「利回り7%以上、自己資金100万円程度」など、手軽さが特徴の「不動産小口化商品」が注目を集めています。

これは、本来なら1人のオーナーが数千万円を投じて購入する投資物件を、複数人で少額の資金を出し合って共同購入し、賃貸運用するという新しいビジネスモデルです。

様々なリスクを避けたい投資初心者にはありがたい商品かも知れませんが、その実態とはどんなものなのでしょうか?

「不動産小口化商品」とは

不動産小口化商品とは、複数人の投資家が1つの投資物件に共同出資し、そこから得られる家賃収入を分け合うという不動産投資商品です。投資物件の選定・購入・管理は、国から不動産特定共同事業(=不動産小口化商品の取り扱い)許可を得た不動産会社が行います。

例えば不動産会社・X社(不動産特定共同事業者)が、年間家賃収入300万円の中古区分マンションを5,000万円で購入したとします。X社はこの物件に出資する投資家を1口100万円で募集します。1人1口として50人(物件価格5,000万円÷出資額100万円)の投資家が集まれば、まずは購入費用が回収できます。

投資開始から1年後、X社は出資した投資家たちに対し6万円(年間家賃収入300万円÷投資家50人)の収益(家賃収入)を支払い、投資家たちはX社に対し物件管理費(出資金または家賃収入の3%程度)を支払います。X社はこの物件管理費を原資に賃貸運営を続けていきます。

「1人で高額な投資物件を購入するのは荷が重過ぎる」と、不動産投資デビューを躊躇している人が大多数だと思いますが、不動産特定共同事業のスタートによって、少ない資産でも不動産投資を実践できるようになりました。

100万円という少額投資では年間6万円程度の収益しか得られませんが、初心者が不動産投資の仕組みを勉強するという意味では最適の商品といえます。

不動産小口化商品にはどんな種類があるのか

現在販売されている不動産小口化商品には様々なものがあります。いくつかの事例を見ていきましょう。

・商品A-大規模事業用地への投資

物件所在地:首都圏近郊都市
投資対象:大型複合施設開発用地(土地)
出資金:1口100万円
利回り:7%
運用期間:5年

・商品B-都市型オフィスビルへの投資

物件所在地:都心部
投資対象:オフィスビル(1棟建物)
出資金:1口100万円
利回り:4%
運用期間:10年

・商品C-空き家再生支援投資

物件所在地:首都圏近郊リゾート地
投資対象:シェアハウス(一戸建て住宅)
出資金:1口5万円
利回り:8%
運用期間:5年

商品A・Bのような大規模事業用地や一棟ビルを所有することなど、個人の不動産投資家、ましてや投資初心者には縁遠い話です。それがこの不動産小口化ビジネスを利用すれば現実のものとなります。

一方、商品Cは長年使われていなかった空き家のリノベーション資金出資者を募り、その後の賃貸運営も事業者と共に行っていく、すなわちクラウドファンディング色の濃い商品になります。

運営期間中、投資家たちには対象不動産(シェアハウス)で行われるイベントへの招待や施設の優先利用権、利用料割引などが付与されます。

次に、これら3商品にそれぞれ100万円ずつ出資したと想定して年間収益を計算します。

・商品A:出資金100万円×7%=年間収益7万円
・商品B:出資金100万円×4%=年間収益4万円
・商品C:出資金100万円×8%=年間収益8万円

数字だけで見ると商品Cがもっとも魅力的ですが、前述の通りこの商品はクラウドファンディング向きのため、投資家にもリノベーション作業やイベント参加といった運営協力が求められる可能性があります。

商品Bは「都心一等地」に建つ影響もあり利回りは低めです。たとえ周辺相場より高い家賃を得ていたとしても、固定資産税・都市計画税はもちろん、OA設備やセキュリティといったビル自体のインテリジェンスを保つための維持費も高額になります。とはいえ、この立地のおかげで空室率が非常に低く、長期間安定した家賃収入が見込めることも事実です。

商品Aは、総面積40ha超の事業用地に対する投資です。対象地は、行政機関のマスタープランによるホテルとショッピングモール、コンベンションセンターを併設した大規模複合施設の建設予定地で、同プランに沿って開発を行う事業者に対して対象地を賃貸するものです。B・Cのような既存建物ではなく「土地」が投資対象となりますから、利回り7%という設定があっても、賃借人による開発計画が可決されるまで収益性は不透明です。

不動産小口化商品にはどんなリスクがあるのか

・物件管理費がかかる

前述のX社の例にある通り、不動産小口化商品には事業者に支払う物件管理費(「管理報酬」「営業者報酬」など事業者・商品によって呼び名は異なります)が発生します。相場は出資金の3%程度なので、X社物件の場合は出資金1口で年額3万円(出資金100万円×3%)、50口分の合計で150万円になります。

この物件管理費が不動産特定共同事業者にとってもっとも大きな利益になります。しかし投資家の収益は年額6万円程度で、その半分をX社に払い戻すことになるのですから、出資金を基準とした物件管理費の徴収は投資家にとって大きなロスです。一方、投資家からの圧力を受けてか、事業者によっては「家賃収入に対して3%」というところもあります。X社の例で換算すると、物件管理費は年額1,800円(年額家賃収入6万円×3%)になりますので、出資金を基準とした金額と比べるとかなりの割安感があります。商品を選ぶ際は、この物件管理費の掛け率が「出資金」にかかるのか、「家賃収入」にかかるのかを必ず確認しましょう。

・所有権登記ができない

不動産小口化商品の契約形式には「匿名組合型」と「任意組合型」などがあります。ほとんどが前者の匿名組合型を採用していますが、この場合、出資者は「家賃という配当を得るため掛金を払っているだけの匿名人」という扱いになるため、不動産の所有権者にはなれません。

すなわち「所有権登記」ができないのです。

後者の任意組合型の場合は、出資金で共有持ち分を購入する形となるため登記可能ですが、どちらかといえば収益よりも相続税・贈与税など節税目的の投資家向きです。登記できないリスクはありますが、純粋に資産運用を考えるならば匿名組合型がおすすめです。

・元本割れのリスクがある

これはどんな投資でも一緒ですが、運用期間中に出資額が目減りしてしまう可能性もあります。

X社の例に当てはめると、当初5,000万円で購入した投資物件が、運用期間終了に伴う売却の際に4,000万円にしかならなかった場合は、出資者への返還金は出資1口につき80万円(当初出資額100万円から2割減)になります。

建物自体の経年劣化や家賃相場が下落する可能性も否めませんので、そこは覚悟の上で投資するしかありません。また運用期間中でも、想定より家賃が大幅に下がってしまったり、空室が続いてしまったりした場合は配当減額、またはゼロの場合もあります。

まとめ

不動産小口化商品は100万円程度の少額から始められる不動産投資です。個人投資家では所有することが難しい大規模事業用地やオフィスビルなどでも、複数の出資者と一緒に出資することで賃貸運用ができます。また、不動産クラウドファンディング商品では、投資家の立場から空き家再生や地域支援といった社会貢献活動に参加することもできます。

その一方で、物件管理費の出費が発生することや、所有権登記ができない、元本割れのリスクがあることなども忘れてはいけません。資産運用か節税か。出資の目的を明確にし、慎重な商品選びを心がけましょう。