2012年に発足した第二次安倍内閣により、2%のインフレ目標が設定されました。もしそれが実現すると、私たちの生活は大きな影響を受けることになります。端的にいうなら、「ただ時が経つだけで現金の価値が下がる」のです。本記事では、こうしたインフレのしくみについてデータを交えながら見ていくとともに、インフレリスクへの対策を考察します。

そもそも「インフレ」とは何か?

インフレとは「モノの価値が継続的に上がり、通貨の価値が継続的に下がる」ことを指します。たとえば、リンゴを1個買うのに100円出せばよかったものが、3年後には150円になっていたら、インフレとなっている可能性が高いのです。

リンゴの価格が上がっただけなら、不作など個別の事情も考えられますが、インフレが起これば当然ながら、すべての商品の価格が上昇することになります。

一般的に、インフレは景気のよいときに起こります。景気がよければ給料も高くなっている可能性が高いため、あまり大きな影響はありません。

しかし、給料があまり上がっていないのにインフレが進行してしまうと、国民の生活は苦しくなってしまいます。この状態のことを、景気停滞を意味する「スタグネーション」と組み合わせて「スタグフレ」と呼びます。

なお、インフレとは逆に、モノの価値が継続的に下がり、通貨の価値が継続的に上がることを「デフレ」と呼びます。

デフレは一般的に景気の悪いときに起こります。3年前まで100円で変えていたリンゴが70円程度で購入できるなら生活が楽になりそうですが、それ以上に給料が下がりやすくなるため、楽にはなりません。

このように、給料が下がると国民の購買意欲が下がり、さらにデフレが進行することを「デフレスパイラル」と呼びます。

安倍内閣が目指す「インフレ目標=2%」

日本においては、バブル崩壊(1991年)から20年間のことを「失われた20年」と呼びますが、この間、日本においてはデフレが進行しました。

内閣府のデータ(2012年「平成24年度 年次経済財政報告」内閣府)によると、1991年以降の日本の消費者物価指数はおおむね低成長~前年比マイナスとなっていることが分かります。

消費者物価指数の前年比(インフレ率)推移

1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997
3.3 1.6 1.3 0.7 -0.1 0.1 1.8
1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004
0.6 -0.3 -0.7 -0.7 -0.9 -0.3 0.0
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011
-0.3 0.3 0.0 1.4 -1.4 -0.7 -0.3

前述したとおり、デフレが続くとデフレスパイラルに陥る可能性があり、政府はこれを脱却(デフレ脱却)するために政策を実行に移します。とくに2012年に発足した安倍内閣では、アベノミクスのなかで「インフレ目標=2%」を設定しました。

実際に、総務省統計局のデータ(2019年「2015年基準 消費者物価指数 全国 2018年(平成30年)平均」総務省統計局)2012年以降の消費者物価指数の前年比(インフレ率)を見てみると、おおむね好転していることがわかります。

現在でも、アベノミクスによるデフレ脱却の方針に大きな変更はなく、今後インフレが進行していく可能性があります。

人口減少も「インフレリスク」になりうる

政府によるインフレ目標とは別に、今後の日本でインフレの進行の要因になりうるものがいくつかあります。例えば、労働力人口の割合です。

厚生労働省のデータ(平成30年4月23日「雇用を取り巻く環境と諸課題について」厚生労働省職業安定局)によると、日本の生産年齢人口割合は2016年に60.3%あったものが、2065年には51.4%まで下がることが予想されています。

また総人口の減少は確定的であり、2030年時点で6,875万人といると予想される生産年齢人口は、2065年には4,529万人にまで下がる見込みです。

このように、働く人が減ってそれに支えられる人の割合が多くなると、さまざまな分野で料金の値上げが発生する可能性があります。直近でも、大手配送業者の宅配料金が値上げされましたが、人手が足りないことが主な原因でした(参考:ヤマト運輸)

労働力人口が減ると経済が縮小するため、成長力も低下し、インフレにつながらないという見方もありますが、それは保証の限りではありません。何も対策しないでいると、時間が経過しただけで、自分の持っている大切な資産(お金)の価値が下がってしまうかもしれないのです。

インフレリスクに強い「実物資産」を持とう

インフレリスクに備えるには「実物資産」を持つことを検討することが有効です。実物資産とは金やプラチナ、不動産、美術品など、現物がある資産のことを指します。

実物資産のほかに「金融資産」と呼ばれるものがありますが、これは預金や国債、株式、外貨のことを指します。実物資産は、それ自体が資産価値を持つ物への投資ですから、インフレになり、モノの価値が上がり通貨の価値が下がると相対的に実物資産の価値も上がることになります。

日本では2012年以降インフレ目標が設定され、インフレ率の上昇が見られたことを述べましたが、この期間の実物資産の価格推移を見てみましょう。

田中貴金属工業のデータ(「金価格推移」田中貴金属工業)を見てみると、2011年頭に最高3,733円だった金価格は2019年9月には5,325円まで上昇していることが分かります。

なお、「失われた20年」の金価格推移を見てみると、バブル崩壊時(1991年)1,609円だった金価格は2000年には1,014円にまで減少し、その後2010年には平均3,477円にまで回復しています。

「インフレにより価値が増加した」とは取れませんが、インフレの影響を受けることなく価格が上昇しているということがわかるでしょう。

次に、同じく田中貴金属工業のデータ(「プラチナ価格推移」 田中貴金属工業)でプラチナの価格推移を見てみると、2012年末に3,797円だったプラチナの価格は2015年頭には4,799円にまで上昇しています。とはいえ、その後プラチナ価格は下降し、2019年9月には3,331円となっています。

なお、失われた20年の価格推移を見てみると、1991年に1,690円だったプラチナ価格は1995年に1,343円まで減少。その後、2008年には5,409円にまで上昇しています。その後は、リーマンショックにより価格が下落していますが、こちらも「インフレだから」という理由で価格が下がっているとは読めません。むしろ、日本においては2014年に2.7%という高いインフレ率を記録していますが、この年のプラチナ価格は直近の最高額となっています。

最後に、国道交通省のデータ(「平成31年地価公示関係データ」国土交通省)で不動産(地価)の推移を見てみると、2011年の平均価格は174,200円だったものが、平成31年には224,600円に上昇しています。

また、失われた20年の推移を見てみると、1991年に594,800円だったものが、2005年には165,700円まで減少。その後、やや持ち直したもののリーマンショックにより再度下落した形となっています。

地価の推移を見てみても、「インフレ率の上昇の影響を受けることなく上昇している」といえるでしょう。

「分散投資」を意識しよう

インフレ目標の設定される現在の日本においては、インフレリスクに対する備えを取っておくことが大切です。

金やプラチナ、不動産はインフレに強い実物資産です。とはいえ、いずれもそれ自体が価値を持つもので、インフレ率と直接連動するような価格の動きはしません。

つまり、インフレが続くなかで、インフレを原因として価値が下落する可能性は低いですが、ほかの何らかの理由を原因として価値が下落してしまう可能性はあります。

インフレリスク対策としては、手持ち資産を現金だけにしておくのではなく、金やプラチナ、不動産といった実物資産を組み合わせ、「複数の資産に分散投資する」ことが大切です。

まとめ

日本では、長引く不況を原因とするデフレと、それによるデフレスパイラルを防ぐため、デフレ脱却を目指したインフレ目標が設定されています。実際に、インフレ目標設定後は物価(消費者物価指数)が上昇しています。また、今後日本で進展していくことは確実な生産年齢人口の減少も、インフレにつながる要因となり得ます。

こうしたなか、なにも対策を打つことなく資産を預金のままにしておくと、時間が経過しただけで資産が減少することになりかねません。ここでご紹介したように、貴金属や不動産といった実物資産への分散投資を行い、インフレリスクへ備えることをおすすめします。