不動産の売買契約書は、不動産業界団体が提供するひな形を使用することが多いため、個別の取引にかかわる条項はほとんど記載されていません。そのため、その不動産独自の情報や取り決めが網羅された「重要事項説明書」(以下「重説」)は、売買契約書よりも慎重なチェックが必要です。

今回は区分マンション購入を想定し、重説に記載されているどの項目を重点的にチェックすべきか説明します。

「敷地権の割合」

戸建住宅や一棟ビルと違い、区分マンションは土地と建物の所有権登記が1本化されています。マンションの土地所有権は「敷地権」と呼ばれ、敷地権の持ち分はマンション所有者全員の共有となり、それぞれが所有する専有面積の割合で振り分けられています。

この敷地権持ち分が記載されているのが、重説の冒頭ページにある「敷地権の割合」欄です。この割合は将来マンションを建て替える際の等価交換による還元床面積算出の基準にもなります。

例えば、1,000㎡の土地に専有面積80㎡の住戸50戸が入るマンションの場合、下記のように算出します。

1戸の専有面積(80㎡):1棟の専有面積合計(80㎡×50戸)=80:4,000

上記から、1戸あたりの敷地権の割合は「4,000分の80」となります。

「登記記録に記録された事項」

この欄には登記簿情報が転記されています。チェックすべきは「権利部(乙区)」です。ここには、この不動産を担保とした金銭借り入れ情報が記載されています。この欄に根抵当権、買戻し特約、差押え等の記載がある場合は、これらの債務が引き渡しまでに抹消されるのかを確認する必要があります。

抵当権・根抵当権が記載された登記簿は比較的多く、これらの債務は引き渡しまでに抹消されるのが通常ですが、借り入れ金額が購入価格を上回っている場合、引き渡し間近になって抹消できないというケースも発生しています。

「専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約等の定め」

マンション1戸が自分のものになったからといって、すべて自由にできるわけではありません。管理組合が設立されているマンションでは、共用部だけでなく専有部に関わる管理規約や使用細則を定めています。たとえば、ペットの飼育に関する規約や、楽器演奏・設置に関する規約、室内のリフォームに関する規約などです。

管理規約でペットの飼育が許可されていたとしても、大型犬はNGだったり、飼っていい頭数が制限されていたりします。ピアノ等の楽器演奏がOKでも、演奏できる時間帯が制限されている場合もあります。リフォームを行う際は、管理組合への事前届出や、床材の遮音等級をはじめ細かなルールが決まっています。

「計画修繕積立金等に関する事項」

修繕積立金については、管理組合全体でどれくらい蓄積されているかチェックしましょう。とくに大規模修繕を控えている場合は、修繕見積と照らし合わせて工事費相当額以上用意されているかも確認が必要です。

もっとも重要なのは、これから所有することになる住戸の滞納状況です。万が一滞納があれば、契約までに全額納入しておくよう売主にお願いするか、引き渡し時に購入価格から相殺してもらうなど相談しておきましょう。

「土砂災害」「津波災害」「水害ハザードマップ」

購入予定の区分マンションが崖地や海岸、河川の近くに位置している場合、土砂災害、津波災害、水害の警戒区域にあるかどうかが記載されています。ただし津波災害については、行政機関の判断として「該当地域の指定なし」とされる地域が多くみられます。これは「津波被害の心配なし」ということではなく、「津波被害があるかどうか分からない」ということです。ちなみに東京都では湾岸部を含めた全域が「指定なし」です。

近年の台風による大規模被害の状況を受けて、重説にも水害ハザードマップ関連の情報記載が義務化されました。現在は近隣に河川がなくても、過去(数百年前まで遡って)には河川や湿地帯が存在した場合もあります。そのような場所では台風・集中豪雨の際に浸水被害が懸念されますので、過去の地勢情報も網羅されたハザードマップを入念に確認しておきましょう。

「石綿使用調査」「耐震診断」

平成17年に施行された「石綿障害予防規則」に則り、建物の石綿使用調査の内容については「石綿(アスベスト)使用調査」欄に必掲となりました。ただしこの調査は、新築時に石綿が使用されたかどうかを過去の資料を掘り起こして調べる程度のものです。資料が残っていなければ「記録なし」(石綿使用の状況は不明)となり、それ以上の詳しい調査を行う義務もありません。

昭和56年以前に建てられた建物は「旧耐震設計建築物」と呼ばれ、現在の耐震基準を満たしていません。これらに該当する場合は、建物の耐震強度に関する調査を行ったか否かを「耐震診断」欄に記載しなければなりませんが、調査を行ったか否かの事実を記載すればよく、調査をしていなければ「該当しない」と記載されるだけです。

「売買代金および交換差金以外に売主・買主間で授受される金銭の額」

契約時に手付金をいくら払うのか、引き渡し時に支払う残代金はいくらかなど、金銭の支払い・精算額が確認できます。完成済みの建物の場合、手付金は購入金額の1割程度とされていますが、売主が納得すれば1割より少ない金額でも問題ありません。

固定資産税や管理費・修繕積立金の精算額もこの項目に記載されます。固定資産税の精算方法は地域によって2通りあり、関東エリアの起算日は4月1日、関西エリアの起算日は1月1日であることが多いです。起算日と引き渡し日の兼ね合いで買主の方が高額負担となってしまう場合もあるので、起算日設定についても関東式がいいか、関西式がいいか検討しましょう。

「契約の解除等に関する事項」

金融機関の融資を利用して購入する場合は「融資利用の特約による解除」、いわゆるローン特約が「有り」になっているか確認しましょう。これが設定されていないと、万一ローン審査が通らなかった場合でも契約が有効となってしまい、購入できない場合は買主のペナルティとなります。

「契約不適合による修補請求」

以前は「瑕疵担保責任」と呼ばれていたもので、購入後に発見した建物の不具合で部屋の使用ができなくなった場合、売主の責任で補修を行うという決め事です。しかし、築年が古く老朽箇所が見受けられる建物の売買では稀に「契約不適合による売主の修補責任は免責(売主に補修請求を求めることが一切できない)」と記載されることもあるので、受け入れられない場合は文言の削除をお願いしましょう。

「その他重要な事項」

購入対象の不動産が抱える個別の問題点が書かれていることが多いため、重説の中でもっとも熟読しなければならない項目です。例えば「隣地にある中華料理店のダクトが当該不動産の窓の横にあるため悪臭がする」とか、「過去に天井の雨漏りがあり、補修工事を行った」など、不動産価値にかかわる重大情報が盛り込まれている可能性もあります。掲載ページは最後尾ですが、重説の基本項目に当てはまらない内容はすべてこの項目に盛り込まれるので、読み逃しは禁物です。

まとめ

スケジュールの都合で契約書類の確認ができず、契約当日に初めて重説を見るというケースもあるかも知れません。

しかし、内容に疑問・妥協を抱えたまま契約印を押すことになれば、後日深く後悔することになります。遅くても契約前日までに重説(案)に目を通して、納得いかない部分があれば契約日を延期してでも修正してもらうようにしましょう。