いつの時代にも家賃滞納や近隣紛争が当たり前の「迷惑入居者」 が横行闊歩しています。

今回は、家主の想像をはるかに超えるほどの非常識さで、場合によっては法に触れることもある入居者トラブルについて解説します。

強制退去へ持ち込ませない「家賃滞納常習犯」

入居者が引き起こす迷惑行為としてもっとも多いのが「家賃滞納」です。

昨今のコロナ禍においても、サラリーマンは職場解雇、経営者であれば事業不振で自宅や事務所・店舗の家賃が払えなくなっているケースが多発しています。こういった情状酌量の余地があるケースは仕方ないとして、中には生活状態に何の変化もないのに家賃滞納を繰り返す迷惑入居者がいます。

そういった人はいっそ生活保護支援を申請してくれれば代理納付(役所が入居者に代わって家賃を支払う制度)が受けられるにもかかわらず、その手続きを勧めても一向に応じません。

こういった迷惑入居者への対応策として、契約解除を前提とした「建物明渡請求」の訴状を簡易裁判所へ提出する方法があります。家賃の滞納が3カ月以上連続しており、家主との信頼関係が崩壊していることが分かれば、裁判所の立ち合いで強制退去させることができるというものです。

しかし滞納3カ月目の督促前に家賃の一部だけ入金してきたり、電話やメールで「いずれ支払う」という意思表示をされてしまうと、滞納月のカウントは振り出しに戻ってしまいます。滞納の常習犯はこういったテクニックを駆使して強制退去を回避してきますので注意が必要です。

勝手に「事務所使用」で固定資産税の追徴課税も

居住用マンションの場合、居室を事務所として使用したり、シェアハウスに改装して宿泊営業することを禁止している管理組合は少なくありません。

その理由は、プライベートな住空間に不特定多数の人たちが出入りすることを避けるためです。知らない人間の往来は無秩序を招き、生活環境に悪影響を及ぼす懸念があります。しかし、そこに居住していない不動産投資家にはあまり関係がないことです。

入居希望者が「SOHO(自宅兼事務所)」で使いたいとか、「友人と共同で借りたい」などと申し込んできたら、管理規約上「グレー」であるにもかかわらず契約してしまうでしょう。しかし、そこに落とし穴があるのです。

例えば、ネット通販を主とするアクセサリー作家が「SOHO使用」を目的に入居したとします。しかしSOHOの範疇に留まらず、定期的に作品展や展示会などと称して共用廊下に看板を掲げ、玄関前に来客の行列ができるような事態となったら完全に「管理規約違反」です。

実際の例として、管理組合がこの事実を税務署に通報したために、家主が固定資産税の追徴課税(居住用税率から事務所用税率へアップ)を求められたケースがあります。

「友人と共同使用」も然りです。一人が契約者となり、固定の友人のみ居住させると誓約しておきながら、実際はシェアハウス営業していたケースがあります。

管理組合から「不特定多数が出入りしている」とクレームが入ったため家主が確認したところ、室内には複数の小部屋が造られており、その中に契約者の友人とは考えにくい外国人がいました。外国人はメモ書きで「paid 30,000 yen for 2 weeks」と滞在権利を主張したため、契約者のルール違反が確定しました。

このように、申込み時は「問題なし」と判断しても、実際入居が始まると思いもよらない事態となるケースがあります。契約前の慎重なチェックと、入居後は定期的な現場パトロールが必要かも知れません。

「オレオレ詐欺」や「ネット犯罪」絡みで晒された賃貸物件の末路

不動産検索サイトを覗いてみると、東京都心部でも、1坪5,000円~6,000円(20㎡で月額3万円台)と家賃激安の賃貸事務所を見つけることができます。そのほとんどが昭和築の古い物件で、5階建て以上でもエレベーターなど付いていません。そしてこれらの物件には、古いだけでないもう一つの「安い理由」があります。

事例1 : スタートアップを支援できると思っていたら…

東京都内の地下鉄駅から徒歩5分にある小規模事務所(約6坪・家賃6万円)の賃貸募集に対し、20歳代のIT系企業経営者から入居申込みがありました。家主は「若い起業家のスタートアップを支援できる」と快く契約しました。

IT系ということで、家主から「OAフロアを敷設しますか?」と提案したところ、「通信設備は携帯電話で足りるので不要です」と断られました。この入居者は契約から半年足らずで退去してしまったのですが、後日警察から電話があり、この事務所がオレオレ詐欺の拠点に使われていたことが分かりました。

事例2 : 後を断たない落書きや張り紙

都内某所の官公庁街にある中規模事務所(約30坪・家賃30万円)に、架空請求・誹謗中傷トラブルといったネット犯罪を専門とする弁護士法人が入居しました。

ネット犯罪の加害者らによる嫌がらせと思われますが、事務所建物の外壁には、所属弁護士らを名指しした落書きや張り紙が後を絶たず、いたたまれなくなった弁護士法人は早々に退去していきました。しかし退去後も落書き被害は続き、次の入居者がなかなか決まりませんでした。

一度でも犯罪関係者が入居してしまうと、その賃貸物件にはいつまでも悪い噂がこびりついてしまうものです。

事例1のオレオレ詐欺に利用された小規模事務所は、事件報道で住所が特定されてしまったため「事故物件」として扱われて、以後家賃を下げて募集せざるを得なくなりました。

事例2の弁護士法人が入居していた中規模事務所も、落書き被害の噂が薄れるまでは低家賃で募集を続けるしかありませんでした。何より一番の被害者は、その物件を所有している不動産投資家であることに間違いはありません。

管理怠慢で物件価値を落とした「カビ屋敷」の女主人

都内にある富裕層向け賃貸戸建内でその事件は起こりました。

入居者である女性経営者の私有財産が、大規模なカビ被害に見舞われたのです。エルメスやルイ・ヴィトンといった高級ブランドバッグやシャネルのスーツが、ある日突然カビだらけになり、「クリーニングに出しても除去できないほどのカビが発生している」と家主にクレームが入りました。

これらの物品は、地下にある約10畳のクローゼットに収納されており、クローゼットの隣にある浴室からの湿気も相まってカビが増殖したのではないかと推測されました。

入居者は、高度な技術を持つクリーニング業者に依頼するための費用を家主に要求してきましたが、家主は「入居者の換気・清掃管理が行き届いていなかったことが原因」として支払いを拒否。それを受けて入居者は速攻退去を申し出、「退去後は裁判所に訴える」と言い放ちました。

その後、入居者と家主の双方に弁護士が付いて話し合いが持たれました。入居者側は「私有財産のカビの完全除去費用と敷金の全額返還」を要望、家主側は「室内カビの特殊清掃費を含むハウスクリーニング費用を差し引いた敷金返還」で対抗しました。

賃貸借契約期間は10年経過しており、入居者の原状回復義務期間(6年)は終了しています。しかし、カビによる壁や床の深層部被害も出ているため、これでは物件価値も下がります。家主側は「ハウスクリーニング費用だけでなく、建物のカビ被害を弁償する費用も貰いたいくらいだ」と嘆いています。

この記事のまとめ

・家賃滞納を理由に入居者を強制退去させる方法には「建物明渡請求」があるが、3カ月以上連続した滞納履歴が必要であり、それを阻止しようとする滞納常習犯もいる。
・入居申込み時には「問題なし」と思って契約しても、入居後にルールを破る悪質な入居者もいる。
・犯罪の温床となった、または犯罪被害を受けてしまった賃貸物件は評価が下がり、低家賃でしか貸せなくなってしまう。
・入居者側か家主側か、責任の所在が分からない賃貸トラブルは、紛争・訴訟に発展する可能性がある。