名門公立小学校の周辺には、通学区の住所を確保するための賃貸需要があります。以前はワンルームマンションを借りて住民票だけ移す方法が主流でしたが、最近は学校側の監視が厳しくなり、実際に居住実績がないため入学が認められなかったケースも出ているそうです。

築40年以上でも20万円もの家賃収入を得られるエリアは都心部でも限られています。今回は都心4区における「通学区マンション投資」のあり方について説明します。

家賃が高くても、千代田区に住みたい理由

夫婦と子供1人の3人家族が、千代田区一番町で賃貸マンションを探しています。希望間取りは2LDK・60㎡以上、予算は家賃20万円、「一番町に住めれば、古い物件でも良い」といいます。ちなみに、東京23区にあるファミリータイプの平均家賃は月額15万円程度です。千代田区といえば都心エリアですから、予算20万円は妥当かと思いますが、なぜこの夫婦は相場より高い家賃を払ってまでこのエリアに住もうとしているのでしょう?

「子供を名門公立小学校へ通わせたい」

それが夫婦の目的です。東京都内には、有名私立と同様に人気のある公立小学校があります。千代田区の番町小学校・麹町小学校、中央区の久松小学校・泰明小学校、港区の白金小学校・青南小学校、文京区の誠之小学校・千駄木小学校など、いずれも「中学受験に強い」といわれる公立小学校です。

これらの小学校へ通う6年生児童の約8割が、私立または国立・都立中学校の受験に挑戦しているといいます。

中学受験に強い4区の進学率は?

東京都教育委員会では毎年、公立小学校を卒業した児童の進路等について調査を行っています。

データは23区別にまとめられており、そこから各区の私立・国立・都立中学校進学率を算出することができます。中学受験に強い公立小学校が立地する4区のデータを見てみますと、文京区(46.7%)と港区(42.8%)の進学率が4割以上、次いで中央区39.7%、千代田区34.2%も3割以上と高い数値となっています。

この他、目黒区(37.2%)、渋谷区(37.1%)、世田谷区(36.2%)も高めの傾向にあります。目黒区には私立中学校が6校、世田谷区には20校もあるため、地域的に私立中への進学に抵抗がないことが理由と推測されます。

渋谷区については、いわずと知れた青山学院のお膝元であり、それが高い進学率につながっているのかも知れません。

通学区内の賃貸住宅争奪戦がはじまる

・千代田区の「住所」獲得が激しいワケ

子供を私立小学校へ入学させたい場合は、さまざまな習い事をさせ、お受験スクールへ通わせるなど、子供本人と両親の努力が必要ですが、名門公立小学校を目指す場合は通学区内の「住所」を得られればそれだけで済みます。要は引っ越しをすれば入学権利を確保できるということです。

各エリアの通学区内への引っ越しラッシュは入学年の前年秋からはじまり、入学直前の3月頃まで続きます。4月上旬(入学式前)までに引っ越しを済ませれば入学権利が得られますが、余裕を持って入学1年前から物件探しを始め、良い物件が見つかればすぐに契約するという人も少なくありません。通学区内にある不動産店の話では「まだ子供がよちよち歩きのうちから内見を重ねて、数年かけて希望物件を絞り込んで決める人もいる」とのことです。

「引っ越しすれば済む」とはいうものの、エリアによってはそれも困難な場合があります。注意すべきは千代田区の公立小学校入学を目指す場合です。理由は2つあります。1つは、新入学生(1年生)の定員数です。

千代田区:8校・547人
中央区:16校・1,467人
港区:18校・1,820人
文京区:20校・1,820人

上記の通り、他の3区と比較して極端に少ないことが分かります。

もう1つの理由は、ファミリータイプ(70㎡台)賃貸マンションの入居者募集戸数です。

千代田区:21戸
中央区:82戸
港区:173戸
文京区:50戸
※2021年6月現在、レインズ調べ

こちらも、ほかの3区と比較して1~4割程度の戸数しかありません。千代田区は、新築マンションの供給戸数も他区と比べて非常に少なく、一戸建て住宅販売などほぼ皆無です。不動産業界においては、千代田区内で新規分譲が開始されれば「即日完売」が常識になっているほどです。

それだけ千代田区内の不動産は希少価値があり、築40年以上の古いマンションでさえも坪単価300万円以上の高価格で取引される所以なのです。

・港区と中央区は「小学校選択制」

千代田区と文京区については、余程の理由がない限り越境入学は許可されませんが、港区と中央区においては、通学区指定校以外の小学校が選べる「選択制」が導入されています。

中央区の場合は、施設に余裕がある5校(泰明小学校を含む)から選ぶことができます。港区は、教育方針に特色がある隣接2~3校(居住エリアによっては白金小学校・青南小学校を含む)から選択が可能です。

中央区と港区に限っては通学区以外からでも人気の公立小学校に入学できるチャンスがあるので、より広い範囲で物件探しができそうです。

しかしそこにも落とし穴があり、通学区外からの越境希望者が予定人数をオーバーすれば抽選となり、抽選から漏れれば本来の通学区指定校へ通わざるをえません。また、通学区内の児童数が定員に達することが明らかな年度については、ほかの通学区からの受け入れを停止する可能性もあります。

・10年未満で転居するケースが多い

国税調査によると、中学受験に強い4区における居住年数10年以上の人口比率は極めて低く(千代田区19%、中央区21%、港区19%、文京区30%)、10年未満の割合(千代田区34%、中央区40%、港区29%、文京区38%)を大きく下回っています。永住者が多ければ、人口が年々累積されていくはずなのにパーセンテージが低いということは、「転出者が多い」証拠です。

仕事の都合による転出はもちろんあるでしょうが、通学区居住のため一時的に転入したケースも多いのかも知れません。

「通学区マンション投資」を考えるなら

大きな需要がある「通学区」のマンションですが、居住年数10年以上の人口比率が低い点を鑑みると、投資先としては一抹の不安も募るでしょう。そこで、そうした地域での投資を検討する際に抑えておきたいポイントをまとめますので、参考にしてみてください。

・ファミリータイプを選ぶ

最低でも50㎡以上のファミリータイプを選ぶことです。以前はワンルームを借りて、子供の住民票だけを移動して入学させたケースもあったようですが、現在はチェックが厳しくなり、実際に家族が居住しているかどうかの確認が行われる可能性があります。

・築古物件でもOK

とくに千代田区は供給戸数が限られているため、外観にある程度の古さが感じられても、室内リフォームを施せば賃貸需要は十分に見込めます。ただし、旧耐震基準(1980年以前の建築確認)建物の場合は、管理組合による耐震補強工事済みの物件が望ましいところです。

・確実に通学区内に立地していること

千代田区や文京区では通学区指定校以外の小学校へは入学できませんので、通学区リストをしっかり確認して間違いのない物件選びをしましょう。また、港区や中央区であれば小学校選択制がありますが、入学予定児童数の状況で選択校が変更になる可能性もありますので、こちらも人気校の指定学区を守って物件探しを行った方が賢明です。

まとめ

我が子を名門公立校に通わせたいがために、高い家賃を支払ってでも都心の住まいを求める親がいます。

そういったニーズが比較的高いのは千代田区・中央区・港区・文京区です。これらの地域では、入居者が10年前後で退去するケースがほとんどですが、家賃の見直しや、水回りを含めたリフォーム計画も立てやすい点などは、メリットともいえます。

これら4区の中古マンションは築古でも高額ですが、「千代田区に住まうことが自分の誇り」「我が子のために高額家賃でも支払い続ける」という意識の高い賃借人に恵まれているので賃貸運営は安泰です。