2027年の開業が予定されているリニア中央新幹線。水面下ならぬ地中ではその工事が着々と進んでいます。

新駅予定地はもちろんのこと、隣駅エリアの住民までもが「我が家の不動産価値も爆上がりするのでは…」と浮足立っているようです。果たして、新幹線駅開業による経済効果は期待できるのでしょうか?

そしてその影響は隣駅まで波及するのでしょうか? 過去事例を参考に検証します。

品川~名古屋間が最速40分で結ばれる

現在、首都圏から中京圏、将来的には近畿圏までを結ぶ超電導リニアによる中央新幹線計画が進行中です。「首都圏~近畿圏にはすでに東海道新幹線が走っているのに、なぜもう一路線作る必要があるの?」と疑問を持ちますが、その理由は既存路線の老朽化と「南海トラフ巨大地震」への備えです。

東海道新幹線は同地震の想定震度6強~7の地域をなぞるように走っています。万一地震災害が起きた際、老朽化も相まって鉄道設備が壊滅し、多大な人的被害が出る可能性も考えられます。そういった理由から、リニア中央新幹線の準備が急がれているのです。

リニア中央新幹線の新駅予定地は、品川駅(東京都港区港南)、神奈川県駅(仮称・相模原市緑区)、山梨県駅(仮称・甲府市大津町付近)、長野県駅(仮称・飯田市)、岐阜県駅(仮称・中津川市千旦林)、名古屋駅(愛知県名古屋市中村区)の6ヵ所で、開通のあかつきには、品川~名古屋間が最速40分で結ばれるということです。

まことしやかに囁かれる「便乗特需」

リニア中央新幹線の開通準備が着々と進む中、新駅開業予定地の地元住民ばかりでなく、その隣駅の住民までもがソワソワとしています。

某隣駅徒歩圏に自宅を持つ住民は、「リニアのせいで土地価格が上がったら、不動産屋からしつこく営業をかけられたり、地上げ屋が乗り込んで来るのでは…」と不安を漏らします。その反面、「高く売れるのなら売ってしまい、タワーマンションにでも引っ越そうか」と目論んでもいるようです。

とんだ狸の皮算用に聞こえますが、まんざらでもないかも知れません。実際、過去に開通した新幹線沿線では、隣接する2~3駅も含めて地価が高騰したケースはあります。果たして今回も同様の便乗特需が起こるのか、気になるところです。

北陸新幹線新駅の評価は大きく分かれる

ここで、比較的開業時期が新しい「北陸新幹線」沿線駅(長野駅~金沢駅)の土地価格推移を見てみましょう。以下は、北陸新幹線の開業年である2015年と、その5年後の2020年の相続税路線価について、各駅前の定点路線価をピックアップして土地価格の伸び率を算出したものです。
※2020年の相続税路線価は2020年1月1日時点の公示地価のため、2020年春以降に深刻化したコロナ禍の影響は受けていないものと考えます。
※路線価が定められていない地域や、駅前再開発中のため個別評価が必要とされる地域に所在する駅は除外しました。

・長野駅
2015年の土地評価額:285,000円/㎡
2020年の土地評価額:295,000円/㎡
評価額の伸び率:3.5%

・糸魚川駅
2015年の土地評価額:52,000円/㎡
2020年の土地評価額:46,000円/㎡
評価額の伸び率:▲11.5%

・富山駅
2015年の土地評価額:370,000円/㎡
2020年の土地評価額:440,000円/㎡
評価額の伸び率:18.9%

・新高岡駅
2015年の土地評価額:79,000円/㎡
2020年の土地評価額:82,000円/㎡
評価額の伸び率:3.8%

・金沢駅
2015年の土地評価額:590,000円/㎡
2020年の土地評価額:960,000円/㎡
評価額の伸び率:62.7%

マイナス成長の糸魚川を除けば、いずれも土地価格は上がっており、とくに金沢の高騰は顕著です。

金沢はもともと観光スポットが多いものの公共交通機関に乏しく、新幹線開業が待ち望まれていたこともあり、開業によって爆発的に観光・ビジネス利用が増加したことも影響しているものと推測します。一方下落した糸魚川では、新幹線開業年から市役所が独自に駅乗降者数を調査しており、その結果を見たところ乗降者数に顕著な変化は見られず、盆休・秋行楽の時季はむしろ減少しているような状況です。

新幹線開通で隣駅の不動産価値はどうなる?

ではいよいよ、新幹線開業駅の隣駅の土地価格推移について検証しましょう。まずは隣駅のラインナップです。

長野駅の隣り:北長野駅(北しなの線)、安茂里駅(信濃本線)
飯山駅の隣り:北飯山駅、蓮駅(いずれも飯山線)
上越妙高駅の隣り:南高田駅、北新井駅(いずれも妙高はねうまライン)
糸魚川駅の隣り:梶屋敷駅(日本海ひすいライン)、姫川駅(大糸線)
黒部宇奈月温泉駅の隣り:舌山駅、長屋駅(いずれも富山地方本線)
富山駅の隣り:稲荷町駅(富山地方本線)、西富山駅(高山本線)
新高岡駅の隣り:二塚駅、高岡駅(いずれも城端線)
金沢駅の隣り:東金沢駅、西金沢駅(いずれも北陸本線)

次に、各隣駅の相続税路線価から算出した土地価格の伸び率です。
※北飯山、蓮、北新井、梶屋敷、姫川、舌山、長屋、二塚の8駅は路線価が定められていなかったため除外します。

・北長野駅(北しなの線)
2015年の土地評価額:56,000円/㎡
2020年の土地評価額:55,000円/㎡
評価額の伸び率:▲1.8%

・安茂里駅(信濃本線)
2015年の土地評価額:51,000円/㎡
2020年の土地評価額:51,000円/㎡
評価額の伸び率:0%

・南高田駅(妙高はねうまライン)
2015年の土地評価額:40,000円/㎡
2020年の土地評価額:35,000円/㎡
評価額の伸び率:▲12.5%

・稲荷町駅(富山地方本線)
2015年の土地評価額:35,000円/㎡
2020年の土地評価額:37,000円/㎡
評価額の伸び率:5.7%

・西富山駅(高山本線)
2015年の土地評価額:34,000円/㎡
2020年の土地評価額:35,000円/㎡
評価額の伸び率:2.9%

・高岡駅(城端線)
2015年の土地評価額:84,000円/㎡
2020年の土地評価額:78,000円/㎡
評価額の伸び率:▲7.1%

・東金沢駅(北陸本線)
2015年の土地評価額:60,000円/㎡
2020年の土地評価額:62,000円/㎡
評価額の伸び率:3.3%

・西金沢駅(北陸本線)
2015年の土地評価額:68,000円/㎡
2020年の土地評価額:66,000円/㎡
評価額の伸び率:▲2.9%

ご覧いただいて分かるように、5年後の土地価格は微増または減少という結果となりました。

隣駅の皆様にとっては残念な結末となり恐縮です。しかし、ここで毎年発表される土地価格に関するニュースについて思い出してみてください。路線価の変動率全国平均は1.6%前後(2020年)が普通なのですから、稲荷町駅の5.7%や、西富山駅の2.9%、東金沢駅の3.3%は高騰している類と考えてよさそうです。

さらにいえば、金沢駅の62.7%は驚異的な数字です。総体的に見れば新幹線開通による経済効果は明らかで、そこに観光・ビジネス誘致が可能な資源が揃えばより高いリターンが望めるということです。前述の糸魚川駅の周辺も、風光明媚な海辺が近く、ヒスイ海岸やフォッサマグナといった自然観察スポットにも恵まれています。

加えて金沢に引けを取らない海産グルメの宝庫でもあります。そういった観光資源をよりアピールすることで、状況は劇的に改善されるのではないでしょうか。

まとめ

リニア中央新幹線の開業を控え、新駅予定地周辺やその隣駅エリアの土地価格高騰がまことしやかに噂されています。

実際に高騰が見込めるかどうかを、近年開業した北陸新幹線の事例で検証した結果、以前から観光・ビジネスニーズが高かったエリアは高騰し、そうでないエリアは微増、横ばい、中には下落も見られました。

単に新たなインフラに便乗するだけでは土地評価は上がらないため、各エリアで秘めたるポテンシャルを発見しアピールする努力が必要になることが分かりました。ただし、昨今のコロナ禍や経済の動きによってもその成果は流動します。たった5年のデータで結論を出すことも時期尚早かも知れません。

10年、20年と長い目で見ながら、先行投資していく勇気も必要です。