331人が1億円以上を手にした2017年の仮想通貨

国税庁が2017年分の確定申告をまとめたところ、「雑所得の収入が1億円超あったとした納税者のうち、仮想通貨の売買で収入を得ていた人が少なくとも331人に上る」ことがわかりました。仮想通貨によって億万長者となった人のことをいう「億り人」という言葉が生まれるなど、仮想通貨の話題が世間を賑わせています。

この記事では、仮想通貨の基礎的な解説と、コインチェック問題、そして仮想通貨が今後投資対象としてどうなのかについて説明します。

仮想通貨とは

仮想通貨は、硬貨や紙幣などの実体がなく、インターネット上で取引される通貨。電子署名やブロックチェーンといった暗号技術を組み合わせて成立することから、暗号通貨とも呼ばれます。専門の取引所で、円やドル・ユーロ・人民元などの法定通貨と交換でき、逆に仮想通貨を法定通貨に戻すこともできます。

仮想通貨には中央銀行などの公的な発行主体や管理者は存在しません。中央集権型でなく、分散型の相互監視によって成り立っています。また、法定通貨には発行量に上限がありませんが、多くの仮想通貨で発行上限が定められています。仮想通貨は法定通貨ではありませんが、日本では資金決済に関する法律の第2条5項において定義されています。

「電子署名」「ブロックチェーン」「マイニング」

取引(トランザクション)を発行する際に電子的な証明書を使用します。これを電子署名といい、公開鍵方式と呼ばれる技術を利用しています。ある人が、その人だけが保有する秘密鍵で取引内容を暗号化します。暗号化された取引内容を復号するための公開鍵は公開されています。この仕組みにより、その取引が本当にその本人(秘密鍵の保有者)によって作成されたことが証明できるのです。

しかし、何らかの原因でこの暗号鍵が盗まれると、勝手に送金トランザクションを作られる(仮想通貨が盗まれる)ようなことが起こってしまいます。

ブロックチェーンは、その仮想通貨に関するあらゆるトランザクションを記録した台帳のようなものです。複数のトランザクションをまとめたものをブロックと呼び、それが鎖のようにつながっていくのでブロックチェーンと呼ばれています。電子署名で正当性が確認されたトランザクションのデータのみが書き込まれます。ブロックチェーンは改ざんが不可能であり、世界中で保管されているのでデータがすべて失われることはありません。

ブロックに値を書き込む作業がマイニングです。ランダムな値を入力し、偶然に正解の値を発見するまで作業が継続されます。高性能のマシンが10分程かかってようやくひとつの値が発見できるというほど大変で、これが改ざん不可能の原因になっています。値の発見に成功すると、報酬が支払われます。

例えばビットコインでは、マイニング作業が成功したときにビットコインで報酬を支払うことで新規発行が行われていきます。発行量が上限に近づいて新規発行が行われなくなると、ビットコインのやり取りの際に支払う手数料によって報酬が支払われるようになります。

仮想通貨でできる3つのこと

仮想通貨は、商品やサービスの購入など決済に利用することができます。日本ではビックカメラでビットコインによる決済ができます。海外でビットコイン支払いができる場所が増えていますが、両替の手間や手数料がかからなくてすみます。仮想通貨は送金にも利用できます。銀行では海外送金に数千円もの手数料がかかりますが、仮想通貨は送金の手数料が格安であり、無料の場合もあります。

しかし現在は、このように日常生活で利用するよりも、投資目的で使われることがほとんどです。仮想通貨の値動きは激しく、一日に数10%以上も上下することも珍しくありません。「ボラティリティが高い」と言われます。さらにFX(外国為替証拠金取引)のようにレバレッジをかけて取引することもできます。仮想通貨の投資はハイリスク・ハイリターンです。

コインチェック事件の経緯と原因

2018年年明けの仮想通貨の相場急落の中、コインチェック事件が起こりました。1月26日、国内大手の仮想通貨取引所であるコインチェックは、取扱仮想通貨の一つである「NEM(ネム)」が約580億円分流出したことを認めました。

原因は不正アクセスでした。後日判明したところによると、電子メール経由で外部から送り込まれたウイルスに従業員のパソコンが感染、秘密鍵が盗まれ、不正な送金につながりました。コインチェックは仮想通貨の管理に「コールドウォレット」を使用しているとしていましたが、実際は「ホットウォレット」でオンライン状態で管理していました。オフライン状態のコールドウォレットであれば安全でしたが、システム構築の難易度が高くコストもかかるため、未対応だったのです。

コインチェックが「マルチシグ」対応をしていなかったことも原因でした。これは、各顧客が電子署名に用いる秘密鍵を複数に分けることで、たとえ一つの秘密鍵が漏れても安全を確保できるという、仮想通貨NEMが持つ機能です。

翌1月27日、コインチェックはNEMの保有者に対し、自社資本による補償を発表しました。1NEMを88.549円とする交換比率での法定通貨(日本円)での補償となり、3月中旬に実施されました。

盗まれたNEMの行方は、ホワイトハッカーのRin MIZUNASHI(JK17)氏やNEM財団によって追跡されました。その後、ブロックチェーン技術を利用して盗まれたNEMの送金先口座を特定し、当該口座は凍結されました。

金融庁の指導・関与が強まる

コインチェックでのNEM流出事件を受け、金融庁は1月29日に同社に対し業務改善命令を出し、2月13日までに事件の原因等について文書で報告をするように命じました。さらに2月2日、同社への立ち入り検査を行っています。

そして3月8日、コインチェックを含む仮想通貨交換業者7社に対し、2社に業務停止命令、5社に業務改善命令の行政処分が発表されました。交換業者で初の業務停止命令を受けたのは、登録申請中のみなし業者のビットステーションとFSHOの2社です。顧客資産の私的流用などが確認され、1ヶ月間の業務停止を命じられました。2社はコインチェックと同様にみなし業者でしたが、登録申請を取り下げ、廃業しました。コインチェックへの2度目の業務改善命令は、経営体制の抜本的な見直しの要求でした。業務改善計画を3月22日までに書面で提出し、業務改善計画の実施完了までの間、1ヶ月毎の進捗・実施状況を、翌月10日までに書面で報告するよう求められました。

その後の4月16日、コインチェックはインターネット証券大手のマネックスグループに買収されました。全株式取得による買収額は36億円。今後はマネックスグループの完全子会社として、仮想通貨取引所の運営を再開する予定です。

これらの処分を見ると、金融庁は仮想通貨や取引所に対し、将来的に可能性のある分野として潰しはしないものの、より関与を強めていく姿勢であると思われます。顧客資産の流用や資金洗浄などへの対策が不十分な体制の取引所は、登録拒否されたり、退場させられたりしていくでしょう。

今後も期待される仮想通貨。ただし注意して投資しよう

相場の急落やコインチェック事件などがあったため、仮想通貨はすで終わったという見方をしている人もいます。2017年に仮想通貨の取引をした人は350万人と言われていますが、多くの人の投資意欲が大きく減退したといわれています。実際、仮想通貨全体の時価総額は、2018年年初に最高値8355億ドルを記録しましたが、8月8日に2509億ドルの年初来最安値となりました。

しかし、9月現在でも相変わらず取引が活発に行われ、関連技術も日々発達しています。終わるどころか、逆に徐々に世間へ認識され、定着しつつあります。ただ、人々の警戒心のほか、世界中で監督当局のより厳重な管理下に置かれつつあることもあり、2017年のようなバブル的な高騰が再び発生することは難しいと考えられます。

仮想通貨を取引する取引所選びのポイント

  • ・セキュリティの高さ、予定されている損失補償の内容
  • ・取り扱っている仮想通貨の種類、手数料(スプレッド)の安さ
  • ・使いやすさ、サーバー能力の高さ

そのほか、仮想通貨の投資に関することでは、マイニングは個人レベルで参入してももはや儲かる次元ではなく、ICO(投資と引き換えに自作の仮想通貨を渡す)はスキャム(詐欺)が多いことで有名なので、手を出さないほうが賢明です。

仮想通貨界隈の有名人のTwitterでの発言が相場に与える影響が大きいため、投資を考えるならそれらのアカウントのフォローするのもおすすめです。まだまだ盛り上がりをみせる仮想通貨。しっかりと自分自身で情報収集をして、利用してみてください。