東京オリンピックの開催に備え、都心部のいたるところで市街地再開発が始まり、首都圏各地でも鉄道新路線・新駅開業など交通インフラの再構築が進行しています。交通の便が良くなると、これまで閑散としていた街が人で溢れるようになり、周辺は見違えるように華やかになります。交通インフラは、その土地の価値を昇華させる力を持っているのです。
今回は、近年開業した新駅に注目し、その将来性について検証したいと思います。
10年以上前に開業した新駅の現在は?
2000年代初頭は、各地で鉄道新駅が続々開業しました。2005年開業のつくばエクスプレス線「柏の葉キャンパス」駅や、2008年開業のJR武蔵野線「越谷レイクタウン」駅、そして何かと話題が豊富なJR横須賀線「武蔵小杉」駅(2010年開業)もこの時期に開業しています。
武蔵小杉駅以外はその地域に初めてできる駅です。需要がまったく読めないため、さまざまなネガティブ議論も持ち上がりましたが、いずれもこの数年間で劇的に変貌しました。
開業16年目の「柏の葉キャンパス」駅
若者に人気のブランドショップやカフェが林立することから「千葉の原宿」とも呼ばれるJR常磐線「柏」駅から北へ約4kmの場所に「柏の葉キャンパス」駅はあります。
街並み作りのテーマは「国際学術都市」で、駅周辺には大学や政府関連の研究施設が多数建っています。この地はかつて日本陸軍の飛行場でしたが、終戦後は米軍に接収され無線通信施設(キャンプ・トムリンソン)となりました。1979年に米軍から返還され、1985年に千葉県立柏の葉公園が造られたものの、約20年間は広大な空き地の状態でした。その後1996年に東京大学柏キャンパス、1999年に警視庁科学警察研究所、2003年に千葉大学環境健康フィールド科学センターと学術・研究施設が次々と誕生し、人の行き来が活発になったことで新駅開業に至ったのです。
同駅周辺の人口推移(柏北部中央地区)を見ると、開業2年後の2007年には625人だったものが、2020年には1万906人と約17.4倍という驚異的な増加となっています。駅の乗降者数も、開業年の2005年は3,916人だったものが2019年には1万8,015人と約4.6倍になっています。大手デベロッパーや住宅供給公社などによる駅前マンション開発が進んでいる影響もあると思いますが、人口の増加に対して駅利用者数があまり伸びていないということは、この地に住まいを移した世帯が増えたことを表わしています。
同駅では、環境対策や高齢化対策に根差した「スマートシティ」構想が進んでおり、自動運転バスの導入、脱炭素社会に向けた太陽光発電設備の設置、クラウドシステムを応用した医療機関待ち時間情報の共有・遠隔チェックインなどのサービスが計画・実行されています。
開業13年目の「越谷レイクタウン」駅
埼玉県越谷市といえば、かつてその中心地は東武伊勢崎線とJR武蔵野線が交わる「新越谷」・「南越谷」駅周辺でした。しかし現在、その地位は「越谷レイクタウン」駅に奪取されています。
駅前に広がる美しい街並み、その先には衣・食・住すべてを賄う分譲マンション群、大型ショッピングモールが整備され、週末は東京ディズニーリゾートを超える利用客が訪れています。
賑やかな街並みを抜け、駅から5分ほど北へ歩くと、水辺のリゾートを彷彿とさせる「レイクタウン湖畔の森公園」にたどり着きます。公園の中心にある湖の名は「大相模調節池」といい、水害に弱い越谷市全域の治水を一手に引き受けています。
越谷市は平均海抜5m程しかない低平地で、昔は土地特性を生かした水田稲作が盛んでしたが、市街地開発が進むにつれて水田が減り、周辺河川・用水路の水の行き場がなくなったため、大雨の際は広域で住宅浸水が起こるなど水害が絶えなくなりました。そこで、地区整備事業が予定されていた同市東町(現・レイクタウン)で、水害対策を盛り込んだニュータウン開発が始められたのです。
治水機能と景観の美しさを兼ね備えたレイクタウンの人気は絶えず、周辺の人口推移(越谷市)は開業当時の2008年に32万440人だったものが、10年後の2018年には34万3,770人になり、駅の乗降者数も2008年に1万184人だったものが2018年には2万8,422人と約2.8倍まで伸びています。
武蔵野線は「東京行」表示が多いため都心直通と思われがちですが、これは千葉県の西船橋・市川塩浜駅方面に向かい、そこから京葉線を経て東京駅へ向かう遠回りルートになります。東京駅へのアクセスは、武蔵野線下りで南浦和駅に向かい京浜東北線乗り換えが最短ですが、これでも約1時間かかります。越谷レイクタウン駅のネックを挙げるとすれば、都心通勤が面倒な点です。将来予定されている東京メトロ有楽町線の延伸に期待したいところです。
開業11年目のJR横須賀線「武蔵小杉」駅
JR横須賀線「武蔵小杉」駅周辺は昭和初期からの工場地帯で、駅の利用客もそこで働く工員がほとんどだったため、ブルーカラーの街というイメージが色濃くありました。平成時代に入ると駅前に超高層のタワーマンションが建ち始め、2000年以降は総戸数300戸を超える大規模物件も続々と登場し、パチンコ店や飲み屋で埋め尽くされていた昭和の街並みはどんどん様変わりしていきました。
さらにこのJR横須賀線駅開業で再開発エリアは駅南地区へ拡大、大型ショッピングセンターや教育・医療施設など各種インフラも整いました。人口推移(川崎市中原区)は開業当時の2010年には23万3,925人だったものが、8年後の2018年には25万8,119人に、駅の乗降者数(JR線のみ)も2010年に9万9,617人だったものが2019年には12万9,194人と約1.3倍の伸びを示しました。
既存駅があったにもかかわらず利用者が増加した原因には、都心に通勤するタワマン居住者が増えたことに由縁するものでしょう。品川駅へ2駅10分、東京駅へ4駅18分など快適な都心アクセスが大きな魅力となり、住みたい街ランキングでも上位に名を連ねるようになりました。
しかし、この快適な街にも課題はあります。それは旧市街地とタワマン住区の分断です。人口増加によって駅が混雑し、また食料品などの物価も上昇したとのことで、穏やかな下町ライフを謳歌していた旧住民は怒り心頭のようです。
開発に関わった企業の担当者もエリアマネジメントの必要性を訴えていますが、具体的な動きは見えてきていません。
今後に期待したい、開業ホヤホヤの新駅
2020年3月に開業したJR山手・京浜東北線の「高輪ゲートウェイ」駅は2024年に街開きを予定していますが、駅西側(港区高輪側)・東側(港区芝浦側)ともに鋭意工事中で、コロナ禍や東京オリンピック延期により工期が先延ばしになっている部分もあるようです。
そのほか、2019年11月に相模鉄道とJR の相互乗り入れ開始と同時に開業した「羽沢横浜国大」駅も注目すべき新駅で、2023年完成に向けて大手デベロッパーなどがショッピングモール直結の駅前タワーマンション構想を立ち上げるなど、今後の駅前開発に注目が集まっています。
まとめ
不動産広告にはよく「新駅開業予定」という謳い文句が書かれています。不動産購入の際に注意したいのは、その新駅が果たして期待しただけの発展を遂げるかということです。
開業前に青田買いしておいた方が、開業後の転売で値上がり益が得られる可能性は高いのですが、予想通りに開発が進まなかったり、予定していた事業が先送りになったりする可能性もあります。新駅のポテンシャルは、開業10年後以降に明らかになります。青田買いに危険を感じたら、数年様子を見るのがいいかも知れません。