市場価格よりおトクに購入できるとされる「競売不動産」。掘り出し物件の見つけ方や入札方法、落札後のスケジュールなど、物件引き渡しまでのフローについて説明します。

競売不動産はいかにして世に出るのか?

まず、競売不動産がどのような経緯で売りに出されるのかについて説明します。

競売に至るには2つのパターンがあり、その1つは「担保不動産競売(事件番号(ケ))」で、債務者のローン支払いが滞ったため、債権者(金融機関や債権回収会社)が競売の申し立てをするものです。区分マンションや一棟アパートなどの投資用不動産が多く、債務者が居住していないので引き渡しは比較的スムーズです。

もう1つは、民事訴訟(交通事故の損害賠償など)の判決に基づく「強制競売(事件番号(ヌ))」です。裁判に敗訴した被告(債務者)の所有不動産(自宅)を賠償金に充てるため強制的に競売にかけるもので、引き渡し後も債務者が居座り続けるなど厄介な物件が少なくありません。

競売不動産は、一般的な不動産売買を規定する「宅地建物取引業法(以下、宅建業法)」ではなく、「民事執行法」に基づいて取り引きされます。宅建業法は一般消費者を守るための法律ですが、民事執行法は債権者を守るための法律です。落札者に対しては「重要事項説明」の義務も、アフターサポートもないことを知っておきましょう。

そのため、入札前の物件調査から引き渡し後の占有者の退去交渉、建物の修理まですべて落札者が自己責任で行うことになります。

競売不動産購入のハードルは4つ

①建物の内見ができない
②建物・設備の不具合があっても直してもらえない
③ローンが通りにくい
④占有者と退去交渉をしなくてはならない

競売不動産の取引では、入札前に対象不動産の室内を見ることができない上、債務者は瑕疵担保責任を免れているため、引き渡し後に見つけた建物の不具合は、落札者が自費で直さなくてはなりません。また、多くの金融機関が競売物件への融資を嫌厭するため、全額自己資金で支払える財力も必要です。

そしてもっとも厄介なのが、引き渡し後もその建物に債務者が住み続け出て行かない場合の退去交渉です。事件番号(ケ)の競売物件で運良く空室だった場合はそんな苦労はありませんが、事件番号(ヌ)の場合はその可能性が高いです。

競売不動産の購入方法

債権者による競売申し立てが地方裁判所で受理されると、対象不動産の調査が行われます。調査が終わり、入札期日が確定すると、所轄都道府県の「民事執行センター」に公告書が掲示され、いよいよ競売のスタートです。

「3点セット」を入手する

民事執行センターで公開される競売物件の資料は「3点セット」と呼ばれています。

これは、裁判官(執行官)が現地で調査を行った「現況調査報告書」と、不動産鑑定士が建物の状態や周辺環境から適正価格を査定し、対象不動産の現況写真・建物図面を添えた「評価書」、対象不動産の所在地や面積等が明示された「物件明細書」の3種の資料のセットです。

建物の内見はできませんが、これらの資料を見ればおおむねの現況把握ができます。評価書にある室内写真を見れば部屋の使用状況が分かりますし、現況調査報告書に記載されている債務者への聴取内容からは、引き渡し後に居座る可能性があるかどうか推測できます。

3点セットは、債務者の個人情報を伏せた形でネットでも公開されており、データはダウンロード可能です。

「入札セット」を入手する

「これは」と思える物件を見つけたら、入札の準備に入りましょう。入札に必要な書類や封筒(入札セット)は民事執行センターで入手できます。

入札セットの内訳

・入札書
・入札用封筒
・裁判所保管金振込依頼書
・入札保証金振込証明書
・暴力団員等に該当しない旨の陳述書

入札(買受けの申出)の際は、一般の不動産売買契約でいう「手付金」に当たる「保証」を提供しなければなりません。

保証の金額は物件ごとに異なりますが、公告書に記載されている「売却基準価額」の20%が目安となります。これを裁判所指定の預金口座へ振り込み、裁判所保管金振込依頼書の2枚目にある保管金受入手続添付書を入札保証金振込証明書に貼り付けて、入札書と暴力団員等に該当しない旨の陳述書、そして住民票とともに入札用封筒に入れて、担当執行官宛に郵送します。

開札

開札は、入札期間満了後1週間以内に行われます。開札期日、執行官が入札者から寄せられた封筒を一斉に開け、その中で一番高い金額で入札した人が「最高価買受申出人(以下、落札者)」となります。落札者の保証(手付金)はそのまま裁判所預かりとなり、その他の入札者の保証は返還されます。

売却許可決定

開札後、裁判所はこの落札者に不動産を売却していいかどうかを検討する審議に入ります(約1週間)。入札書類に虚偽があったり、実際は支払能力がないなどの理由から売却が許可されないケースも稀にあります。

代金の納付

落札者に問題がなく売却が確定したら、次は代金の支払いです。指定された代金納付期限(確定から1カ月以内)までに振り込むか、裁判所に直接現金で持参するかのいずれかの方法で納付します。代金の納付により、落札者はめでたく不動産の所有権を得ることになり、債務者から落札者への所有権移転手続きが開始されます。

引き渡し交渉

所有権移転手続きが済んだ後も、することはまだあります。

もし落札した不動産に占有者(債務者等)が居座っている場合、退去してもらうための話し合いをする必要があります。この交渉は裁判所ではなく、落札者が自ら行わなくてはいけません。占有者が交渉に応じなければ、裁判所に引き渡しを命じる訴え(引き渡し命令)を起こし、これが確定すれば強制執行(占有者の追い出し)が行われます。

登記識別情報の取得と物件引き渡し

所有権の移転手続きが終了すると、落札者の元に登記識別情報(謄本)が届きます。できればそれまでに占有者との話し合いがついて、物件の引き渡しが完了していると理想的です。

掘り出しモノ競売物件の見つけ方

過去の公告書(売却済)を元に、入札はアリか?ナシか?を検証してみましょう。

令和●年(ヌ)第●●●号
売却基準価額:1,000万円
買受可能価額:800万円
買受申出保証額:200万円
所在:東京都●区●●町●丁目●番地●
位置・交通:地下鉄●●線●●駅西方に近接
建物の名称:●●町●●●ハイツ ●●号室
床面積:●階部分 18.12平方メートル
建築年月日:昭和57年11月●日

古いワンルームマンションですが、駅と近接(ほぼ駅上)の利便性とお手頃な価格が注目ポイントです。問題は事件番号が「(ヌ)」であること。前述の通りこれは強制競売物件であり、引き渡し後も占有者が居座り続ける可能性が高いです。

現況調査報告書にある室内写真を見ると、家財が雑然と置かれており、執行官の意見欄にも「室内の汚損や内壁等の剥離も見られた」とあります。しかし「雨漏りや排水不良等の不具合はない」ともあり、軽微なリフォームで使えそうなイメージも持てます。評価書によると収益価格は1,300万円で、転売すれば300万円の利益、または所有して賃貸すれば利回り6%で月額家賃6.5万円程度の収益が望めます。

まとめ

競売不動産は落札者の自己責任によるところが大きいです。

建物の構造や価格査定、他人との利益交渉まで幅広く学ぶことになり、とても知見が広がることでしょう。入札まで至らなくても、3点セットを覗くだけでさまざまな人間模様やドラマを垣間見ることができるはずです。