少子高齢化や景気低迷など、日本が抱えるさまざまな社会問題により、現役世代の公的年金の先送り&減少は確実です。夫婦2人分の年金で老後の生活がどうにかなったのは、残念ながら過去の話なのです。本記事では、公的資金の平均受給額や老後に必要な生活資金などについて、データで解説するとともに、なぜ公的年金が先送り&減少するのか、賦課方式やマクロ経済スライドといった、年金の制度の基礎知識を解説します。

一体いくら準備すれば、老後生活は安泰なのか

金融庁の報告書による「老後資金2000万円問題」が話題となりましたが、今後、公的年金の先送りと減少が確実視されているなか、ご自分の老後資金について不安を覚えている方も多くいらっしゃると思います。では、そもそも老後の生活にはどのくらいのお金が必要なのでしょうか?

●老後の最低日常生活費は月額22.1万円
生活保険文化センターのデータ(令和元年9月「令和元年度生活保障に関する調査<<速報版>>」生活保険文化センター)によると、夫婦2人で老後生活を送る上で必要と考えられる最低日常生活費の平均は、月額22.1万円となっています。また、本調査では経済的にゆとりのある老後生活を送るためにはいくらの上乗せが必要かの調査も行われており、平均は月額14万円です。つまり、ゆとりのある生活を送るには合計で毎月36.1万円の資金が必要ということになります。

では、現在支払われている年金額の平均はどの程度なのでしょうか。

●専業主婦世帯の平成31年度厚生年金の平均支給額は221,504円
平成31年に厚生労働省のデータ(平成31年1月18日記者発表資料「平成31年度の年金額改定についてお知らせします」厚生労働省)によると、「夫が平均的収入(平均標準報酬が42.8万円)で40年間就業し、妻がその期間すべて専業主婦であった世帯が年金を受け取る際の標準的な年金額」は221,504円となっています。

現時点ですでに、平均的な年金の支給額では最低日常生活費程度しかまかなえないことが分かります。

●共働き世帯の年金支給額は29万円弱程度
厚生労働省年金局(平成30年12月「平成29年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」厚生労働省年金局 )によると、平成29年度の老齢年金(厚生年金+基礎年金)の支給額平均は144,903円となっています。

実際には、現役世帯の年収により異なりますが、仮に夫婦ともに平均額程度の年金を受け取るとすると、おおよそ29万円弱程度と考えるとよいでしょう。最低日常生活費は十分まかなえますが、ゆとりある生活をするにはやや足りない計算となります。

上記データを元にすると、専業主婦世帯の方が老後にゆとりある生活をするには、毎月14万円分が不足することになります。また、共働き世帯の家庭では、毎月7万円程度が不足します。

これを、年額や20年間の額にすると以下のようになります。

平均支給額 ゆとりある生活資金 不足する月額 不足する年額 20年間の額
専業主婦世帯 約22万円 約36万円 約14万円 約168万円 約3,360万円
共働き世帯 約29万円 約36万円 約7万円 約84万円 約1,680万円

単独世帯の年金について

内閣府のデータ(「第1部 少子化対策の現状」)によると、1990年には男性5.6%、女性4.3%だった50歳時未婚割合は2015年に男性23.4%、女性14.1%まで伸びています。

こうした、単独世帯の割合は今後も増えていくことが想定されますが、では、単独世帯が受け取れる年金額はいくらくらいになるのでしょうか。

みずほ総合研究所のデータ(2018年8月27日 政策調査部 堀江奈保子「単独世帯の年金額の見通し」みずほ総合研究所によると、男性の平均受給年金額は16.3万円、女性は13.3万円となっています。

一方、総務省のデータ(平成27年9月30日「平成26年全国消費実態調査」総務省統計局)によると、65歳以上の高齢単独無職世帯の支出は男性が17.0万円、女性が16.3万円となっています。

もちろん、いずれの世帯においても、年金の支給額は個々人の現役時代の収入によって変わりますし、自営業の方で国民年金の支給を受ける場合は上記より少なくなります。また、今後年金支給額は目減りしていくことが確実視されており、上記よりさらに多くの資金が必要となることは想像に難くありません。

公的年金はなぜ先送りされる可能性が高いのか?

では、なぜ公的年金の先送りが確実視されているのか見ていきましょう。

●現役世代から徴収した保険料を高齢者への支払いに充てる「賦課方式」
日本の公的年金制度は「賦課方式」というシステムがとられています。賦課方式とは、現役世代が支払っている保険料を「積み立てる」のではなく、現在の高齢者の年金の支払いに充てる仕組みのことです。

高齢者世帯より現役世代が多ければ、賦課方式で公的年金制度を運用していくのに大きな問題となることはありませんが、現在の日本のように、少子高齢化が進むなかでは現役世代の負担がどんどん増していくことになります。

なお、本来の賦課方式は、年金受給者への年金支払額と、現役世代からの保険料収入が同額となります。

しかし、現在の日本の賦課方式は、年金支払額に対して現役世代からの保険料収入が足りず、足りない分は税金や過去の年金積立額からの取り崩しで賄われています。

●社会情勢に応じて年金の給付水準を調整する「マクロ経済スライド」
年金の支給額は物価や賃金に応じて毎年定められることとされています。これを物価スライドと呼びますが、少子高齢化が進む日本において、公的年金を支払うことができなくなることを防ぐ目的で2015年に導入されたのがマクロ経済スライドです。

マクロ経済スライドとは、そのときの社会情勢に応じて年金の給付水準を調整する仕組みです。例えば、物価や賃金が上昇した場合、その上昇した分だけ年金の給付水準が上昇するはずですが、そのときの社会情勢によっては、物価や賃金が上昇する分ほどは年金の支給額が増えないことになります。これは、実質的な年金支給額の減額ということができます。

今後少子高齢化が進む日本において、保険料を納付する現役世代より、公的年金を受給する高齢者世代の割合が増えるのは確実です。そうしたなか、マクロ経済スライドが実施されることにより、たとえ日本の物価や賃金が上昇したとしても、支給される年金は調整されることになります。

なお、仮に物価や賃金が下降した場合は、年金の支給額は物価や賃金の下降率よりさらに大きく減少することになります。

●高齢化率の上昇で、徴収される保険料が減少&支払う年金額が増加
大きなポイントとなるのが今後の日本の高齢化率の推移です。内閣府のデータ(「平成30年版高齢社会白書」内閣府)によると、平成29年(2017年)の、日本の総人口に占める65歳以上人口(高齢化率)は27.7%となっています。

日本の高齢化率は昭和45年(1970年)には7%を超えた程度だったのが、平成6年(1994年)には14%を超え、その後も右肩上がりに上昇しています。

また、2017年将来推計を見てみると、2025年には30%に達し、2040年に35.3%、2065年に38.4%にまで上昇することが想定されています。

年金制度は賦課方式で運用されており、今後高齢化率が進めば納められる保険料は少なくなり、一方で支払わなければならない年金額は増えていきます。

このため、バランスを調整するためにマクロ経済スライドが用いられ、年金支給額が減少されることが見込まれるのです。

自力で資産形成しよう

そもそも年金制度とは、国が個人の代わりに老後のための生活資金を積み立ててくれているようなものです。実際には、公的年金は賦課方式で運用されており、「積立」ではないことが大きな問題となってはいるのですが…。

とはいえ、嘆いていても事は解決しません。これからの日本という国や、年金制度のことを考えると、老後に備えて自力で資産形成していくしか方法はないでしょう。

資産形成にはいくつかの方法がありますが、自分に合った方法を探し、今からでも始めてみることをおすすめします。