コロナ禍の影響で、ただ寝に帰るワンルームに「もう一部屋」のニーズが高まっています。勤務先からテレワークを要請され、都心の駅に近い狭小マンションから、駅から離れていても広めの1LDKへと引っ越す単身サラリーマンが増えているようです。まさにこれが新たな“賃貸”生活様式の始まりなのかもしれません。
ピタリと止まった「都心コンパクトマンション」への問い合わせ
都心の不動産店で、馴染み客の大家さん同士が困り顔で話し合っています。
「賃貸募集を始めてもう2ヵ月。内見はまだ5件しか来ていないし、申し込みは1件もない。去年だったら1ヵ月以内に申し込みが何件か入って、2ヵ月目の前半には契約になっていた。今年はどうしちゃったんだ?」
「うちの物件もそうだよ。具体的な話がひとつもない。フリーレントを付けても反響が伸びない。やっぱりコロナの影響かな?」
この2人の大家さんが所有する賃貸物件は築10年未満、駅から徒歩5分圏内で、周辺に若い人に人気の飲食チェーン店やコンビニが林立している利便性の高いエリアに建っています。ただひとつ難をいえば、部屋の面積が23㎡程度と狭いことです。
コロナ禍の影響で自宅でのテレワークを強いられた単身サラリーマンは、都心の狭小ワンルームでは仕事と生活の両立ができなくなっていたのです。彼らは交通・商業利便性の高い住まいに別れを告げ、通勤や買物が少々不便でも「もう一部屋」が取れる新居を探し始めました。
家賃控えめで「もう一部屋」が叶うエリアとは?
これまでの賃貸プライオリティは「駅から近い」「スーパーやコンビニが近い」でしたが、このコロナ禍にあっては、「とにかく広くて、仕事も、家での寛ぎ時間も楽しめる」が上位に挙げられるようになりました。とはいっても都心から遠く離れるのは避けたいものです。東京23区内で、これまで借りていた駅近・狭小ワンルームの家賃水準と同じくらい(9万円未満)で広さ30㎡以上の部屋が借りられるエリアはどこにあるのでしょうか?
杉並区方南町(丸の内線・方南町支線「方南」駅周辺)
家賃9万円未満・専有面積30㎡以上の物件数:61件
賃貸事例:専有面積30.42㎡、家賃8万8,000円(駅徒歩9分、平成28年築)
方南町駅は丸の内線支線の終着駅です。そのためすべての電車が始発便なので、高い確率で座って通勤することができます。ほかの鉄道路線と相互乗り入れがない単独終端駅ですが、新宿駅へ直通12分、渋谷駅や池袋駅へいずれも20分台でアクセスが可能です。
駅前には人情味あふれる方南銀座商店街があるほか、少し足を延ばせばホームセンターの大型店舗「島忠ホームズ」や、スーパーマーケットの「サミット」、「肉のハナマサ」などがあり、商業利便性は良好です。駅周辺には落ち着きのある住宅街が広がり、善通寺川や神田川など潤いのスポットや、バーベキューが楽しめる和田堀公園、広町みらい公園も身近なので、休日の散策が楽しみとなるでしょう。
方南町エリアの未来展望
方南町駅周辺エリアは、東京都による老朽マンション再生等を推進する支援制度対象地区に選ばれており、今後は環状7号線沿いに立つ耐震性に問題があるマンションの再生とともに、駅周辺の街づくりも一体的に進められていく予定です。
大田区馬込(都営浅草線「馬込」駅周辺)
家賃9万円未満・線湯面積30㎡以上の物件数:86件
賃貸事例:専有面積30.72㎡、家賃8万5,000円(駅徒歩6分、平成29年築)
馬込駅は都営浅草線、京成線、北総線が乗り入れており、五反田駅へ直通6分、品川駅へ16分、さらに東京駅・新宿駅・渋谷駅へ20分台でアクセスできます。駅周辺は起伏に富んだ地形のため坂道が多く、高台立地であれば低層階からでものびやかな眺望が開けます。
周辺に大規模な商業施設は少ないですが、近隣の中延駅や荏原町駅周辺に多数の商店街があるほか、大井町、自由が丘、さらに駅前から路線バスを利用すれば大森や川崎へのアクセスも可能です。
馬込エリアの未来展望
馬込といえば、関東大震災後に多くの文士や芸術家が移り住んだ「馬込文士村」が有名で、村岡花子、川端康成、三島由紀夫もこの地に居を構えていました。大田区の都市計画マスタープラン(おおた都市づくりビジョン)では、「馬込文士村などの歴史文化資源を継承するとともに、坂・階段など変化のある地形を活かしたまちづくりの推進」が盛り込まれており、馬込エリアを中心とした新たな街づくりも計画されています。
江東区大島(都営新宿線「大島」駅周辺)
家賃9万円未満・線湯面積30㎡以上の物件数:89件
賃貸事例:専有面積30.63㎡、家賃7万7,000円(駅徒歩10分、平成22年築)
大島駅は都営新宿線の駅で、駅名の読み方は「おおじま」です。急行停車駅で始発便もあり、新宿駅へ直通27分、大手町駅や渋谷駅へも20分台でアクセスできます。大島駅周辺は、昭和の高度成長期から日本住宅公団の大規模マンション開発が行われていたため、街並みは成熟しており、さまざまなインフラが整っています。
近隣にはバーベキューやジョギングが楽しめる大島小松川公園や、江戸幕府の貯木場跡だった猿江恩賜公園などの大型公園もあり、住民の憩いの場となっています。駅周辺に大型スーパーはありませんが、コンビニはたくさんあります。また安くて美味しい食材がそろう砂町銀座商店街も生活圏にあります。
大島エリアの未来展望
大島駅の隣駅・西大島駅前(大島1丁目~4丁目)で「大島三丁目1番地地区市街地再開発事業」が計画されています。都市計画道路の拡幅整備や地元商店街と連携した商業施設の整備のほか、認可保育園、高齢者福祉施設、地域交流センターなどの公共施設と総戸数750戸の住宅フロアを有する地上50階建てのタワーマンションの建設が予定されています。
足立区綾瀬(千代田線「綾瀬」駅周辺)
家賃9万円未満・線湯面積30㎡以上の物件数:185件
賃貸事例:専有面積33.00㎡、家賃6万2,000円(駅徒歩3分、平成19年築)
綾瀬駅はJR常磐緩行線、千代田線、小田急線の3路線が乗り入れる駅です。千代田線の終着駅になりますので、都心方面行きはすべて始発便になります。大手町駅へ直通21分、その他池袋駅へ20分台、新宿駅へ30分台でアクセスできます。
綾瀬駅周辺は戦後すぐに土地区画整理が行われたため、街並みは整然としています。駅前には飲食店を中心に商業施設が充実しているほか、イトーヨーカドーや東急ストアなどのスーパーマーケットもあるので、毎日の食事や買物に困ることはありません。
綾瀬エリアの未来展望
交通広場・駅前広場の整備や、大手デベロッパーによるタワーマンションの開発が盛り込まれた再開発事業「綾瀬駅東口周辺地区まちづくり」が計画されているので、さらなる街の成長に期待が高まります。
まとめ
東京23区内にもまだまだ家賃が控えめで広めの賃貸住宅はたくさんあります。これまで賃借人目線で紹介してきましたが、投資家目線に切り替えれば、今回紹介したエリアの物件ならば「賃貸募集に苦労しない」という見方もできます。これらのエリアで販売中のオーナーチェンジ物件は、グロス価格3,000万円台・坪単価100万円台・利回り5%以上と優秀です。各エリアの未来展望も併せてチェックしていただき、秘めたるポテンシャルを見極めていただきたいと思います。
※家賃価格、物件数などは記事掲載当時の数値です。