えは同じです。

業者なら全国の不動産を取り扱えるが、経費には「大きな差」

自宅の購入や買い替え、地方に所有する投資物件の売却、親から譲り受けた休眠不動産の処分等々、信頼できる身近な不動産業者に依頼できたならどんなにいいでしょう。

不動産業者は、事業所がある地域を得意エリアとしていますが、全国各地の不動産の売買・賃貸を仲介することも可能です。顧客のなかには全国各地に投資不動産を所有している人も多いですから、広域にわたるニーズにも対応しなければなりません。

たとえば、都心の投資用マンションと地方の一戸建て別荘(いずれも価格2,000万円)の売却を依頼してきたオーナーがいるとします。これら2つの物件から得られる仲介手数料をそれぞれ100%とした場合、営業活動にかかる諸経費と利益の割合はどのようになるでしょうか。

<都心の投資用マンションの場合>

仲介手数料100%-(広告費20%+書類調達費10%+交通費20%)=利益50%

<地方の一戸建て別荘の場合>

仲介手数料100%-(広告費30%+書類調達費20%+交通費30%)=利益20%

広告費については、不動産業者専用の物件情報サイトや一般消費者が閲覧できる不動産系ポータルサイトなどのネット広告、新聞・雑誌等のペーパー広告、現地立て看板などの手段が考えられます。

都心の投資用マンションであればネット広告掲載のみで十分に集客が見込めそうですが、地方の一戸建て別荘の場合は新聞・雑誌への広告掲載や現地立て看板設置も行わないと集客が難しそうです。

また、広告制作のみならず、営業活動のために、当該不動産の基本情報(登記簿謄本や建物図面、重要事項調査報告書)の入手も必須で、それらの取得にも少なからず証明手数料等経費がかかります。さらに具体的な購入希望者が現われたあかつきには、重要事項説明書作成のため、売主の個人情報(固定資産税評価証明、納税証明等)も取得しなければなりません。

そのため、不動産の所在地を統括する役所や法務局へ出向くことはもちろん、所有者情報変更登記が長期間にわたり行われていなかった場合は、売主の本籍地を統括する役所ともやり取りしなくてはならないこともあります。不動産の管理や購入見込み客の内見・現地案内の際はそのたびに現地へ行くことになりますから、それなりに手間と時間、交通費がかかります。

2つの物件を比較した場合、都心の投資用マンションより地方の一戸建て別荘の方が広告費、書類調達費、交通費のいずれも1割程度経費がかさみ、利益は3割減となります。具体的に計算しますと、価格2,000万円の売買成約で得られる仲介手数料66万円のうち、都心物件の利益は33万円(50%)、地方物件の利益は13万2,000円(20%)です。

成約までに3ヵ月かかったとしたら、都心物件の月額利益は11万円、地方物件に至っては4万4,000円程度にしかなりません。これが「仲介手数料3%」の実態なのです。

知らないと大変!「仲介手数料無料」のカラクリ

賃貸に限らず、売買物件においても「仲介手数料無料」を売りにしている不動産業者も増えてきました。不動産業者の唯一の売上である仲介手数料をまったく取らないで、一体どこから利益を得ているのでしょう。実は、これにはカラクリがあるのです。

たとえば、中古マンション購入希望者が仲介手数料無料を謳う不動産業者に「面積60㎡以上の3LDKで、3階以上にある南向きの角部屋を探してほしい」と依頼したとします。

不動産業者はこれらの条件に近い物件を何件か紹介してくれましたが、その物件の中にすべての条件を満たしているものはありませんでした。担当営業マンから「少しでも気になるものがあったらぜひ」と促されたので2、3物件だけ内見してみたものの、申し込みたいと思うほどの物件ではありませんでした。

仕方なく家に帰って自らインターネットで検索したところ、偶然にもすべての条件を満たす物件を見つけたのです。

そこで営業マンに連絡をして「このポータルサイトに載っている物件を内見したい」と依頼したところ、「それは弊社ではご紹介できません」と断られました。「不動産業者はどんな物件でも紹介・案内できるはずでは?」と詰め寄ったところ、「この物件はオーナーとの直接取引ができないので、仲介手数料を無料にできません」との返答でした。

「仲介手数料無料」のカラクリとは、買主から取らない分、代わりに売主から仲介手数料をもらっているということなのです。これは不動産転売業者やリノベーション再販業者が売主である物件に多く見られるケースで、不動産業界では「元付(もとづけ)物件」と呼ばれています。

購入する側にとっては諸費用が節約できるのでありがたいのですが、売主と直接取引できる物件しか紹介してもらえないというデメリットもあります。

まとめ

ビジネスは「買う側」「売る側」の商談で成立します。不動産売買もしかり、買う側の仲介業者と売る側の仲介業者が折衝し合って引き渡し条件や売買価格を決めていく形が理想です。

しかし仲介手数料無料の業者のように、表向きは買う側に付いているような顔をして、実際は売る側の味方になっているという商法も台頭しています。裁判において一人の弁護士が被告・原告双方の擁護ができないように、不動産売買においても売る側、買う側で別々の仲介業者が交渉に向かうべきと考えます。

そして顧客側も、目先の金額に囚われて誤った業者選びをしないよう心掛けていただきたいものです。