団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年を間近に、不動産市場においても高齢者向け住宅のニーズが高まりをみせています。これからの不動産投資は、若者需要だけでなく高齢者市場にも参入していくことが必要です。

そこで、高齢者向け賃貸アパートの代表格として注目されている「サービス付き高齢者住宅(サ高住)」について紹介します。

高齢になってからの賃貸探しは過酷

賃貸住宅のオーナーが最も歓迎するのは、年齢が若くて安定した収入を得ている入居者であることは言うまでもありません。そういった属性の良い入居者と契約を結ぶため、多くのオーナーは入居申込みが入ると家賃保証会社(以下、保証会社)に依頼して申込者の属性調査を行います。

そこに、収入は年金だけ、子供や親戚などの身寄りがなく、若干足腰も不自由な高齢者が申込みをしてきたらどうでしょう。申込書を見た途端にお断りするのは失礼なので、とりあえずは属性調査に通してみますが、ほとんどの保証会社は契約を勧めない意味の「未承認」回答を出すでしょう。

未承認の理由は明かされませんが、概ね高齢であることや、収入源の心細さに所以するのだと推測できます。さらにいえば、体力的な衰えからくる室内でのケガ、不注意による水漏れや火災、最悪は孤独死と、オーナーにとってハイリスクな高齢者の新規入居を勧めるわけにはいかないからです。

拠所ない事情から70~80歳代で新たな住まい探しをはじめるケースは稀ではありません。終の棲家と決めて長年暮らしていた賃貸住宅が老朽化により解体されることになった、息子家族に自宅を譲り老夫婦2人だけで暮らしはじめることにした、海外の自宅から一時帰国した際の仮住まいを確保しなければならないなど、経済的困窮以外の理由でも賃貸住宅を探す高齢者は意外と多いのです。

保証会社は原則入居申込時点での就労状況を重視して審査を行います。無職でも預貯金のエビデンスで承認を出すケースもあるようですが、高齢者の場合は預貯金が潤沢にあっても厳しいようです。

高齢者が安心して余生を過ごすために

高齢者が新たに賃貸住宅の入居契約を結ぶのは大変困難なことです。気に入った物件が見つかっても、オーナーの意向や属性調査の結果によって門前払いされてしまいます。このような状況を見兼ねて、国土交通省では高齢者等の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度「住宅セーフティネット」を立ち上げます。

しかし、この制度には「空き家・空き室解消」という社会目標も付加されているせいか、登録されている物件は老朽化が著しかったり、エレベーターなし、風呂なし、トイレ・洗面所が共同など、家賃をドン底まで下げても借り手が付かない不人気物件ばかりです。これでは制度として機能しているとはいえません。

住宅セーフティネットと並行して国交省が推進している制度がもう一つあります。それは「サービス付き高齢者住宅(=サ高住)」です。

いずれも「高齢者の居住の安定確保に関する法律」に則った賃貸住宅の登録制度ですが、サ高住の登録条件は住宅セーフティネットとは異なり、高齢者の生活に即した設備やサービスの充実が求められる厳格な内容となっています。

「サービス付き高齢者住宅(=サ高住)」の登録条件

 専有部の床面積を25㎡以上にすること。
 専有部にキッチン・トイレ・浴室・洗面設備、収納があること。
 専有部・共用部ともにバリアフリーであること。
 入居者の安否確認・生活相談サービスが提供されていること。

サ高住は「老人ホーム」と同じものと認識している人がいるようですが、両者は基本的な契約形態が異なります。

老人ホームは施設や介護・生活支援などといった「サービスを利用する」ための権利に対する契約であるのに対し、サ高住は一般の賃貸住宅と同じ「建物を使用する」ための賃貸借契約を結ぶものです。サ高住の契約形式では借地借家法が適用されるので、老人ホーム以上に入居者の居住権が守られます。

サ高住オーナーのメリットとしては、施設の固定資産税・不動産取得税の優遇が受けられることや、施設の新築・改築時に補助金が受けられることなどがあります。加えて、サ高住は高齢者対象のため、一般の賃貸住宅と比べて引っ越し(=退去リスク)が少ない上、競合物件が少ないため家賃の下落リスクも低く抑えられます。

施設の立地環境も利便性の良い場所である必要はありません。入居者の日常生活は施設内でほぼ完結できるため、交通網未発達の地方都市であっても賃貸需要は十分期待できます。そして一番の魅力は、高齢化問題に対する社会貢献が実践できる投資であることです。

「サービス付き高齢者住宅(=サ高住)」経営をはじめるには?

個人の不動産投資家や中小企業経営者でもサ高住の運営ができるのか、シミュレーションしてみましょう。

施設の建築用地

前述の通り、サ高住の立地は生活利便性が良くない場所でも経営は成り立ちます。最近話題となっている地方都市の「ゼロ円物件」であっても、その土地が市街化区域内にあり、災害指定区域外、公道への接道義務を満たしているなど、共同住宅の建築が可能な場所であれば候補に挙げても問題ありません。

施設新築工事の費用

土地が確保できたら次は建物の建築計画です。通常、サ高住(10戸程度)の新築には1.5~2億円程度の建築費がかるといわれていますが、事前にサ高住の事業者登録を行っておけば、国から建築費の補助(建築費全体の1/10。上限あり)が受けられるほか、一定の要件を満たせば住宅金融支援機構から融資を受けることもできます。

管理・サービス業者との提携

施設建築中は、建物管理を委託する不動産業者や、入居者の生活支援サービスを委託するホームヘルパーや医療機関を探します。施設が地方都市にある場合、オーナー自身が頻繁に現地へ出向くことは難しいので、多数の委託先候補とじっくり面談し、信頼のおける業者がどこか、吟味して決めることが重要です。

入居者募集

施設完成間近となったら入居者募集を開始します。募集は現地周辺に限定して行う必要はないので、新聞折込チラシよりもインターネットの高齢者向けポータルサイトへの広告掲載の方が効果的かもしれません。また、国土交通省のホームページの「サービス付き高齢者住宅 情報提供システム」でも募集情報が掲載されるので、そこからの反響も見込めます。

賃貸借契約締結~入居開始

一般的な賃貸住宅と同様に賃貸借契約を結ぶことになりますが、契約内容は、長期入院などを理由に事業者から一方的に解約できない条件になっているなど、高齢者の居住の安定が確保されたものである必要があります。

契約中に入居者から受領できる金銭は、敷金、家賃、生活支援サービス費のみとなり、契約時に敷金を預かるか否かについては施設・地域によって異なります。その他、医療法人などが運営しているサ高住では、生活支援サービス費を受領していない施設もあります。

契約時に家賃・生活支援サービス費の前払金を受領することもできますが、その際は、具体的な内訳、返還金の算定方法について明示しなければなりません。またこれらの前払金は、施設の完成前に受け取ることはできません。

まとめ

多くのハウスメーカーはこれまで、地方都市にある大学・専門学校近隣での「学生向け1棟アパート投資」を提案してきましたが、近年はその提案内容を「サ高住投資」へと切り替えています。

その中には土地探しから施設建築、賃貸運営まで一括で請け負う会社もあるので、個人投資家でも取り組みやすくなっていることは事実です。アパートローン借入が厳しい上に少子化も相まって、従来の若者向けセオリーでは収益は頭打ちです。助成金や融資も受けられるサ高住投資は、時代に即した賃貸経営戦略といえるでしょう。