9月に入ってもコロナ禍の脅威は収まらず、とくに都市部での感染拡大に歯止めがかかりません。

緊急事態宣言解除後もテレワークを継続する企業は多く、「ネット環境が整っていれば、感染リスクの低い田舎で暮らしたほうが幸せなのでは」と考える人も増えているようです。そんななか、都市と地方の2拠点を行き来しながら生活する新たなライフスタイル「デュアルライフ」が注目を集めています。

突然のテレワーク導入、働く側の住環境に大きな変化が

新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言発出以降、私たちはこれまでの概念とはまったく違う「働き方改革」を強いられることになりました。密閉・密集・密接を避ける、いわゆる「3密」回避のために、多くの企業が「テレワーク」を採用しはじめたのです。事務系を主とする多くの労働者はオフィスへ出勤することなく、自宅からインターネットを介して業務を行うことになりました。

テレワークに関しては、「服装など気にせずのびのびと仕事ができる」「自分のペースで仕事ができて作業効率が良い」「家族との触れ合いが増えた」などのメリットを感じている人がいる一方で、「子どもが仕事の邪魔やいたずらをしてくる」「家族が同じ室内にいるため、顧客との電話やWeb会議に集中できない」などのデメリットを訴える人も少なくありません。

「自宅」というプライベート空間に、いきなり「テレワーク」として仕事が入り込んできたわけですから、ある程度の摩擦や拒否反応が出るのは当然です。この問題を解決するには、いまの住まいを改装して独立した仕事部屋をつくる必要があります。

とはいえ、都心の3LDKでの家族4人暮らしでは、それも難しい相談です。

「簡易的にもう一部屋」を作る手段として、折り畳み・自立式で設置工事の必要がないパーテーションを置く方法があります。ネット通販で調べると、2万円台の安価なものからさまざまな商品が売り出されているようです。しかしこれは、あくまで「一時しのぎ」でしかありません。

緊急事態宣言解除以降も、テレワークを続行している企業、あるいはこれを機に全社員を在宅勤務に切り替え、事務所を縮小した企業もあります。いまの自宅に仕事スペースを増設できないのなら、新たな場所を探さなくてはなりません。

ノートパソコンやタブレットを持ち歩き、Wi-Fi環境が整ったカフェや公共空間で仕事している人たちを「ノマドワーカー」と呼びます。彼らをターゲットにしたコワーキングスペース(不特定多数の利用者がオフィス環境を共有できるサービス)も街中にたくさんあります。加えて、コロナ禍で顧客が減少しているビジネスホテルや観光ホテルでも、テレワークに対応した貸室サービスをはじめています。自宅で仕事ができない人は、こういったサービスを活用するのもひとつの方法です。

一般のコワーキングスペースは1時間数1,000円程度で利用できます。一方、ホテルの貸室サービスは1週間単位で料金を設定している施設が多いようです。しかしいずれも、借りたいときに「満室でサービスを利用できない」というリスクがあります。

都会と田舎それぞれに拠点を持つ「デュアルライフ」

新たな仕事場にふさわしい「第2の拠点」を求め、地方都市へ出かけて行く人たちもいます。

軽井沢や那須、熱海など、古くからの別荘地に中古住宅を買ったり借りたりして、そこにパソコンを持ち込んで仕事をする人たち。彼らは、都市と地方のデュアル(=dual、「2通り」の意)ライフを実践する「デュアラー」と呼ばれています。

実は、このような生活スタイルは昭和時代からありました。

地方選出の政治家が週末の金曜日に地元へ帰り、週明けの月曜日に東京へ戻ってくる「金帰月来(きんきげつらい)」がそのルーツです。その後に一般企業サラリーマンの「単身赴任」があり、1990年代には「週末田舎暮らし」ブームが広まります。

ニュアンスはそれぞれ違うものの、「居場所の二極化」という捉え方をすれば同義です。都会よりも、広大な自然に包まれた地方都市でのびのびと仕事をすれば作業効率が高まりますし、なによりリゾート気分が味わえるのが大きな魅力です。

先輩デュアラーに聞くデュアルライフの「良い点」「困った点」

海辺に拠点を持つデュアラー・Aさんのケース

都内の出版社で働くデザイナーのAさんは、房総半島の海辺に「第2の拠点」を購入しました。

購入当初は月1回程度しか訪れていませんでしたが、勤務先のテレワーク導入に伴い、都内の自宅よりも海辺の家で過ごすことが多くなったそうです。漁師町の一軒家で、かすかな波の音を聞きながら仕事ができる、クリエイターには最適な環境です。

そんなAさんが一番苦労したのは近所付き合い。隣の漁師一家とは、いまでこそ円満な関係が築けていますが、入居した当初は顔を合わせる機会が得られず、商店街の八百屋や米屋の店主経由で「顔繋ぎ」をしてもらい、数ヵ月後にやっと挨拶ができたといいます。

「隣にどんな人が住んでいるのか心配だった。もっと早く話をしていれば良かった」と、打ち解けてくれたそうです。その後、台風の際には被害状況の連絡をくれたり、在宅時には漁で獲れた魚を分けてくれたりなど交流が続いています。

高原に拠点を持つデュアラー・Bさんのケース

有名温泉地に程近い高原の別荘地に「第2の拠点」を構えたITエンジニアのBさんは、週に1日だけ都内の勤務先に出勤する以外は、ずっとこの高原の家にいます。都内近郊の顧客数社を定期的に訪問する業務もありますが、コロナ禍の影響ですべてWeb面談に切り替わりました。

電車や車での移動時間が少なくなった分、余った時間を家族や自分のために使うことができるようになったことが嬉しいと話します。春から夏はハイキングを楽しんだり、温泉巡りをしたり、高原での暮らしを謳歌できるのもこの地ならではのメリットです。ただ、冬になると毎日のように大雪が降るため、早朝から雪かきが欠かせません。

室内の空気も氷のように冷たく、電気暖房機ではまったく暖まらないため、石油ストーブやボイラーもフル稼働させます。外に出れば、道路にも雪がたっぷり積もっていますから、スタッドレスタイヤにしっかりチェーンを巻いた車でないと出かけられません。

地元の人たちは「季節のギャップが大きいからこそ美しい自然が保たれている」と言いますが、都会暮らしが長い人にとってはなかなか慣れません。そのため、冬場は都内にある自宅に戻っていることが多く「拠点が2つあって良かった」と実感するそうです。

まとめ

コロナ禍の影響で、人が密集する都会から「3密」が避けられる地方へ移住を考え始める人が増えています。企業のテレワーク化は今後どんどん進んでいくと予想されますから、いまが移住の準備をするチャンスかもしれません。

AさんやBさんのケースのように、単純に「海が好き」「山が好き」という気持ちだけでは乗り越えられない問題も発生します。実際に住んでみないと近所付き合いは分かりませんし、その地域ならではの気候条件も、四季を通して暮らさなければ知ることはできません。

それに加え、教育・医療・商業などのインフラが都市部と比較して整っていない点も覚悟する必要があるでしょう。いきなり「移住」を決断するのはハイリスクなのです。

まずは都会と地方の2拠点、すなわちデュアルライフで「お試し移住」してみることをオススメします。