東京2020オリンピック・パラリンピックは終了しましたが、都心ではまだまだ再開発ラッシュが続いています。昭和のオリンピック期とは違った「令和の時代にふさわしい街づくり」が実現できるよう、開発を手掛ける自治体や民間デベロッパーもコンセプトワークに心血を注いでいます。そこで、東京都内で鋭意進められている注目の再開発事業について紹介します。

オリ・パラが再開発事業の起爆剤に

コロナ禍の襲来によって無観客開催となってしまったものの、東京2020オリンピック・パラリンピックは何とかその行程を全うすることができました。役割を終えた晴海の選手村はマンションに、一部の競技会場は臨時医療施設に、その他の施設は改修・解体されるという話も聞こえてきます。レガシーとして残される競技施設は少ないかもしれませんが、オリ・パラ特需を受けて、「幻」といわれていた再開発事業の多くが日の目を見ることになったことは確かです。

虎ノ門・麻布台地区第一種市街地再開発事業(虎ノ門・麻布台地プロジェクト)

施行者:虎ノ門・麻布台地区市街地再開発組合
施行地区:東京都港区虎ノ門5丁目、麻布台1丁目および六本木3丁目の各地内
施行面積:約8.1ha
設計者:森ビル
用途:住宅、事務所、店舗、ホテル、インターナショナルスクール、中央広場、文化施設他
竣工:2023年春予定

施行面積8ha超、港区虎ノ門・麻布台・六本木の3町にわたるビッグプロジェクトです。
港区といえば、国内外の大企業が入居するオフィスビルや世界各国の大使館が林立するビジネスタウンとして知られますが、この再開発地内に限っては、昭和の街並みがそのまま残る、昔ながらの木造低層住宅街でした。東西にわたる谷地形である上に、老朽化した建物も数多く見られたため、都市防災の観点から「包括的な街並み改善が必要」として今回の再開発に至ったものです。

再開発地内では、土地の合理的かつ健全な高度利用、そして都市機能の更新とともに国際性豊かで魅力ある複合市街地の形成が図られ、オフィス・住宅・ホテル・インターナショナルスクール・商業施設のほか、地元の氏社である「西久保八幡神社」も取り込みながら、バラエティに富んだ街づくりが行われます。

渋谷駅桜丘口地区第一種市街地再開発事業

施行者:渋谷駅桜丘口地区市街地再開発組合(組合員および参加組合員/東急不動産)
施行地区:東京都渋谷区桜丘町および道玄坂一丁目の各地内
施行面積:約2.6ha
用途:事務所、店舗、起業支援施設、住宅、サービスアパートメント、教会、駐車場等
竣工:2023年度予定

渋谷駅周辺は昔から、東西南北いずれも往来が困難なことで有名でした。それは、渋谷の地名にもある谷地形に災いするものです。駅南側に位置する桜丘エリアにおいても、国道246号線や東横線の線路に阻まれた「通行の不便さ」に悩まされてきました。

今回の再開発では、ペデストリアンデッキをはじめとする立体的な歩行者ネットワークを整備することで地形の高低差や鉄道・幹線道路によるエリアの分断を解消し、駅・周辺市街地との回遊動線の構築を図ります。再開発地内には、店舗・住宅のほか、外国企業・外国ビジネスマン等に対応した国際医療施設や、サービスアパートメント、子育て支援施設を導入するとともに、産学連携による渋谷発のベンチャーを育成する起業支援施設も整備されます。

神宮前六丁目地区第一種市街地再開発事業

施行者:神六再開発株式会社
権利者および特定事業参加者:東急不動産
施行地区:東京都渋谷区神宮前六丁目の各地内
施行面積:約0.3ha
用途:店舗、公共公益施設、鉄道用変電施設、駐車場等
竣工:2022年度予定

2020年春、JR原宿駅がリニューアルされたことは記憶に新しいところです。外観は近代的に、駅構内の通路も広くなって快適に利用できるようになりました。次に行われるのは、表参道と明治通りが交差する神宮前交差点の南西角にあたる「神宮前六丁目」地区での再開発事業です。

この地は東京メトロ明治神宮前駅の直上にあり、原宿駅はもちろん東京メトロ表参道駅からも徒歩圏に位置します。今回の再開発では、明治通りの道路拡張工事とともに街区を再編・統合し、土地の有効・高度利用を図り、立地特性に相応しい商業拠点等を整備していきます。

晴海五丁目西地区第一種市街地再開発事業(HARUMI FLAG)

施行者:東京都
権利者及び特定事業参加者:三井不動産レジデンシャル(代表会社)、エヌ・ティ・ティ都市開発、新日鉄興和不動産、住友商事、住友不動産、大和ハウス工業、東急不動産、東京建物、野村不動産、三井不動産、三菱地所レジデンス
施行地区:東京都中央区晴海五丁目の一部
施行面積:約18ha
用途:住宅、公共施設
竣工:2023年秋予定

東京2020オリンピック・パラリンピックの選手村として利用された建物の再利用とともに、大会後のレガシーとなる街づくりに取り組んでいくのがこの再開発事業です。

「晴海」エリアは都心至近でありながら、水辺や緑地に囲まれた良好な環境にも恵まれています。それにもかかわらず、有効に利用されていない大規模な土地も数多く存在していました。そこでこれらの土地を、まずはオリ・パラの選手村用地として一時使用し、オリ・パラ終了後は土地利用転換を行い、選手村として利用した建物は分譲・賃貸住宅にリフォームすることで、多様な人々が交流し快適に暮らせる新しい街を創り上げるという計画です。

再開発地内には住宅だけでなく、東京湾に面した公園、スーパーマーケットをはじめとするさまざまな生活利便施設が揃う大型商業施設、小・中学校、保育施設などが整備されます。

大手町二丁目常盤橋地区第一種市街地再開発事業(東京トーチ)

施行者:三菱地所
施行地区:東京都千代田区大手町二丁目及び中央区八重洲一丁目
施行面積:約3.1ha
用途:事務所、店舗、変電所、下水施設、駐車場等
竣工:2027年秋予定

JR東京駅に程近い「大手町」エリアでは、老朽化した建物を連鎖的に建て替えていくことを目的した再開発が段階的に進められてきました。今回のプロジェクトはその第4弾事業にあたり、建物リニューアルと並行して、下水施設・変電所をはじめとする都市基盤の更新、東京駅~日本橋周辺を結ぶ地下歩道・地下交通結節空間の構築が行われます。

新たな建物は「常盤橋タワー」と「トーチタワー」の2棟で構成され、常盤橋タワーはすでに完成、建物の周囲には緑豊かな公園やカフェテラス、錦鯉が優雅に泳ぐ鑑賞池などが配された潤いのランドプランが広がっています。この後、2027年に地上62階・高さ約390mを誇る「トーチタワー」が完成したあかつきには、日本における超高層ビルの最高記録が更新されることになります。

まとめ

再開発事業は、表向きは行政主導に見えますが、実際は民間企業(デベロッパー)が数十年の長い年月をかけて調査し、地域住民を説得した上で行政に提案・懇願して成り立つものです。

デベロッパーの営業手段はとても地道で、対象地域内の町会が催す神事やお祭りへ社員を積極的に参加させ、餅つきや神輿担ぎ、福引の景品提供といった地域支援を続けます。デベロッパー社員と住民との間には次第に信頼関係が芽生え、住民は自ら所有する土地をデベロッパーに委ね、再開発に賛同することを決意します。

しかし、住民の同意を得て再開発事業がスタートしたとしても、竣工までさらに長い年月がかかります。年老いた地権者は、「自宅で最期を迎えたい」や「体力的に(仮住まいへの)引っ越しは難しい」などと決意を翻すことも少なくありません。そこからまた、デベロッパーの長い試練がはじまります。再開発事業とはまさに「終わりの見えない」ビジネスなのです。