宅建業の営業免許を持っている不動産業者は、賃貸・売買を問わずどんな取引にも携われますが、医師が小児科や耳鼻科などの専門分野に絞って診察するように、不動産業者にも得意とする専門分野があるのです。

家を借りたいのか、買いたいのか、売りたいのか、または査定額が知りたいだけなのか……。目的によってそれぞれの専門分野に長けた業者を選ぶ必要があります。

ここでは各種専門業者の特徴と、その見極め方を説明します。

賃貸専門の不動産業者

多くの方にとって一番親しみがあるのは、賃貸専門の不動産会社だと思います。

大学進学や就職が決まって初めての一人暮らしを始めるとき、結婚して2人の新居を探すとき、若い時代の人生の節目に、誰もが一度はお世話になっているのではないかと思います。比較的若い顧客が多いため、店舗スタッフも若い人が多く、皆さん一生懸命に物件の案内をしてくれます。

店舗も1階の路面店にして、初来店でも入りやすい雰囲気作りをしています。希望の間取りや予算に合わせてたくさんの物件を紹介してもらえますし、室内の見学をお願いすれば、1件1件丁寧に案内してくれます。

その上、本来なら家賃1ヵ月分相当額かかる仲介手数料を半額にしてくれたり、なかにはまったく請求しない業者もあります(こういった場合、入居者の分の仲介手数料を大家さんが負担してくれているケースが多いです)。

賃貸専門業者はそれぞれに得意な営業エリアがあり、エリア内にある商業施設の情報や数多ある賃貸物件の情報を熟知しています。そのため、「〇〇を買うならこのお店がおすすめ」とか、「この物件の管理は行き届いているので暮らしやすい」などの細かなアドバイスも受けられます。その業者が管理を請け負っている賃貸物件もありますので、そこに入居することになったら長いお付き合いになります。

売買専門の不動産業者

不動産売買では高額のお金が動くため、多くの人が信頼性の高い大手不動産業者を訪ねると思いますが、中小にも優秀な売買専門業者は存在し、そういった業者の方が魅力的な自社専任物件を持っていたりします。

主に富裕層を対象にしている売買専門業者は、空中店舗(オフィスビルの高層階)であることが多く、窓辺には伸びやかな眺望が拓け、店内には煌びやかなシャンデリアや有名建築家のソファを配するなど、高級ホテルのラウンジと見紛うほどゴージャスな設えが特徴です。

エリア限定の賃貸専門業者と違い、売買専門業者は顧客の予算や条件に合わせ、広域にわたって物件を探してくれます。

そして購入候補の物件が見つかれば、価格の値引きや引き渡し時期の交渉なども積極的に行ってくれます。さらに、不動産購入にはつきものの住宅ローンの返済シミュレーションを組み、融資審査の手続きも丁寧に教えてくれます。中古物件を購入する際は、境界確認の手配やライフラインの確認、建物内付帯設備が使用できるか否かのチェックまで細かに行います。

売買取引の仲介手数料は売買価格の3%ですから、手厚いサービスが施されるのは当然ですね。ただし、引き渡しが終われば業者とはご縁がなくなりますので、その後の建物の不具合や近隣トラブルについては自ら対処することになります。

管理専門の不動産業者

賃貸住宅の家賃回収や修繕を大家さんに代わって行うのが、管理専門業者です。メインクライアントは大家さんなので、どちらかというと入居者よりも「大家さんの味方」という感じです。

室内設備の故障や契約更新、退去連絡などの受付窓口になり、入居者から受けた問い合わせ内容を大家さんに報告の上、修繕であれば複数の修理業者から相見積もりを取って、作業品質が高く価格も妥当な業者を選んで発注します。

契約更新時に家賃の値下げ・値上げ要望があれば、入居者との交渉も代行します。退去時には入念に室内のチェックを行い、入居者の不注意による室内の損傷や、たばこを吸った形跡などあれば、契約時に締結した原状回復ルールに基づいて壁や床のリフォームを提案し、敷金の精算を行います。

管理専門業者の管理委託料は、家賃の3%から5%といわれます。月額家賃10万円の賃貸物件なら、毎月3,000円から5,000円程度になります。入居者からの問い合わせは朝晩を問わずありますし、複数の修理業者に問い合わせをするのも手間がかかります。とくに毎日忙しいサラリーマン投資家にとって管理専門業者はありがたい存在です。

価格査定・鑑定専門の不動産業者

不動産の賃貸や売買を積極的に行わない不動産業者もあります。それが、価格査定・鑑定専門の不動産業者(不動産鑑定士)です。

鑑定・査定する項目は多岐にわたり、商業・教育・医療施設などが整備されているかを見るインフラ調査、どのような鉄道・バス路線が利用できるかを確認する交通調査、いまの建物が老朽化したときに建て替えができるか、近接地に新たな道路の計画や、再開発に関わる地区計画がないかを調べる行政調査、不動産登記が正しく行われているかを調べる法務局調査、対象不動産周辺の類似物件がどの程度の価格で取引されているかを精通者から聴取する市場調査などです。

さらには、小規模工場や倉庫が林立する地域(用途地域の「準工業地域」)では、対象地で以前操業していた工場の営業内容を調べ、有害物質の使用が確認できれば、土地を掘削して土壌汚染調査を行う場合もあります。

価格査定・鑑定専門業者はこういった各種調査の手数料を得ることで成り立っています。

調査依頼主は金融機関であることが多く、発注内容は主に融資対象不動産の価格査定です。依頼主を通して不動産情報を入手するため、不動産所有者と直接つながっている訳ではありません。調査対象不動産に関する守秘義務も厳しく、売買取引は一切できないのが特徴です。不動産売買・賃貸の相場観をもっとも的確に把握している価格査定・鑑定専門業者が取引を行えないというのも、少々残念な話ですね。

任意売却専門の不動産業者

抵当権付きの不動産物件が競売にかけられる前に、債務者の手元に少しでもお金が残るよう、競売前の数ヵ月間でローン残債分+αの金額で売却を行うのが、任意売却専門の不動産業者です。

ときどき「任意売却で売られている不動産はお買い得」と言っている人がいますが、それは勘違いです。オーバーローン分と、不動産売却の諸費用、さらに任意売却専門業者へ支払う仲介手数料が上乗せされるのですから、任意売却は市場相場より割高となります。

たとえば、市場相場価格が2,500万円程度の中古マンションを任意売却するとします。そのローン残債が3,000万円の場合、オーバーローン分は500万円です。ここに諸費用(7%前後)と仲介手数料(3%)が加算されて、最終的な販売価格は3,300万円になってしまいます。相場より800万円も高くなりますが、これが不思議なことに売れるのです。

その営業方法は「一極集中」です。中古マンションであればとくに簡単です。販売住戸の左右隣り、または上下階同仕様間取りの所有者に「お知り合いでこのマンションを買いたがっている方はいらっしゃいませんか?」とポスティングします。

これが意外と反響率が高く、ママ友ファミリーの賃貸からの住み替えや、遠方に住んでいた両親を呼び寄せるなどで成約するケースが多いのです。このような縁故関係や、このマンション限定というケースであれば、割高でも購入してもらえる可能性があります。

まとめ

ここに紹介した以外にも、競売不動産専門業者やペット飼育可マンション専門業者など、多種多様なジャンルの専門業者が存在します。例え専門外であっても物件の紹介はしてくれますが、やはり専門業者は見識と情報量が違います。

それぞれの特性を見極めて、希望・要望に最適な不動産業者を選んでください。