賃貸物件のオーナーにとって「家賃滞納」は頭の痛い問題です。入居者側にもさまざまな事情があり、すべてが悪意というわけではないのかもしれませんが、いずれにしてもオーナーにとっては不利益なことです。

だからといって滞納者宅の玄関ドアに「家賃を払え!」と張り紙をしたり、予告もなく室内に押し入ったり、勝手に家財などを処分してしまったらオーナー側が罪に問われることになります。

家賃滞納への対応は紳士的かつ合法的に進めていくことが賢明です。ならず者の入居者をスマートに追い出すためのフローを段階ごとに解説します。

家賃滞納常習者の言い分とは?

毎月ちゃんと家賃を支払っていた入居者でも、何かしらの理由で生活状況が変わると家賃滞納の常習犯に変貌することがあります。

たとえば、会社をリストラされて収入がなくなれば、転職先がみつかるまでは預貯金を切り崩しながらの生活となるため「払いたくても払えない」状況に陥ります。または、大病を患ったり事故などで大けがをしてしまうと、収入減のほか入院・治療費もかさむため家賃の支払いはより厳しくなります。

一方、毎月の支払期限を忘れてしまうルーズな滞納常習者もいます。こういう人は基本的に支払い義務を果たすという意識が低く、「督促されたら払えばいい」程度にしか考えていないものです。

最悪なのは、在室している気配はあるものの電話もメールも「音信不通」の滞納常習者です。玄関ドアへの張り紙や抜き打ちの訪問は入居者のプライバシー侵害になりかねないので、オーナーや賃貸管理会社は対処のしようがありません。

滞納発生! 大家がまず取るべき行動は?

オーナーが直接賃貸管理を行っている物件であれば、毎月末日までに家賃の着金が確認できなければ速攻督促がはじまるかもしれませんが、賃貸管理会社では督促までに若干の余裕を持たせているところが多いようです。

ある賃貸管理会社から聞いた話では、毎月25日~末日の家賃支払い締日までに入金してこない入居者は全体の2~3割程度いるといいます。そのため翌月5日頃まで待ち、それでも着金確認できなかった場合は6日以降督促の連絡を入れます。

すなわち、毎月6日を過ぎても入金してこない入居者が「真の滞納者」ということになります。この督促連絡と並行して、オーナーや賃貸管理会社がやるべきことがあります。

代位弁済

最初に行うことは、連帯保証人または家賃保証会社に代位弁済をお願いすることです。近年は家賃保証会社との契約が主流となりましたから代位弁済の手続きもFAXやメールでスムーズにできます。

これによりオーナーの家賃回収は叶いますが、この後、代位弁済を引き受けた家賃保証会社は入居者への「家賃取り立て」を行うことになります。とはいえ、玄関に張り紙、抜き打ち訪問など強引な手段は家賃保証会社の立場でもNGです。そのため、少し厳しい手段に切り替えて督促を行うことになります。

内容証明郵便

「内容証明郵便」は、いつ、誰から誰へ、どんな内容の文書が送られたかを郵便局が証明する郵便物です。家賃督促を行おうとするオーナーはもちろん、賃貸管理会社、家賃保証会社等もオーナーの代理人として作成できます。

文面に「期日までに家賃の着金が確認できない場合は賃貸借契約を解除する」と記載して送付すれば、滞納者に対してプレッシャーを与えることができます。

内容証明郵便は郵便認証司有資格者がいる郵便局窓口で受け付けていますが、その場合既定の形式が守られていないと受理されない場合もあるので、手続きが簡単な「電子内容証明サービス(e内容証明)」をおすすめします。

代位弁済申請が何度も続き、さらに内容証明郵便を送っても滞納状態が改善しないのであれば、大々的な法的手段に出るしかありません。

法的手段にはどんなものがある?

支払督促

「支払督促」は、賃貸住宅の住所地を管轄する簡易裁判所へ申し立てを起こすものです。書類審査のみなので裁判所に出向く必要はありません。支払督促の書面を滞納者が受け取ってから2週間以内に異議の申立てをしなければ、強制執行の申立てに進むことができます。

<支払督促に必要な書類>
・申立書(各簡易裁判所にある定型用紙)
・申立手数料(滞納額に応じた収入印紙)
・相手方に書類を送るための郵便切手
・添付書類等(必要に応じて登記事項証明書)

少額訴訟

「少額訴訟」も簡易裁判所へ申し立てを起こすものです。1回の審理で判決が下される特別な訴訟手続で、滞納額60万円以下の訴訟が対象となります。

原告(オーナー)の訴えが認められても、滞納者の経済状況によって分割払、支払猶予、遅延損害金免除の判決が下ることもあります。また、訴訟の途中で「和解」に進み解決することもでき、その際は「和解調書」に基づき強制執行を申し立てることができます。

<少額訴訟に必要な書類>
・訴状(各簡易裁判所にある定型用紙)
・申立手数料(滞納額に応じた収入印紙)
・相手方に書類を送るための郵便切手
・添付書類等(必要に応じて登記事項証明書、戸籍謄本、訴状副本)

民事訴訟

「民事訴訟(不動産明渡訴訟)」は、滞納額140万円以下の訴訟は簡易裁判所へ、140万円を超える訴訟は地方裁判所へ申し立てを起こすものです。

他の2つの訴訟とは違い本格的な裁判形式が取られるもので、裁判官が法廷で双方の言い分を聞き、これまでの滞納状況や内容正面郵便などの督促に関わる証拠を確認し、最終的な判決が下されます。

原告(オーナー)の訴えが認められても、滞納者の経済状況によって5年を超えない範囲での分割払の判決が下ることもあります。また、訴訟の途中で「和解」に進み解決することもでき、その際は「和解調書」に基づき強制執行を申し立てることができます。

<民事訴訟に必要な書類>
・訴状(各裁判所にある定型用紙)
・申立手数料(滞納額に応じた収入印紙)
・相手方に書類を送るための郵便切手
・添付書類等(必要に応じて登記事項証明書、戸籍謄本、訴状副本)

法的措置は滞納3か月以降から

賃貸借契約関連の裁判事例を紐解くと、1か月分程度の家賃滞納では「賃貸借契約の解除は無効」という判決が多く、そして契約解除を認める判決のほとんどが「3か月分以上の滞納」を根拠としています。

要するに、3か月の滞納期間を経なければ司法は動かないということです。しかし、本来の目的は「強制退去」ではなく「家賃の回収」です。電話連絡や内容証明郵便の送付など毎月コツコツ督促を続けていくことで改善に結び付く場合もあります。

また、それらの努力は後日訴訟を行うこととなった際、「督促のエビデンス」として有効に活用できます。まずは滞納常習者に「家賃支払い義務を果たす」という大人の責任を自覚させることからはじめるしかありません。

まとめ

毎月ちゃんと家賃を払っていた入居者でも、リストラ、病気、事故などさまざまな理由で生活状態が変わると、家賃滞納の常習犯になってしまうことがあります。中には支払期限を忘れてしまう不届き者もおり、賃貸物件オーナーの悩みの種となっています。

家賃滞納がはじまったら、まずは連帯保証人や家賃保証会社に「代位弁済」をお願いしましょう。滞納が慢性化するようであれば、郵便局が差出人・宛先や記載内容を証明する「内容証明郵便」を送付して滞納者に対してプレッシャーを与えることも効果的です。

内容証明郵便が効かない場合は、簡易裁判所から書面を送付する「支払督促」、1回の審理で判決が下される「少額訴訟」、本格的な裁判形式で行われる「民事訴訟」などの手段を取るしかありません。