中古マンションを内覧したとき、「この物件は旧耐震です」「新耐震ですから安心です」等の説明を受けたことはありませんか?

地震大国・日本においてこの二肢選択は重要で、不動産評価にも大きく影響します。「地震が心配なら、築浅の新耐震マンションを買えばいいのでは?」と思うかも知れませんが、都心の一等地に建っているマンションのほとんどが旧耐震マンションであり、立地がもたらす資産価値を考えれば、旧耐震マンションも購入候補に入ってくるでしょう。

旧耐震マンションは買いなのか、それとも避けたほうがいいのか、検証していきます。

日本の住まいは木造からコンクリート造へ

現存する世界最古の木造建築物・法隆寺や、世界最大級の木造建築・東大寺が物語るように、日本は木造建築が主流の国でした。

やがて鎖国が解かれて文明開化の波が押し寄せると、レンガやコンクリートを用いた海外様式の建造物が建ち始めます。木材より硬く雨風や火災にも強いコンクリート製の建築物は、その安全性の高さから駅舎や倉庫、企業の社屋などにも採用されるようになります。

コンクリート建築の大きな特長は、木造建築よりも大規模な建物が造れることです。広さも高さも、木造では叶えられなかったスケールの設計・施工ができるようになり、平屋・長屋式が当たり前だった日本の住宅は、中高層共同住宅=マンションへと移行していきます。

1950年代に分譲マンション第1号(東京都新宿区)が誕生して以降、日本は一大マンションブームが巻き起こります。これに併せ、資金の少ない一般サラリーマンでもマイホームが購入できるように「住宅ローン」のシステムが構築されました。毎月の支払いはあるものの、憧れのマンションを手に入れた喜びはひとしおです。

当時は最上階で10階程度だったかも知れませんが、平屋建てに比べれば数倍上の高さで暮らすことになります。これまで目線にあった街並みが眼下に広がる生活は、どれほど開放的だったことでしょう。

「旧耐震マンション」という名の由来

ところが、雨風や火災に強いコンクリート造のマンションは、日本特有の天災である「地震」には弱いという負の事例が生まれてしまいます。

マンションブームからおよそ10年後の78年、宮城県金華山沖南部で「宮城県沖地震」(マグニチュード7.4)が発生します。地上で観測された最大震度は5程度(仙台市、石巻市)でしたが、住宅全壊1,300棟余、半壊6,000棟余、一部破損12万5,000棟余りの大きな被害をもたらしました。被害は木造建築物に留まらず、強靭と思われていたコンクリート造建築物でも、1階部分が潰れるように倒壊するケースが多数発生したのです。

この事態を重く受けた当時の建設省(現・国土交通省)は、これまで「震度5強程度で損傷しない程度」だった建物の耐震基準を「震度6強~7程度で倒壊しない程度」へと、レベルアップする法改正を行います。

対象となるのは81年6月以降に建築確認(=新築工事前の書類審査)を申請する建物からとなり、それ以前に建築確認を受けた建物は「旧耐震基準(既存不適格)」と分類されるようになりました。事実上、違法建築となってしまった旧耐震基準の建物については「いままで通り使用(生活)するには問題はなく、直ちに新耐震基準に沿って改築する必要はない」という特例により、現存を許されています。

人気のヴィンテージマンションは、すべて「旧耐震」?

新耐震基準が施行される前に建ったマンションですが、すべてにおいて耐震性能に疑念がある訳ではありません。なかには法定耐震基準を上回る構造設計が施された物件もあるでしょう。

しかしその判断基準は、行政機関に保管されている建築確認申請のための書類(建築計画概要書)、または建築台帳ぐらいしかありません。これらの書類から読み取れるのは、新築工事が許可された年月日と、工事完了検査が実施された年月日程度です。不動産取引では、これらの日付をもとに対象物件が「新耐震」か「旧耐震」かを判断するのみで、個別に耐震強度を調べることはありません。

このように、行政書類の記載事実だけで判断するとなると、近年人気が高まっている「ヴィンテージマンション」の評価にも疑問が投げかけられます。

ヴィンテージマンションとは、日常生活の機能性のみならず、室内・外観デザインやランドプランが秀逸で、幾十年もの月日を経てもその魅力が褪せない共同住宅のことを指します。暮らしやすさとお洒落さに加えてロケーションも素晴らしく、そのほとんどが都心の主要駅前や武家屋敷跡などの「一等地」に鎮座しています。

これらの物件が竣工したのは第一次マンションブームが始まった60年代~70年代ですから、明確に「既存不適格」の旧耐震マンションに分類されます。それにもかかわらず、都心3区(千代田区・港区・中央区)においては、いまなお坪単価600万円前後の高額で取引されているのです。

1戸だけ「旧耐震を新耐震へ変身させる」方法もある

ロケーションがよくデザイン性にも優れたヴィンテージマンションには憧れますが、旧耐震構造のままでは地震への不安は免れませんし、資産価値も維持できません。

そこでひとつ、打つ手があります。それは「旧耐震を新耐震へ変身させる」というものです。それも、マンション一棟丸ごと工事するような大掛かりなものではなく、1戸だけ実施する方法です。

まず、建築士等に依頼して該当する住戸の耐震強度を調べてもらいます。調査の結果、耐震強度が劣る箇所があったら、室内側から補強工事を実施し、新耐震基準までレベルを上げていきます。工事が完了して「耐震基準適合証明書」が取得できれば、新耐震マンションと同等の安全性と資産評価が得られるのです。

すでにマンション1棟で耐震基準適合証明書を受けている物件もあります。万一の災害時に緊急輸送を円滑に行うための道路に指定されている「緊急時輸送道路」沿いの建物は、地方自治体等の条例により耐震補強が義務付けられているため、管理組合の費用で耐震基準適合証明書を取得している場合があるのです。こういったマンションを購入すれば、耐震診断を行う必要はありません。

また、緊急時輸送道路は繁華性の高い大通りに指定されていることが多いため、その立地は商業利便性にも恵まれています。駅に近く、商業地に近く、耐震性にも優れたマンションは投資用としても収益性が高く、売却の際には高値での取引が期待できます。

まとめ

金融機関の融資査定におけるマンションの寿命は47年とされていますが、使用するコンクリートの質や建物の保守状態によっては、75年から90年以上もの耐久性が見込まれる場合もあります。

ただし、形あるものはいずれその姿を失うことになります。いまは見目麗しいヴィンテージマンションも、いずれは廃墟となる日が来るかも知れません。

建物が消えても価値が変わらないのは、利便性に恵まれた土地です。

建物のデザイン性はさておき、駅前や商業利便性の高い場所に建つ旧耐震マンションは、将来にわたる資産価値が保証されていると言っても過言ではありません。建物が老朽化して建て替えとなった場合は、駅前再開発などに吸収され、タワーマンションに化ける可能性もあります。立地が良いものの、建物の古さから周辺相場より安めの旧耐震マンションであれば、購入候補の1物件として考えてもいいかも知れません。