「再生可能エネルギー」には太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスなど様々な種類があります。
その中でも、近年の投資ブームで知名度が上がったのは「太陽光発電」です。不動産投資と比較されることも多い太陽光発電投資とはどんなものか、どの程度の収益をめざせるものなのか、検証します。
「東日本大震災」以前から構想されていた
ご存じの方も多いかも知れませんが、「再生可能エネルギー」への投資が注目されるようになったのは、東日本大震災を起因とする東京電力・福島第一原子力発電所の事故以降です。
この原発事故によって福島県内の6町3村に非難指示が出たほか、隣県にも放射能汚染が及ぶなど、被害は広範囲にわたりました。その後、全国各地にある原発が次々と停止・廃炉に追い込まれ、国内の電力供給がひっ迫したため、次なる発電機能である再生可能エネルギーへの取り組みが急務となったのです。
実はこの原発事故より以前の2003年、経済産業庁の「エネルギー基本計画」においてすでに新エネルギー(現在の再生可能エネルギー)の導入が提案されていました。この当時、原発での作業員被曝やずさんな管理体制が取り沙汰されており、「今後は原発に頼るだけでなく、新たなエネルギー資源を模索すべき」として風力発電や太陽光発電の名が挙がったのです。
新エネルギー改め再生可能エネルギーとは、太陽光発電、風力発電、バイオマス、水力発電、地熱発電、太陽熱利用、雪氷熱利用、温度差熱利用、地中熱利用など、発電時に二酸化炭素を発生させない「環境にやさしい」エネルギーを総称したものですが、その中で実用化が速く、投資材料としても商品化しやすかったのが太陽光発電です。
政府が収益を保証?
太陽光発電によって生み出された電力資源は、政府が定めた固定価格買取制度(FIT法)に基づいて大手電力会社が買い取るルールになっています。要は政府が各電力会社に指示をして買い取らせている形です。太陽光発電投資家と電力会社との間で締結される電力買取契約期間は20年間(設備容量の大きい商業用の場合。住宅用など小規模容量は10年間)で、契約の際の買い取り単価(=売電価格)は契約全期間固定価格になります。そしてこの売電価格は契約年度毎に異なります。
◎1kWあたりの売電価格推移 ※いずれも税別
2012年度:40円(産業用・年間発電量10kW以上の場合)
2013年度:36円( 〃 )
2014年度:32円( 〃 )
2015年度上半期:29円( 〃 )
2015年度下半期:27円( 〃 )
2016年度:24円( 〃 )
2017年度:21円(産業用・年間発電量10kW以上2,000kW未満の場合)
2018年度:18円( 〃 )
2019年度:14円(産業用・年間発電量10kW以上500kW未満の場合)
2020年度:12円(産業用・年間発電量10kW以上250kW未満の場合)
ご覧の通り、売電価格は年々下落しています。初期は導入を促す目論見で1kWあたり40円と高額設定でしたが、導入件数が飽和しつつある近年では12円まで下がっています。
とはいえ、売電価格ばかりが収益評価の対象ではありません。発電施設は24時間・356日稼働できる訳ではなく、悪天候に阻まれたり、電力供給量過多で制御されることもあります。実質的な売電総額は稼働後に確定するので、契約時の売電価格から推測することはできません。この実質的な売電総額が、太陽光発電投資の収益評価対象となります。
太陽光発電vs不動産、どちらが儲かる?
新規で太陽光発電投資を始める場合、まず土地を取得し、そこに設置する太陽光パネルやパワーコンディショナー(変換機)などの設備・施工の見積りを取り、それと並行して国や電力会社への申請・契約手続を行うことになりますが、それらがすべて整った稼働中(中古)物件を購入するという手もあります。
このような稼働中物件であれば投資用不動産と比較しやすくなります。そこで、稼働中の太陽光発電設備と中古区分マンション、それぞれ2,000万円の物件を購入した場合の収益性について比べてみました。
◎稼働中の太陽光発電設備
販売価格:2,000万円
契約年数:残16年(2017年契約・売電価格21円)
設備容量:100kW
年間維持費:50万円(設備容量1kWあたり5,000円として)
年間発電量:15万kWh
年間売電総額:200万円
利回り:7.5%
◎中古区分マンション
販売価格:2,000万円
築年数:20年経過
専有面積:25㎡
年間維持費:12万円(家賃収入の10%)
家賃収入:120万円(月額10万円×12か月)
利回り:5.4%
太陽光物件の新規契約時売電価格は1kWあたり21円でしたが、実質的な売電価格は13円(年間売電総額200万円÷年間発電量15万kWh)に留まっています。これは前述の通り、悪天候のせいで十分な太陽光が得られず発電できなかった時期や、周辺地域で必要としている電力量より発電量が多すぎて稼働抑制がかかった時期など、年間を通した売電収益にムラができてしまうためです。
太陽光発電の設備建設には広い敷地(設備容量100kWで2,000㎡以上)が必要であり、その多くは地方の山林や休耕田に建てられます。市街地と異なり、自然に包まれた地域の気候は予測が困難なほか、居住世帯もまばらで電力需要も低いため、思うように収益が得られません。太陽光発電投資の収益は立地する周辺環境に左右されるので、新規で始める際は周辺地域の気候特性、人口・世帯数、地元製造業の業種・操業状況などを入念に調査する必要があります。
中古物件の場合も、過去の売電実績は販売価格に見合っているか、年度毎にバラつきはないか、悪天候時に発電設備が故障・破損した履歴はないかについて売主から聴取しなければなりません。加えて、売電契約には「20年」という期限があります。中古で購入する場合は契約残年数のチェックも必須です。
契約終了後も、いずれかの電力会社と新たに契約を結ぶことは可能ですが、FIT法の縛りから解かれた大手電力会社が提示する売電価格(買取単価)は1kWあたり7~9円程度と非常に低額です。
利回りだけを見ると、不動産投資より太陽光発電投資の方が儲かるように見えます。しかし、年間維持費が収益の約3割を占める点や立地環境によって稼働率・収益性が不安定な点、高額買取契約に期限がある点は大きなマイナス要素になります。
再エネ発電賦課金はやむを得ない社会負担か
毎月の電気料金請求書を見ると、電力使用料金のほかに「再エネ発電賦課金」という項目が載っていることをご存じですか?
これは、大手電力会社が太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギー発電の電力買い取りに要した費用の一部を、一般消費者から電気使用量に応じて徴収しているものです。要するに、再生可能エネルギー投資家と電力会社との間で契約・設定した売買価格では赤字になってしまうため、その穴埋めを一般消費者に委ねているということです。2021年度の再エネ発電賦課金請求単価は1kWhあたり3.36円で、2020年度(2.98円)と比較して1割以上の値上げになっています。
再生可能エネルギー発電を採り入れたことにより、日本における自然エネルギーの割合は2012年度の10%から現在は20%超まで上昇しており、加えて発電によるCO2排出量は2012年度と比較して22%減少している事実を考慮すれば、再エネ発電賦課金はやむを得ない社会負担なのかも知れません。しかし、不動産投資にはこのような痛み分け制度は存在しません。
まとめ
東日本大震災以前から構想されていた再生可能エネルギーへの転換政策はまもなく大団円を迎えます。2022年以降、FIT法で護られた高額売電契約の終了ラッシュが始まるからです。それは太陽光発電投資家にとってのターニングポイント、出口戦略の時機到来を意味します。逆に投資物件購入を検討している人にとっては、適正価格であるかどうかの見極めが難しくなる時期でもあります。