駅名・地名にまつわる歴史を紐解き、その土地・地域の特性を知ることは、不動産投資においても重要なポイントです。

今回は、地名の由来から考える不動産選びについて解説します。

古い地名を冠した駅名から街の歴史を読む

土地の歴史を調べるとき、古くから開業している駅の名前は大きなヒントとなります。

現在ではすでに消滅した町名が残っている駅といえば、山手線の「田町」駅や「原宿」駅などがあります。古い駅名からは、その土地・地域の成り立ちにまつわるさまざまなエピソードを知ることができます。

そのエピソードは良いものばかりでなく、根拠のない言い伝えや災害の記録などが掘り起こされることもあります。このような悪しきエピソードを打ち消すため、実状とは真逆の華やかな駅名が付けられているケースもあるので、不動産購入の際には土地の歴史について詳しく調べる必要があるのです。

“田”が付く地名の歴史

“田”は、江戸時代以前から田畑が広がっていた地域に付けられます。山手線の駅では「田町」や「五反田」、「神田」などが該当しますが、地名の由来はさまざまです。

田町

江戸時代初期に東海道が開通された際、田畑が広がる地に商店(町屋)が増え始めたことから、田畑に町屋=田町となったとされています。いまでは田町という住居表示はなくなり、駅の住所は「港区芝5丁目」になっています。

五反田

目黒川に沿って拓かれた田畑が狭く小さかったため、「五反(約1500坪)ほどの田畑しか作れない」といわれたことから、五反の田畑=五反田となったといわれます。

神田

伊勢神宮への奉納米を作る田畑「御田(おみた)」が広がっていた歴史があり、この御田が「神田(しんでん、かんだ)」とも呼ばれたことから付いた地名といわれます。現在の神田明神はこの御田鎮守のために創建されたお社で、毎年11月には収穫の恵みに感謝する「新嘗祭」が行われています。

地名に“田”が付く地域は農作業がしやすい平地にあり、そこに暮らす人々は主要都市を結ぶ大きな街道から商業・文化の恩恵を受けながら穏やかに生活していました。現在はいずれもオフィスビルが建ち並ぶ都心の街に変わり、ここに広大な田園風景があったなど想像もつきませんが、昔もいまも、さまざまなインフラに恵まれた暮らしやすい場所であるという点では共通しているかも知れません。

“宿”が付く地名の歴史

大きな街道沿いの要所にある宿場町に付いた地名で、「新宿」や「原宿」がその代表格です。

新宿

甲州街道と青梅街道(旧・成木街道)の合流点に栄えた宿場町であった歴史に基づいています。江戸時代、甲州街道沿いには起点となる日本橋を出たら高井戸まで宿場がありませんでした。その距離がとても長かったため、旅人(主に江戸から地方へ荷物を運ぶ商人)たちが幕府に懇願し、日本橋と高井戸の中間地点にあたる大名・内藤氏の中屋敷が新たな宿場とされたものです。

ここが「内藤新宿」と呼ばれたことから「新宿」の地名が生まれました。ちなみに、現在の新宿御苑(国民公園)の敷地は内藤氏の屋敷跡で、現在も「内藤町」という町名は残っています。

原宿

江戸時代以前から、鎌倉街道の宿場町として栄えていました。もとは「隠田(おんでん)」という地名の田園地帯でしたが、土地が不毛なため凶作が続き、人々は次第に農業から商業へと生業を替えていきました。文献はありませんが、耕す者のない荒蕪な原っぱにできた宿場なので「原宿」と名付けられたのかも知れません。

宿場町として整備された街並みをベースに明治初期から都市化がはじまり、第二次世界大戦後は代々木に建てられた米軍住宅(ワシントンハウス)の居住者をターゲットにした外国人向け店舗が続々とオープンしました。その後の東京オリンピックや高度成長期を経て、億ション(コープオリンピア)誕生の地、ファッションの発信地など、流行最先端の街たるポジションを確固たるものとしてきました。

地名に“宿”が付く地域は、宿場を中心に飲食や娯楽など多くの商店が集結した歴史をそのままに、いまも賑わいが絶えません。そのため、穏やかさを求める人よりも、日々の変化を楽しみたい人、常に刺激を求めている人に向いている場所といえます。新宿や原宿周辺の不動産市場を見てみると、コロナ禍にあっても駅から近く人通りの良い道路に面した賃貸店舗・オフィス物件を中心に満室状態が続いており、いまもなお商業の中心地であり続けていることが分かります。

“谷”がつく地名の歴史

地形にちなんだ地名である“谷”を冠する駅名はたくさんありますが、中でも「渋谷」や総武線の「市ヶ谷」については歴史資料が多く残っています。

渋谷

地名の由来には諸説ありますが、ここでは地勢にまつわるものを取り上げたいと思います。

渋谷は、渋谷川と宇田川とが交わる場所に位置し、長い月日をかけて水流の浸食を受けた結果、深い谷状の地形になったとされます。明治18年の駅開業時、そして近年の駅移設工事においてもこの谷状地形が災いし、ターミナル駅でありながら各鉄道路線への乗り換え通路が上下・左右に入り組んだ複雑な駅構造になっています。乗り換えは不便ですが、乗降客数ランキングでは新宿に次いで全国2位と、暮らしに不可欠な駅であることも事実です。

市ヶ谷

地名の由来は、この地域で一番の谷である「一ヶ谷」の読みが元となったといわれる説や、市谷亀岡八幡宮の門前で開かれていた「市買」からなったなど諸説あります。市ヶ谷駅の西側に位置する「市ヶ谷台」には徳川家をはじめとする多くの武家屋敷が建てられていた歴史があります。

市ヶ谷駅の東西には台地があり、西側に市ヶ谷台、東側に邸宅街として知られる番町・麹町エリアがあります。一方、渋谷は武蔵野台地の東端にあたり、市ヶ谷と同じく東西が台地になっています。渋谷駅の西側には高級住宅街の松濤や、近年若い人の間で人気が高まっている奥渋谷(神山町など)があります。

これら2つの地域の形成状況から読み取れることは、谷の近くには必ず高台があり、その高台には不動産価値の高い街並みが存在するということです。

良い地名と、注意すべき地名

一般的に良いとされるのは、“山”や“峰”、“坂”などが付いた地名です。これらは高い位置にある土地を意味し、水はけがよく、土地や建物が崩れたり朽ちたりしにくいことに由来しているという説があります。

一方で、“蛇”や“龍” が付いた地名、または“鳴滝”や“津留”という地名は注意が必要です。これらの名が付いている地域は、過去に災害があった可能性が高く、“蛇・龍”は、のたうつ蛇や龍のように土砂が流れ出したことを、 “鳴滝”は大雨で山の斜面が崩れたことを、そして“津留”は河川の増水で堤防が決壊したことを、それぞれ子孫に伝えるため地名として残したものとされています。

まとめ

近年開業した新駅では、地名にまつわる文字を駅名に採用しない傾向にあるようです。

例えば、「〇〇谷」駅と付ければ、低地であるというデメリットをわざわざアピールすることになってしまうからです。これでは新駅のイメージダウンにつながり、駅周辺で始まるであろう新築住宅の販売にも悪影響を及ぼしかねません。

そのため、実際の地形にそぐわなくても“丘”や“台”など山の手をイメージさせる文字や、根拠不明のカタカナ文字を付けるケースが増えているのです。そんなカラクリに乗せられないためにも、不動産購入の際は現地へ足を運び、周辺の地勢や歴史について学んでみるのがいいでしょう。