賃貸経営上の心配事といえば、入居者による騒音、火災、そして孤独死といったトラブルです。もしも入居者の不注意や不慮の事故によって、自分が所有する賃貸物件の資産価値が下げられてしまったら、オーナーはどのように対処すれば良いのかについて解説します。

トラブルを起こさない入居者は意外と少ない

毎月の家賃をきちんと支払い、室内はいつも清潔に保ち、住人間のトラブルも起こさない、そんな賃借人が賃貸物件オーナーの理想像かと思います。しかし、それらの好条件をすべて兼ね備えた優等生はなかなかいません。多くの賃借人が何かしらの問題を起こし、オーナーを悩ませるものです。

家賃滞納のトラブルは口座にお金が入ってこないことですぐに気付くことができますが、賃借人が賃貸住宅内で日々どのように暮らしているかまではなかなか読み取ることができません。

たとえば真夜中にTVやオーディオを大音量で視聴している、賃貸借契約で「禁煙」と取り決めしている室内で常習的にタバコを吸っている、慢性的に体調が悪く毎日寝込んでいるなど、隣室の入居者からの指摘やクレーム、最悪は事件・事故が起こってからでないと発覚しないケースがほとんどです。そういったトラブルの代表的なものが「騒音」、「火災」、そして「孤独死」です。

「騒音」のクレームが出たら…オーナーの対応は?

ある不動産オーナーが所有する1棟アパートの入居者(賃借人A)からクレームが入りました。その内容は「隣の住人(賃借人B)が夜中に大音量でTVを観ている」というものでした。それを受け、オーナーはアパートのエントランスに「入居者各位 夜間のTV等の音量は控えめに…」といった趣旨の警告文を貼り出しました。

しかし、その後も騒音は収まりません。そのためオーナーは騒音を出していると思われるBのポストへ注意喚起の書面を投函しましたが、相変わらず改善は見られませんでした。このような場合、次にオーナーが打つべき手は何なのでしょうか?

1棟アパート・マンションの場合

騒音源の賃借人がはっきりしており、その賃借人に対してオーナーから再三警告したにもかかわらず生活態度を改善しない場合、その行為が「賃借人の用法遵守義務違反」に当たるとみなされれば、オーナーはこの賃借人との賃貸借契約を解除し、退去を要請することができます。

区分マンションの場合

自ら所有する区分マンションに住む賃借人が、他の所有者の賃貸住戸からの騒音に悩まされている場合、オーナーはまずマンションの管理組合へ連絡を取り、騒音減の住人や住戸の所有者に向けて注意喚起してもらえるよう依頼することが賢明です。

騒音対策の注意点

マンションなどの共同住宅の場合、騒音が、どの住戸から出ているのかの特定は難しいものです。当初は隣住戸からの騒音と思いこんでいたものが、実は上階の住戸から壁や天井を伝って響いていたというケースもあります。住人同士の信頼関係を壊さないよう、注意喚起は慎重に行う必要があります。

また賃借人から騒音のクレームを受けたにもかかわらず、オーナーが何の対策も講じることなくこの状況を放置した場合、オーナーは「不作為に対する不法行為責任」を負うとみなされ、被害を被った側の賃借人に対して損害賠償のペナルティを課せられることもあります。

入居者が「火災」を起こしたら…オーナーの対応は?

ある不動産オーナーが所有する区分マンションで火災が発生し、室内の壁や床に大きな損害が出てしまいました。消防や警察の現場検証により、火災の原因はこの部屋に住む賃借人のタバコの不始末であることがわかりました。このような場合、オーナーが打つべき手は何でしょうか?

1棟アパート・マンションの場合

1室で起こった火災が廊下や階段室などを介して建物全体に広がってしまうと、その被害総額は莫大なものとなります。しかし、火元となった賃借人側の火災保険から賄わせることは難しく、原則としてオーナー側の火災保険を利用して修復工事を行うことになります。

区分マンションの場合

「タバコの不始末」など賃借人の過失が明白であれば、室内の修繕費用は賃借人側の火災保険(借家人賠償保険)から支払われることになります。万が一、火災が隣住戸まで延焼してしまった場合、オーナー側の火災保険本契約に「類焼損害保障特約」が付いていれば、被害を受けた隣住戸にも共済金が支払われます。

火災対策の注意点

火災の原因が、賃貸借契約上「禁煙」と取り決められていた室内での「タバコの不始末」だった場合は賃借人の重過失となります。そうなると、加害者である賃借人は被害者であるオーナーや共同住宅の住人に対する損害賠償を負うことになります。

火災の原因がわからない、または消防や警察による原因究明に日数がかかる場合、修復費用は一旦オーナー側の火災保険で立て替えることになりますが、火災の原因が判明し、責任の所在が賃借人にあると確定されれば、オーナー側の火災保険会社がオーナーに代わって賃借人に対し修復費用の請求を行うことになります。

火災保険金は基本的に修復工事を終えた後の支払いとなりますが、1棟マンションの大規模工事で見積が高額な場合は、工事着手前に一部費用を先払いしてくれる火災保険会社もあります。

入居者が「孤独死」してしまったら…オーナーの対応は?

もし所有する賃貸物件で孤独死が発生してしまったら、オーナーはどう対処すればよいのでしょう?

第一発見者となってしまったら、生存の可能性があれば救急車の手配を、亡くなっていることが明らかであれば警察への通報を行います。死亡が確認されたら、賃貸借契約時に聴取しておいた緊急連絡先や連帯保証人へ連絡を取ります。

1棟アパート・マンションの場合

基本的に区分マンションと対応は同様です。ただし、区分マンションであれば1戸のリスクに留まりますが、1棟物件は戸数が多い分リスクが高くなります。なぜなら、1棟物件における1室のみの孤独死であっても、その事実を知った他の賃借人が嫌悪を感じ続々と退去してしまう可能性があるからです。そして、その後の入居者募集も困難を極めます。

区分マンションの場合

亡くなってすぐに発見されれば良いのですが、夏場は数日で遺体の状態が悪化してしまうと、その後の原状回復作業にも大きく影響します。法的には賃借人の死亡後も賃貸借契約は継続されるため、室内に残された家財道具をオーナーが勝手に処分することはできません。

そこで、亡くなった賃借人の親族と契約解除や今後の費用分担などについて話し合うことになります。話し合いが決着すれば原状回復費用は親族負担となりますが、賃借人に身寄りがない場合は全額オーナー負担になってしまう可能性もあります。

孤独死対策の注意点

賃貸住宅内で死亡事故が発生した場合、これまではオーナーや管理会社の任意判断で心理的瑕疵のある「事故物件」であることの告知が行われてきましたが、事件・事故性のない死亡まで告知するルールにしてしまうと、多くのオーナーが高齢者の新規入居を避けるようになってしまいます。

そこで国土交通省は「自殺・殺人、または死亡の発見が遅れたため特殊清掃を行わざるを得なくなった場合を除き、病死・自然死の告知義務は行わないで良い」というガイドラインを策定しました。加えて、マンションなど共同住宅の共用部で起きた事件・事故による死亡事故についても、発生から3年間が経過すれば告知の義務はないとしています。

まとめ

入居者による騒音、火災、そして孤独死のトラブルは、オーナーが未然に防ぐことが難しいトラブルです。しかし発生後の対応を熟知していれば、焦らず、冷静に対応することができます。改めて火災保険の契約内容を確認したり、定期的に賃貸物件の居住状況を確認に出かけるだけでも、万一の事態に備える体制は固められます。