本来、不動産や株式などへの投資は経済的な合理性や確率の計算の裏付けを基に行われるべきものです。しかし、人間は必ずしも合理的な選択ができるとは限りません。むしろ、お金に絡む欲望や恐怖から非合理的な行動を取ってしまうことの方が多いかも知れません。
そんな人間心理に焦点を当てた「投資格言」は、昔から変わらない投資の原則を端的に表し、投資家が取りがちな危ない行動を戒める役割も果たします。今回は、代表的な15個の格言を見ていきましょう。
売買のタイミングに関する格言
1.「三割高下に向かえ」
株価が一直線に上がっているときは、そのまま2倍、3倍と上昇していくような錯覚に陥ります。反対に、一本調子で下がっているときには半値はおろか、4分の1にまで下がっていくように見えるものです。しかし実際には、上昇や下落は長くは続かず、「2倍」や「半分」になる前に値動きの方向が逆になります。この格言は、あまり欲張らず、買値から3割くらいの上昇をめどに売っておくといいということを伝えています。
2.「頭と尻尾はくれてやれ」
最安値で買って最高値で売れれば、利益は最大になります。しかし実際にそれを狙い過ぎて「直近で付けた高値(安値)まで戻ってから売ろう(買おう)」などと考えていると、結局そこまで戻ることすらなく利益を減らしてしまったり、ひどい場合は含み損になったりすることもあります。あまり欲張って最高値(頭)や最安値(尻尾)を狙わず、そこそこの利益で満足する方が賢明なのです。
3.「押目待ちの押目なし」
「押目(おしめ)」というのは、上昇トレンドにある価格が一時的に下がる状態のことです。価格の上昇トレンドが続いているときに新しく買おうとすると、「押目で買おう」と思うのが人情です。しかし、そういう強い相場のときは、はっきりした押目が表れずにスルスルと価格が上がっていってしまうことがよくあります。強い上昇相場の中では、わずかな得を求めて押目を狙うより、すぐに買ってしまった方が結果的に得をする可能性が高いのです。
4.「噂で買って事実で売る」
業績アップに関する噂が出回り、その会社の株価が上昇していくことがあります。しかし、実際にそのニュースが出たり、決算発表で確かに業績が伸びたという事実が分かったりすると、それ以上にインパクトある材料がなければ、一転して下落トレンドに入ってしまうことがあります。こういう状態を「材料出尽くし」と呼ぶこともあります。類似格言:「知ったらしまい」
相場の予想に関する格言
5.「相場のことは相場に聞け」
不動産価格や株価は、長期的には経済的な合理性に基づいて動きますが、短期的には需給によって変動します。受給は世界的なマネーの緩和状況や市場での人気によって変化するものであり、必ずしも合理的に説明できる訳ではありません。しかし、「市場が間違っている」と考えて逆らおうとしても自分が損をするだけです。市場の動きには逆らわずに付いていくことが、投資で成功するコツなのです。類似格言:「行き過ぎもまた相場」
6.「当たり屋に付け」
当たり屋とは、よく予想を的中させる投資家のことです。そういう人の真似をしろという格言です。例えば、SNSなどで相場予想を発信している投資家をチェックし、「最近この人の予想はよく当たるな」と思ったら、その人の真似をするということです。ただし、いままで当たっていたからといて、これからも当たり続ける保証はないことに注意が必要です。
7.「落ちてくるナイフは掴むな」
いままで高かった銘柄や物件の価格が急落したときには、「安くなった」と思ってつい飛び付いて買いたくなります。しかし、落ちてくるナイフを掴もうとすると高い確率でケガをするように、下落トレンドの途中で買うとその後も高い確率で下げ続けます。この格言は、床に落ちたナイフは安全に拾えるのと同じように、株や物件は下げ止まったのを確認してから買っても遅くないということを示しています。
資金管理に関する格言
8.「相場の金と凧の糸は出し切るな」
投資に絶対はありません。確実に儲かるだろうと思っても、資金を全部つぎ込んでしまっては、さらに安く買えるチャンスが来ても何もできません。ちょうど、凧揚げですべての糸を出し切ってしまうと、次に良い風が来ても対応できないのと同じです。凧の糸と同じく、投資資金には常に余裕を持っておきましょう。
9.「二度に買うべし 二度に売るべし」
上の格言と似たような意味で、買うときは2回に分けて買うことで、最初に買ったときからさらに価格が下がっても対応が可能になります。さらに、売るときも2回に分けて売れば、最初に売ったときからさらに値上がりしても、利益を伸ばすことが可能になります。時間分散によってリスクを減らそうという考え方を表しています。
10.「下手なナンピンはすかんぴん」
ナンピンとは、買った銘柄が値下がりしたときに買い増しをすることです。上の格言と反対のことを言っているようですが、計画的に2回に分けて買うのと違って、場当たり的な対応をすることを戒めるものです。
11.「利食い千人力」
利益確定の重要性を説く格言です。保有している銘柄が値上がりして含み益が出ている状態になっても、売却して利益を確定しなければ、それは計算上の利益に過ぎません。含み益は何かの事情で価格が急落すれば、含み損になってしまうこともあり得ます。利食い(利益確定)をしておけば、そういう心配はありません。
12.「見切り千両」
投資した対象が値下がりして損失になったとき、値上がりを待って保有し続けるというのも1つの方法ではあります。しかし、そのまま値下がりを続けて傷口を広げる危険性も大いにあります。また、含み損を抱えた銘柄を長期間保有することは資金効率が低下するということでもあります。そもそも「上がる」と思って買ったのに値下がりしている時点で見込みが外れている訳ですから、一度損切りして冷静になった方がいいでしょう。もし、「やっぱり買うべきだ」と思ったら、もう一度買い直せばいいだけです。類似格言:「しまったはしまえ」
投資全般の心構えに関する格言
13.「人の行く裏に道あり 花の山」
とても有名な格言です。投資で大成功をするためには、人とは違った発想で先を読む目を持つこと、つまり「逆張り」が大切だということです。どちらかというと長期投資に当てはまる考え方です。類似格言:「麦わら帽子は冬に買え」
14.「売るべし 買うべし 休むべし」
投資を始めると、いつも市場の動向が気になり、常に売買をしていないと気が済まない状態になってしまう人は少なくありません。しかし、投資のチャンスが四六時中ある訳でもないのに、無理に売買をしていても大きな成果は望めませんし、精神的にも疲れてしまうでしょう。たまには投資のことを完全に忘れ、休むことも必要なのです。
15.「もうはまだなり まだはもうなり」
一見すると禅問答のようで、何を言っているのかよく分からない格言です。
「だいぶ価格が下がったから、もう買ってもいいだろう」と思っても、まだ下がることがあります。反対に「まだ上がるだろうし、もっと上がってから売ろう」と思っても、もう十分な高値圏にあり、それよりも上がらないということはよくあります。つまり、自分の見込みが外れる可能性を認め、慎重に行動しなければならないという戒めです。
まとめ
格言とは、多くの投資家の経験則をまとめたものです。長い間言い伝えられているということは、その格言が普遍的な真理を言い当てているからにほかなりません。
もちろん、格言は学術的な投資理論ではありませんから、それだけを根拠に投資をするというのは無理があります。しかし、「この格言は何を言おうとしているのだろう」「格言が通用するときとしないときがあるのは何故なのか」と、投資について深く考えるきっかけになり、投資を行う上での有益な「ヒント」を与えてくれることは間違いありません。今回紹介した格言を覚えておくと、いつかきっと役に立つことでしょう。