2019年10月、公的年金制度について、現在60歳から70歳までとなっている支給開始年齢の選択幅を75歳まで拡大する方向で厚生労働省の審議会の意見が一致したとの報道がありました。「人生100年時代」を迎え、収入確保に就業の継続が有効なのは確実ですが、とはいえ、すべての人が健康なまま年齢を重ねられるわけではありません。このような状況下で、現役世代はどんな対策を考えるべきでしょうか。

公的年金の支給開始年齢の推移

2019年現在、国民年金、厚生年金の支給開始年齢は原則として65歳となっています。しかし、少子高齢化による財源不足を理由に公的年金の支給開始年齢の延長が検討されています。

発足当初、厚生年金の支給開始年齢は55歳でした(国民年金はもともと65歳)。厚生労働省のデータ(平成23年10月11日 厚生労働省 第4回社会保証審議会年金部会「支給開始年齢について」)によると、厚生年金の支給開始年齢はその後、以下のように推移しています。

    • 昭和17年:男子のみ55歳(女子は適用除外)
    • 昭和19年:男子、女子ともに55歳
    • 昭和29年:男子→60歳へ段階的に引き上げ
    • 昭和60年:男子65歳、女子60歳へ段階的に引き上げ
    • 平成12年:男女ともに65歳へ段階的に引き上げ

なお、平成6年、平成12年ともに、経済の低成長や少子化、長寿化を主な理由とする引き上げとなっています。

そして2018年4月には、老齢厚生年金の支給開始年齢を原則68歳に引上げる案が、財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会の財政制度分科会で提示されました。また、厚生労働省の審議会では、現在70歳までの繰り下げを選ぶことができる年金支給開始年齢を、75歳まで繰り下げできるようにする方向で動いているとのことです(2019年10月18日NHK NEWS WEB「年金受給開始年齢 選択肢の幅75歳まで拡大で一致 厚労省審議会」) 。

まだ決定されている事項は少ないですが、このように年金の支給開始年齢を引き上げる動きは、これからも活発になると思われます。

長く働くことに対する企業側の対応

一方で、少子化による労働人口減少を背景に、企業には定年延長や再雇用、継続雇用の動きが広がっており、長く働きたい人には好都合な環境整備が進んでいます。

大和総研のデータによると、定年を現在の60歳から65歳に延長することを検討している人事部門担当者が多く、その主な理由として人手不足があげられています(2019年4月12日大和総研 コンサルティング第一部 主任コンサルタント 増田幹郎「人生100年時代における「定年延長」検討のポイント」)。

具体的な数字を見ると、平成29年のデータでは企業の79.3%が60歳定年、65歳以上定年は17.8%と、まだまだ60歳定年が多いですが、65歳以上定年は前年の16.1%より微増しています。

また、平成25年の「高齢者等の雇用の安定等に関する法律」の改正により、定年が60歳の会社であっても、原則的に、希望者に対しては再雇用制度や継続雇用制度により65歳までの雇用を確保しなければならなくなっています。

ちなみに内閣府のデータによると、従業員31人以上の企業約15万社のうち、希望者全員が65歳以上まで働ける企業の割合は74.1%となっています (「内閣府「平成29年版高齢社会白書」) 。

実際に定年後働く人は増えている

法律や企業の環境整備を背景に、実際に定年後も働く人は増えています。

先述の内閣府「平成29年版高齢社会白書」によると、65~69歳の労働力人口は平成16年に34.4%だったところから、平成29年には44.0%にまで上昇しています。また、同データによると「あなたは、何歳頃まで収入を伴う仕事をしたいですか」という質問に対し、現在仕事をしている高齢者の約4割が「働けるうちはいつまでも」働きたいと回答しています。

さらに、「70歳くらいまで」「75歳くらいまで」「80歳くらいまで」を合計すると8割近い高齢者が就業意欲を持っていることから、今後企業側の環境が整っていけば、さらに高齢者の就業人口は増えていくことが予想されます。

長く働くことに、どんなメリット・デメリットがあるか?

長く働くことができれば、そのぶん収入が得られ、年金収入と預金だけでは不足しがちな生活資金を補うことができます。また、就労は規則正しい生活につながり、心身の健康維持に有益です。さらに、企業の中で一定の役割を担い、納税することで、社会を支える充実感や張り合いを感じることもできるでしょう。こういった一連の流れが、いわゆる健康寿命の延長によい影響を及ぼす可能性が考えられます。

しかしその一方で、現役世代と同等の収入は得られないケースが多く、また、仕事の継続による身体的な負担も心配されます。

ちなみに、独立行政法人労働政策研究所・研究機構のデータによると、65歳直前の賃金水準を100とした場合の66歳時点の賃金水準は平均で87.3と、約13ポイント下がっています(平成28年6月30日 独立行政法人 労働政策研究所・研究機構「60代後半層の雇用確保には、健康確保の取組みが必要」) 。

年金の繰り下げ受給に、どんなメリット・デメリットがあるか?

高齢になってからも就労する理由は、主に経済的なものでしょう。65歳以降の就労により、年金と給料という2つの収益源を確保するだけでなく、年金の支給開始年齢を繰り下げることで、額を割り増すこともできます。

2019年現在、年金は最大70歳までの繰り下げが選択可能で、1ヵ月繰り下げるごとに0.7%支給額が増えます。70歳まで(60ヵ月)繰り下げると、42%まで支給額を増やすことができるのです。

ただし、繰り下げ支給を受けると配偶者加給年金や振替加算が支給されないということもあり、妻の年齢によっては繰り下げ支給を受けると損になるケースもある点に注意が必要です。

また、厚生労働省のデータによると、日本人男性の平均寿命は81.25歳、女性の平均寿命は87.32歳となっており、70歳まで繰り下げ受給することで、毎月の支給額は増えても、支給総額は少なくなってしまう可能性もあります(2019年7月30日厚生労働省「平成30年簡易生命表の概況」)。

繰り下げ支給の利用を考える際は、上記のようなメリット・デメリットを総合的に考えて判断しなければなりません。

余裕ある老後を実現する「不動産投資」

長く働くことによって、身体機能の維持や社会参加による生きがいの実感といった、収入以外のメリットも期待できますが、それらを人生の楽しみとして暮らすには、不安のない生活基盤があってこそだといえます。65歳以降の就労に以降の生活のすべてがかかってしまえば、社会参加を楽しむ余裕など持てません。

そのためにも、現役の頃から老後を支える基盤について考えておきましょう。賃貸収入のある不動産の所有もひとつの選択肢です。

不動産投資であれば、現役世代の給料で借金を返済し、老後は借金のない物件から家賃収入を得られます。もし老人ホームへ入る場合は、入居時の一時金に不動産売却資金を充てるといった使い方もできます。このように、不動産はさまざまな角度から老後の安心を提供してくれるといえます。

まとめ

年金財源の不足や少子高齢化問題への取り組みとして、国や企業は長く働ける環境作りに力を入れはじめています。しかし現実には、現役時代の収入を維持するのは難しく、健康不安も無視できません。その点から考えると、労働しなくてもお金を生み出し、いざというときは売却してまとまったお金が用意できる収益不動産は、頼りがいのある財産です。資産形成の選択肢として一考してみてはいかがでしょうか。