不動産購入の際に多くの人が利用する不動産ローン。

融資の可否は購入者の属性による部分が多いと思われがちですが、実は不動産の属性によっても融資可否が左右される場合もあります。融資審査の基本となる「担保評価」の方法や、「既存不適格」「耐震基準」など注意すべき項目についても説明します。

ローンが通らないのは、購入者の問題だけではない

友人が所有マンションを売却するとのこと。5階、南東向きの1LDK、山手線の人気駅から徒歩圏にありながら価格は相場よりやや抑え目の3,000万円台なので、ある意味「掘り出し物」です。しかし売り出しから5カ月以上経っても、未だ契約に至っていません。

まったく引き合いがない訳ではなく、売り出した当初には60歳代の男性から購入の申し込みが入りました。不動産ローン利用とのことで融資査定の結果を待っていたところ、残念ながら審査が通らず申し込みキャンセルとなってしまいました。

「年齢的な問題かな。仕方ない」と友人は気持ちを切り替え、次の申し込みを待つことに。

ほどなく30歳代夫婦から申し込みが入りました。「定職に就いている若い人だし、今度は大丈夫」と期待しましたが、こちらも融資審査が通らずキャンセルに。申込書に書かれた人物属性を見てもローンが組めない内容ではありません。期待と落胆の繰り返しに、友人も「いったい何が原因なの?」と落ち込み気味です。

融資審査が通らない理由、それは申込者ではなくどうもマンションの方にあるようです。不動産物件も厳しい審査をクリアできなければ融資は下りません。

不動産の審査基準とは?

不動産ローンを実行するにあたり金融機関が行う審査項目は、大きく分けると次のようになります。
・融資希望者の就業先・勤続年数・年収
・融資希望者の健康状態
・融資希望者の借入時・完済時年齢
・購入予定不動産の担保評価
融資希望者(=購入者)に関する内容がほとんどですが、不動産にまつわる項目として「担保評価」があります。担保評価とは、購入予定の不動産にどの程度の担保価値があるかについて、土地、建物それぞれの評価額を算出するものです。この評価額次第で貸付可能金額も変わってきます。

土地の担保評価方法

一般的な土地の査定は「公示地価(国土交通省)」「基準地価(都道府県)」、そしてこれらの数値を基に導き出された「路線価(国税庁)」をベースに行われます。担保評価では対象不動産の土地面積(㎡)に路線価(円/㎡)を掛けた金額を土地の担保評価額としています。

建物の担保評価方法

融資時点での建物の耐用年数、建物自体の価値・保守状態などで評価されます。金融機関で定める耐用年数は構造体により異なり、軽量鉄骨造19年、木造22年、重量鉄骨造34年、鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造47年とされています。建物自体の価値は「再調達価格(融資時点で同程度の建物を建てた場合、どのくらいの金額で建つか)」といい、新築時の建築価格から築年数に見合った再調達減価(%)と保守状態の優劣(%)を差し引いて算出されます。

融資が受けられない不動産とは?

冒頭にある「友人が売却したいマンション」を例に解説します。
・山手線人気駅から徒歩5分の場所 →前面道路の路線価は60万円/㎡です。
・鉄筋コンクリート造 →新築時の建築価格は25万円/㎡です。
・築40年経過 →耐用残存年数はあと7年、再調達減価は▲85%です。
・総戸数70戸 →間取りは全戸50㎡の1LDKです。
・敷地面積1,000㎡ →土地権利は「所有権」で、1戸の土地持ち分割合は3,500分の50です。
・管理組合が結成されており、10年ごとに修繕工事を行っているため保守状態は良好です。
・新築時の建築確認検査は行ったものの、工事完了検査は行っていません。

上記のプロフィールから、土地・建物の担保評価をすると…
・土地の担保評価:(1,000㎡/3,500分の50)×60万円=857万円
・建物の担保評価:(25万円×50㎡)×(100%-85%)=187.5万円
・土地857万+建物187.5万円=総額1,044.5万円

上記の計算式から、友人のマンションの担保評価額は1,044.5万円となります。販売価格は3,000万円台ですのでフルローンは組めません。さらに、この物件で融資が組める期間は耐用年数が終わるまでの7年間だけです。たとえ7年を超えるローンを組むことを許す金融機関があったとしても、それはルール違反(信用毀損)になるため、この後別物件で不動産ローンを組むことができなくなります。

最後の手段として、2,000万円の頭金を用意し、7年間で1,000万円年余りを完済する方法も考えられますが、それでもこの物件に対する融資は下りません。なぜなら、この物件には耐用年数や担保評価以外に致命的な欠点があるからです。

融資が下りない不動産。致命的な「過去のミス」とは?

物件のプロフィールの最後に、新築時の建築確認に関する内容があります。

これは建物を建てる際に役所に届け出るべき「建築計画概要書」のことです。一戸建てでもマンションでも新築時に建築計画概要書の提出義務があり、役所の許可を得た上でないと建物が建築できません。

そして建築工事が終了すると、当初の建築確認書類通りに建物が完成しているかをチェックする「工事完了検査」があり、この検査をパスすれば「検査済証」が発行されます。ただ工事完了検査は慣行化しておらず、この検査を受けなくても建築基準法違反にはならないため、昭和から平成初期までは検査済証のない物件がほとんどでした。

2003年、この現状を憂慮した国土交通省は金融機関に対し「検査済証のない不動産には融資を控えるように」というお達しを出したのです。プロフィールの通り、友人のマンションは工事完了検査を行っていませんから、当然に検査済証もありません。これは融資を受ける際にとても厄介な障壁となります。

ほかにもある不動産融資審査の「障壁」

「既存(きそん)不適格建築物」という言葉を耳にしたことはないでしょうか。

新築時は建築基準法に合致していたものの、その後の法改正により既存不適格となってしまった物件のことをいい、これも融資審査の障壁の1つです。以前、マンションなどの大規模建築物は「高さ」でその規模を制限していましたが、1968年の法改正で規模の基準が高さから「容積率」へと移行したため、容積率オーバーの既存不適格マンションが多数生まれてしまったのです。

これらの物件は特例により建て直す必要はなく、そのまま使用するには何のお咎めもありません。しかし建物が老朽化して建て替えが必要となった際は、いまと同等の専有面積が確保できず、その分担保評価が下がるため、融資が通りにくくなります。

さらにもう1つ、融資審査を阻むものとして「耐震基準」があります。

78年の「宮城県沖地震」をきっかけに、従前より厳しい耐震基準(これまでの「震度5強で損傷しない」に加え、「震度6強~7でも倒壊しない」が追加)を義務付ける法改正が施行されました。そのため、建築確認申請が81年5月以前の建物は「旧耐震物件」と呼ばれるようになり、融資審査の際にもこの点が厳しくチェックされるようになったのです。

まとめ

今回はマンションを例に解説しましたが、一戸建てや1棟ビルの方が融資に影響大な欠陥を抱えていることが多いです。

新築時に建築確認を受けていない、または改装後に用途変更申請(住居を店舗に変更等)を怠っている違法建築物件、接道がないため建て替えができない再建築不可物件など。そういった物件は得てして相場より格段に安く売り出されます。

安さばかりに気を取られることなく、あらゆる資料に目を通し、その物件の属性をしっかりと見極めることが大切です。