道路上に「+」「-」「↑」のような記号が刻まれた四角い杭またはプレートが埋め込まれているのを見たことはありませんか?

これは土地と土地の境を表わす「境界標」というものです。気に留めなければ見過ごしてしまう小さなものですが、これは土地所有者にとって大変重要な印になります。

今回は、これら境界標の役割やそこに刻まれたさまざまな記号が表わす意味、法律上の扱いなどについて解説します。

土地所有者の権利を守る「境界標」

日本における境界標の歴史を紐解くと、「地租改正」が施行された明治時代まで遡ります。当時は江戸時代の年貢制度から所有する土地面積に対する課税制度への転換期にあたり、全国各地で土地の測量が行われ、その後に土地境界を示す石標が置かれたのが境界標のはじまりです。

土地の測量は隣接する土地所有者同士が協力し合って行い、その結果として土地境界線が確定されます。現代は土地家屋調査士が境界確定に立ち会い、境界の位置を落とし込んだ測量図面を作成して所有者全員の署名・捺印を受けます。この図面が土地登記簿に添付される「地積測量図」のベースとなります。

大概の人はスマートフォンを見ながら街を歩いているので、足元の境界標に気づくことは少ないかもしれません。オフィスビルが建ち並ぶ都会にも、郊外の住宅街にも、境界標は無数に設置されています。その形は杭状のものやプレート状のもの、素材も金属製やコンクリート製などさまざまです。

法務省の「不動産登記規則」では、境界標は「永続性のある石杭又は金属標その他これに類する標識」と定められています。過去には木製の杭や御影石を使用していた時代もありましたが、経年劣化で境界点がわかりにくくなってしまったり、朽ち果ててボロボロになってしまうなどの理由から、近年は以下のような劣化しにくい素材が採用されています。

・コンクリート杭:最も多く使用されている境界標です。形状はタテ・ヨコ約5㎝、長さ約90㎝の角柱型です。

・プラスチック杭:地面の状態が悪くコンクリート杭が設置できない場合などに使用されます。建物解体工事中の仮設置用に使用される場合もあります。形状はタテ・ヨコ約4.5㎝、長さ約450㎝の角柱型で、これより大きいサイズ(タテ・ヨコ約7㎝、長さ約600㎝など)もあります。

・金属標(金属プレート):アスファルト舗装道路やレンガ・タイル張りの歩道でよく見られる埋め込み式・プレート状の境界標です。形状はタテ・ヨコ約5㎝、厚み0.5㎝程度の薄型です。

次に、境界標上に刻まれている記号の意味を説明します。

・+:+の交点が4つの土地(地番)の境界点になっています。

・T:Tの交点が3つの土地(地番)の境界点になっています。

・-:「方向杭」と呼ばれ、境界点の表示ではなく、境界線がどちらの方向に伸びているかを示しています。

・↑:矢印の指し示す先が境界点になります。

境界確定をしていない土地は意外と多い?

前述の通り、明治時代頃から土地境界確定のための測量は行われてきましたが、現在も境界未確定の土地は数多くあります。とくに地方都市や山間部においてはほとんどの土地が境界未確定の状態です。

土地の境界を表わす資料として土地登記簿に添付される「公図」がありますが、公図の情報も信頼できるものではありません。公図は土地の大まかな位置や形状を表す程度のもので、実際の土地の形状や面積とは大きく異なるケースが多いのです。

公図と実際の土地の現況がどれだけ違っているのかについて調べた国土交通省のデータによると、精度の高い地域で5.5%(10㎝未満のずれ)、小さなずれのある地域で14.5%(10㎝以上30㎝未満のずれ)、平均的なずれのある地域で27.7%(30㎝以上1m未満のずれ)、大きなずれのある地域で49.8%(1m以上10m未満のずれ)、きわめて大きなずれのある地域で2.5%(10m以上のずれ)の違いがあるということです。

10㎝未満であっても問題ですが、10m以上のずれがあればかなりの面積重複が発生することになりますから、そういった地域では土地所有者同士の境界紛争が頻発しているのではないかと思います。だからこそ、最新の測量技術によって境界確定を行う必要があるのです。

境界確定には30万円以上の費用がかかります。隣り合う住宅用地(民間人×民間人)の場合は比較的安く済みますが、住宅用地と公道(民間人×都道府県・市区町村)の場合は申請書類が増えるためやや高くなります。また民間人同士でも、境界確定にかかわる土地所有者数が複数いる場合や、マンションの管理組合が相手方の場合は確認作業が複雑になるためその分費用がかさみます。

以前は境界確定を行わず売買取引された土地も多くありましたが、後日買主が境界絡みのトラブルに巻き込まれるケースが増えてきたため、近年では売主が引渡しまでに土地を更地にし、境界確定を済ませておくことが暗黙のルールになっています。

建物解体時のずれに注意

昭和以前に設置されたと思われる石や木製の境界標は、ほぼその役割を果たしていないといえます。歩行時に躓いただけでもずれてしまい、木製なら原形を留めず朽ち果ててしまいます。地籍測量図があったとしても、その信憑性については確認の必要があります。

また建物の解体工事業者には外国人労働者も多く、境界標の意味がわからず排除してしまったり動かしてしまうことも多々あります。悪気はないのかもしれませんが、そのようなことが起こらないよう日本人の現場監督をつけてもらうか、土地所有者が定期的に現場を偵察することが必要です。何より、信頼のおける解体業者を見つけることが売主の大事な仕事です。

故意に境界標を動かすと「境界損壊罪」に問われることになります。所有する土地の面積を増やすため「毎日ちょっとずつ境界杭を隣地側に蹴っている」という話を聞いたことがありますが、それは明らかに犯罪です。

逆に隣人がそのような行為をしている可能性もあります。境界標が移動されている、または不自然な場所にある、あったはずなのに見当たらないような場合は、境界確定のプロ(土地家屋調査士、測量士)に相談することをおすすめします。

平成17年の法改正により、地籍測量図に座標の記載が義務付けられました。万が一境界標がずれてしまっていても、座標が記載されている地積測量図なら復元が容易にできます。

番外編・道路に貼られた「G」マークは何?

境界標を探して街の散策をはじめると、明らかに境界標ではない赤や緑の「G」マークシールがあることに気付くことと思います。これは、シールがある場所の地下にガス管(G=Gas)が埋まっていることを表わす印です。

赤文字のGは鋼管、緑文字のGはポリエチレン管が埋まっているということを表わしています。Gの他に、地下に水道管があることを示す「W(=Water)」マークや、電線があることを示す「E(=Electric)」マークもあるということですが、この2つはレアでなかなか見つけることができません。

まとめ

「地租改正」が施行された明治時代から境界確定がはじまりました。現代は土地家屋調査士が立ち会い、その結果が法務局に備え付けられる「地積測量図」に反映されます。

境界未確定の土地は多く、公図の情報も信頼できないため、最新の測量技術を駆使した境界確定が必要です。近年の売買取引では、売主が土地を更地にし、境界確定を済ませておくことが暗黙のルールになっています。境界標を動かすと「境界損壊罪」になります。境界標がずれていた場合は、境界確定のプロに相談しましょう。