「不動産投資は相続税対策になる」という話を聞いたことはないでしょうか。副収入や老後資金の確保のほかに、相続税の負担を軽減する目的で不動産投資を始める方もいます。投資用不動産は預貯金より相続税評価額を圧縮でき、相続税の節税につながるからです。相続税対策として不動産投資が注目されるようになったのは、平成25年度の税制改正で相続税の基礎控除額が引き下げられたのがきっかけです。国税庁の資料によると、平成26年分の相続税課税対象者は5.6万人でしたが、平成27年分以降は10万人を超え、約2倍に増えました。相続税は一部のお金持ちだけの話だと思うかもしれませんが、富裕層だけが納める税金ではなくなっています。そのため、不動産投資を始めるなら、相続税の仕組みについて理解しておくのがおすすめです。ここでは、不動産投資が相続税対策になる理由や注意点について解説します。
相続税の計算方法や相続税の税率を確認しよう
不動産投資が相続税対策になる理由を理解するために、相続税の計算方法について確認していきましょう。
●相続税の計算式
相続税は、以下の計算式で求められます。
【相続税額 = 課税遺産総額(すべての相続財産 – 基礎控除額)× 相続税率】
すべての相続財産は、預貯金や株式、土地、建物、生命保険金などが該当します。財産を相続したからといって、必ず相続税がかかるわけではありません。すべての相続財産が基礎控除額を超えた場合のみ、その超えた金額(課税遺産総額)に対して相続税がかかります。
●相続税の基礎控除額
相続税の基礎控除額は、「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」で求められます。たとえば、夫、妻、子の3人家族で夫が亡くなり、法定相続人が妻と子の場合の基礎控除額は4,200万円(3,000万円 + 600万円 × 2人)です。夫から相続した財産が4,200万円以下なら、相続税はかからないので申告する必要はありません。しかし、相続財産が4,200万円を超える場合は、相続の開始があったことを知った日(通常は被相続人(夫)が亡くなった日)の翌日から10カ月以内に、所轄税務署に相続税の申告書を提出して納税する必要があります。
●相続税の税率
相続税の税率は、法定相続人が相続した財産の課税価格に応じて、以下のように定められています。
課税遺産額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
たとえば、夫の死亡により妻が1,500万円、子が500万円の課税遺産を取得した場合の相続税額は、それぞれ以下の通りです。
●妻:175万円(1,500万円 × 15% – 50万円)
●子:50万円(500万円 × 10%)
相続財産の取得金額が大きくなるほど税率も上がる仕組みになっており、相続税の最高税率は55%にもなります。相続税の負担を軽減するには、相続財産の課税価格を少しでも小さくする必要があります。
不動産投資で相続税評価額が下がる仕組み
不動産投資が相続税対策になるのは、相続財産を投資用不動産(土地・建物)で保有すると、預貯金や株式より相続税評価額が下がるからです。
ここでは、土地・建物の相続税評価額について解説します。
●土地の相続税評価額
土地の相続税評価額は、一般的に路線価で評価されます。路線価とは、相続税や贈与税の計算の基礎となる土地の価格で、国税庁が毎年7月1日に公表します。路線価の評価割合は時価の約80%になるため、預貯金や株式に比べて相続税評価額を下げられます。また、自分の土地にある建物を他人に貸し出している場合は「貸家建付地」に分類され、評価額をさらに20%程度下げることが可能です。
●建物の相続税評価額
建物の相続税評価額は、固定資産税評価額で評価されます。固定資産税評価額とは、固定資産税や不動産取得税などの計算の基礎となる土地・建物の価格で、市町村が毎年3月~4月に公表します。固定資産税評価額は建物建築費の60%程度になることが多いため、預貯金や株式より相続税評価額を下げられます。また、建物を他人に貸し出している場合は、評価額をさらに30%下げることが可能です。
●預貯金と投資用不動産の相続税評価額を比較
預貯金と投資用不動産で相続税評価額がどのように変わるのか、5,000万円の財産を相続するケースで比較してみましょう。5,000万円を預貯金で相続する場合、5,000万円がそのまま相続税評価額になります。一方、土地2,000万円、建物3,000万円(合計5,000万円)で相続する場合の相続税評価額は以下の通りです。
●土地:1,280万円(2,000万円 × 80%(=路線価)× 80%(=貸出しによる評価額減額分 1 – 20%))
●建物:1,260万円(3,000万円 × 60%(=固定資産税評価額)× 70%(=貸出しによる評価額減額分 1 – 30%))
●合計:2,540万円(1,280万円 + 1,260万円)
相続税評価額を5,000万円から2,540万円まで圧縮できました。あくまで概算であり、実際の評価額は物件の状態や地域によって異なりますが、投資用不動産で相続することで、相続税評価額を半分近くまで下げることが可能です。
相続税対策だけを目的とした不動産投資は間違い
ここまで解説してきたように、投資用不動産は預貯金や株式より相続税評価額が下がるので、不動産投資は相続税対策に有効です。しかし、賃貸経営をするという意識を持たずに、相続税対策だけを目的に不動産投資を始めるのは間違いです。物件選びに力を入れずに空室リスクが高い物件を購入してしまうと、賃貸経営に失敗して、節税額を超える損失を抱えることになるかもしれません。不動産投資では、空室リスクが低い物件に投資して、安定した賃貸収入を得ることが最も大切です。相続税対策で不動産投資を始めるなら、相続する家族が困らないように、賃貸需要が旺盛な地域の物件を選びましょう。