日本人の平均寿命は男性81歳、女性87歳と、日本は世界屈指の長寿国です。「人生100年時代」が現実になりつつある現在、夫婦のいずれかが95歳まで生きるケースは50%を超えるとの予測もあります。長い人生を楽しく安心して過ごすには、老後の生活費の確保が重要です。有効な手段のひとつに、不動産投資による家賃収入があります。将来退職金が得られるなら、その一部を使って不動産の購入を検討してはいかがでしょうか。年金以外の収入が確保できれば、老後の人生はより楽しく安定的なものになるでしょう。ここでは退職金を活用した不動産購入の具体的なシミュレーションを紹介します。

これからの時代、年金だけで老後を乗り切るのは難しい

2019年5月、金融庁がショッキングな発表を行いました。それは国民年金と厚生年金だけでは、老後の生活費が2000万円不足するという内容です。その根拠は、金融審議会市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」に示されています。

同報告書によると、65~75歳の夫婦2人暮らしでの生活費は、毎月26万円強かかるとされています。一方、夫が会社員だった夫婦が、受け取れる年金額の平均は、月21万円弱程度です。

つまり、毎月約5万円、年間では60万円の生活費が不足することになります。そして65歳から夫婦のどちらかが95歳まで生きた場合、老後の生活期間は30年間です。つまり60万円×30年=1,800万円。

これだけの生活費を、自分たちで用意しておく必要があるということです。

老後の不足金額「1,800万円」をどうする?

65歳から95歳まで、30年間の収入不足を補うためには、年金以外にも何らかの収入源を確保しておく必要があります。

健康不安がない人なら、75歳ぐらいまで働いて収入を得られるかもしれませんが、いくら元気な人でも、将来の健康状態は予測できません。また、やりたい仕事や、やりがいのある仕事に就ける保証もありません。そもそも70代になってまで働くという人生設計に厳しさを感じる人も多いでしょう。

そこで、家賃収入という形で安定的な収入を確保しやすい不動産投資に目が向けられます。

もし退職金でまとまった資金が得られるなら、その一部で不動産を購入・貸し出して家賃収入を得る方法も検討してはいかがでしょうか。

現在の金利状況では、退職金を貯金したままではほとんど増やすことができません。不動産という安定した資産を購入し、リスクの低い方法で運用することで、収入を増やすのも方法のひとつです。

退職金でマンションを購入した場合の「シミュレーション」

不動産投資のリスクを心配する方も多いと思いますが、空室リスクや値崩れリスクといった問題は、賃貸需要が高いと考えられるエリアを選択することで対策が可能です。

賃貸需要のあるエリアとは、つまり人が多く住むエリアです。

日本は現在人口が減少していますが、東京都内に限ればそのようなことはありません。2020年末には人口1,400万人を突破する勢いで人口が増加しています。人口が増加すれば、当然賃貸需要も増加します。そのようなエリアを選ぶことで、空室や値崩れのリスクを軽減できます。

湾岸エリアのタワマンの場合

では、マンションを購入した場合、実際どの程度の収益が得られるのかを計算してみましょう。

<前提条件>

  • 人口増加が目覚ましい、東京都江東区内の湾岸エリアで比較的資産価値が落ちにくいとされるタワーマンションを購入する
  • 販売価格5,500万円前後で3LDKの物件
  • 退職金が3,000万円と仮定し、その半分の1,500万円を頭金として投資する
  • 5,500-1,500万円=4,000万円の融資を、返済期間25年、金利1.9%で受ける

この場合、毎月の返済額は約16.8万円になります。

以下は、江東区内にある物件の一例です。

  • XXタワー 5,500万円(3LDK)
  • 中古マンション
  • 東京都江東区、新交通ゆりかもめ「有明テニスの森」徒歩8分
  • 33階建3X階
  • 専有面積:70.X平方メートル

このエリアにおけるマンションの賃貸相場からすると、3LDKの場合、管理費など込みで30万円程度です。

賃料相場参考:https://www.homes.co.jp/chintai/tokyo/ariaketenisunomori_09963-st/price/

家賃収入は毎月30万、年間360万円だと仮定します。

一方で、支出には以下のようなものがあります。

  • 管理費=平方メートル×250円=月約1万7,500円
  • 修繕費積立金=月1万~2万円(計3万円と仮定します)
  • 固定資産税・都市計画税含=20万円(固定資産税・都市計画税の計算は複雑で、経年変化もあるので概算です)

また、年間の家賃収入360万円から、各種の経費を差し引いた所得に対して所得税、住民税が課せられます。

経費は、

  • 減価償却費が1,500万÷47年(法定耐用年数)=約32万円
  • 管理費と修繕費を合わせて毎月の固定費が3万円×12=36万円
  • 固定資産税が約25万円
  • ローン金利が約6万円×12=72万円

「360-(32+36+25+72)=195」で、年間の不動産所得は195万円と計算できます。

所得税、住民税の税額は、受取年金額など他の所得や所得控除を合算して計算されるので、一概にはいえませんが、仮に合計15%だとすると、不動産所得の増加によって増加する所得税・住民税は約10万円(9.75万円)になります。

以上をキャッシュフローで見ると、「360-201.6(ローン返済)-20(固定資産税)-36(管理費・修繕積立金)-10(所得税、住民税)=92.4万円」が、年間の手もとに残るキャッシュの概算になります。

退職金のうち、1,500万円を頭金として投資しましたが、約16年で回収できることとなります。

あとは、その時点で売却してもいいでしょうし、そのまま保有して、子どもや孫への財産として相続してもいいでしょう。

自分に「万が一」のことがあったらどうなる?

よくいわれることですが、不動産投資は生命保険の代わりにもなります。

不動産購入用の融資を受けるときには、団体信用生命保険、通称「団信」への加入が同時に行われます。団信は、加入者に万一のことがあったときにローンが返済される保険です。つまり、家族にはローンの残っていない不動産だけが遺されるわけです。ローン返済がなくなるので、家賃収入から経費を引いた金額がまるまる受け取れることになり、遺族年金などとあわせれば、十分な生活資金を確保できるでしょう。

以前の団信は死亡保険金のみでしたが、最近は死亡保険金だけではなく、ガンなどの重病になったときに保険金が給付されるものも登場しています。生命保険代わりだけではなく、ガン保険代わりにも使えるようになってきたのです。

相続対策として投資用マンションを購入する際の注意点

不動産購入のもうひとつ大きなメリットが、相続対策になることです。

相続税が課税される際の資産の評価は、実勢価格ではなく国税庁が資産ごとに定めている相続税評価額が用いられます。現預金を100の評価とした場合、100で売買されている土地は70~80、建物は50程度の評価額なるのが一般的です。そのために、現預金で相続するよりも、不動産で相続するほうが相続税額は低くなります。

タワーマンションの場合は、とくに、相続税評価額と実勢価格とのかい離が大きいので、さらに相続税対策として有利だといわれています。

ただし、ある程度の資産をお持ちの方の場合は注意点もあります。

それは、不動産は家賃収入が得られるので、長く持てば持つほど、現金が増えていくという点です。もちろん、使ってしまえば現金は減りますが、資産形成やその承継という観点からは、本末転倒です。

そこで、相続時精算課税制度を使って、子どもに生前贈与をしておくという手があります。相続時精算課税制度自体は、本来なら贈与時にされるべき課税が、相続時まで繰り延べなるというだけのものなので、それ自体に節税の効果はありません。

しかし、その資産が収益を生むものである場合は、収益が被相続人(親)のものではなく、推定相続人(子)のものになることから、その部分の相続税、贈与税が不要になります。

仮に不動産が年間100万円×20年で2,000万円のキャッシュを生むとした場合、その2,000万円が親のものならそこに相続税がかかりますが、子のものであれば、かからないというわけです。

多額の資産がある方が不動産投資をする場合は、家賃収入が誰のものになり、それが相続の際にどうなるのかという視点も忘れないようにしたほうがいいでしょう。

退職金で不動産投資をする際の注意点

一方、退職金は一度しかもらえないものなので、その利用には十分注意しなければなりません。

まず、退職金のすべてを投資にまわすことは、リスクが高すぎるのでやめたほうがいいでしょう。

不動産は比較的安全性の高い実物資産ですが、それでも災害リスクや空室リスクなど、さまざまなリスクがあります。また、金融資産に比べて、流動性が低い、つまり売りたいときにすぐに売れるかどうかわからないというリスクもあります。

退職金の全額を不動産にまわしてしまうと、何らかの事情でまとまったお金が必要になったときに困ってしまいます。

また、投資をする際の収益シミュレーションは、できるだけ期待値を抑え、シビアに判断するようにしましょう。

現役時は給与収入やボーナスがありますから、投資の損失もある程度のリカバリーができますが、リタイア後はそうはいきません。

なによりもまずは、投資元本の損失を起こさないことを重視しましょう。そのためには、不動産会社などが提示する収益シミュレーションは、保守的(厳しめ)に見ておくことが大切です。

まとめ

老後の生活資金不足を補う手段として、手堅いと言える手法こそ、不動産投資です。一定期間の所有で老後の資金不足を解消できますし、相続税対策や保険代わりになるメリットもあります。ただし、年金収入がない場合は、損失を起こさないように、まずはリスクを抑えて手堅いシミュレーションを行ってから、吟味を重ねた物件購入、そして賃貸物件運営…と、着実なステップを踏むようにしましょう。