地主の方は、先祖代々受け継いできた土地をどのように守り受け継いでいくべきか、頭を悩ませているのではないでしょうか。本記事では、近年ますます進む土地所有者の高齢化の実態とともに、難しさを増す相続対策について、現実的かつ有益な手段を探ります。

高齢化が進む「土地所有者」たち

土地所の有者の高齢化が止まりません。国土交通省のデータ(「第1章 我が国における土地所有・利用の概況」国土交通省)によると、「現住居の敷地」を所有する世帯を平成15年と平成20年で比べた場合、55歳以上の世帯(55~59歳、60~64歳、65~69歳、70~74歳、75歳以上)すべてで上昇しているのに対し、55歳未満の世帯では35~39歳の世帯を除くすべての世代で減少しています。

また、「現住居の敷地以外の土地」の所有者は55歳未満の世帯で大きく減少しているほか、55歳以上74歳以下の世帯ではおおむね横ばい、75歳以上の世帯では大きく上昇しています。

以上のデータから、高齢者世帯ではいずれも土地の所有者数が上昇傾向であるのに対し、55歳未満の世帯では減少傾向にあることが分かります。つまり、今後「世代交代=相続」について考えるべき世帯が、それだけ増えているということなのです。

収益化の難しい「土地」という資産

土地は、そのままで簡単に収益化が実現する資産ではありません。日税不動産鑑定士会のデータ(「平成30年版継続地代の実態調べ」日税不動産鑑定士会の調査研究)によると、東京23区における継続地代の平均的活用利子率は、平成30年の時点で住宅地が0.70%、商業地で1.10%となっています。

例えば、価格が3,000万円の土地であれば、住宅地の場合で平均21万円/年、商業地の場合で平均33万円/年の地代を受け取っている計算です。利回りとしては決して高いとはいえません。

しかも、土地には税金がかかります。所有者には固定資産税評価額に対して1.4%の税率で固定資産税が、0.3%の税率で都市計画税が課されます。

固定資産税評価額は、実勢価格のおおむね7割程度を目安に設定されるため、例えば実勢価格3,000万円の土地であれば、3,000万円×0.7×(1.4%+0.3%)=35.7万円となる計算です。

もちろん、実際には上記以上の地代を受け取っている可能性も、固定資産税評価額がもっと安い可能性もありますが、地代より固定資産税の負担のほうが多い計算となるケースはとても多いのです。

地主を悩ませる「相続問題」

収益化以外の問題として地主を悩ませるのが「相続」です。2015年に相続税法が改正され、それまで「5,000万円+1,000万円×法定相続人の数」だった基礎控除額が大きく減額され、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」となりました。

国税庁のデータ(平成30年12月「平成29年分の相続税の申告状況について」国税庁)によると、増税前の2014年には被相続人数(亡くなった人の数)が127万人に対し、課税対象者が5.6万人(課税割合4.4%)でしたが、2015年には被相続人数(亡くなった人の数)が129万人に対し、課税対象者が10.3万人(課税割合8.0%)と、大幅に増えていることが分かります。

また、相続財産額の推移を見ると、2014年に土地と相続財産の合計額は5兆1,469億円だったものが、2015年には5兆9,400億円と、約15.4%上昇しています。

2015年の増税以降、これまでなら相続税の納税が不要だった人も課税対象者となり、また、課税対象者はさらに納税額が大きくなりました。つまり、相続対策が「他人事ではない」人々が増えているのです。

地主のためのシンプルな相続対策

かねてより、相続対策にはさまざまな方法が活用されています。なかでも地主の場合は、収益物件(アパートやマンション)を建てる、というスタンダードな方法があります。

収益物件の建築が相続対策になる理由として、下記の3つがあげられます。

●収益物件を建てることで貸家建付地としての評価を受けられる
●建物が実勢価格より評価の低い固定資産税評価額で評価される
●建物が貸家としての評価を受けられる

まず、所有している土地は「自用地」として評価されます。これは、固定資産税評価額の評価とほぼ同じです。ところが、所有地の上に収益物件を建てると「貸家建付地」となり、自用地より低い評価を受けられるのです。なぜなら、自分の土地であっても、建物を第三者に貸すことで活用の自由度が下がると評されるからです。

貸家建付地の評価額は、以下のように計算されます。

貸家建付地の評価額=自用地の評価額-(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

借家権割合は全国一律で30%と定められていますが、借地権割合はエリアによって異なる数値が定められていますので、資産をお持ちの方は各自確認してみてください。

ここでは一例として、自用地の評価額を2,100万円、借地権割合を70%、賃貸割合を100%とした場合の計算式を見ていきましょう。

2,100万円-(1-0.7(借地権割合)×0.3(借家権割合)×100%)=1,659万円

約20%程度、相続税の評価額を下げられることになります。

また、建物部分は固定資産税評価額で評価されるため、実勢価格の7割が目安です。

建物についても貸家建付地の計算と同じ原理で、「貸家」として以下のように評価額を計算します。

建物の固定資産税評価額×(1-借家権割合(一律30%)×賃貸割合)

例えば、1億円かけて建てた建物は、まず相続税の計算上、7,000万円程度の価値として計算されます。

収益物件で第三者に貸している場合には、貸家としての評価を受けることができるため、

7,000万円×(1-0.3×100%)=4,900万円

が、評価額となります。

このように、土地の上に収益物件を建てると、借地権割合によって異なりますが、20%程度の評価減を受けられることが多く、建物については50%以上の評価減を期待することができます(所有地の評価減の詳細については、税理士等の専門家にご相談ください)。

なお、上記に加え、被相続人(亡くなった方)と同居していたなど一定の条件を満たした場合は、「小規模住宅用地の特例」の適用を受けることができ、収益物件が建てられていた場合も、土地について200㎡までは50%の評価減の恩恵が受けられ、さらに相続対策効果を高めることができます。

また、相続対策ではありませんが、土地を土地のまま持っているのと異なり、収益物件を建てると軽減税率の適用を受けることができ、固定資産税の負担額を最大で6分の1まで減らすことができるのもポイントです。

土地の上に収益物件を建てる際の注意点

上記から、収益物件の建設が土地の相続対策であることは明確ですが、だからといって、どんな土地でも賃貸物件を建てれば大丈夫、というわけではありません。立地や土地の形状によっては、アパートやマンションの建設に適さず、せっかく物件を建設しても、入居がほとんど期待できないところもあるからです。そのような土地にローンを組んで収益物件と建ててしまうと、大変な負債を抱え込み、資産防衛どころの話ではありません。

所有地を収益化しにくい不動産なら、売却して別の場所に収益物件を購入するといった「資産の組み換え」も検討してみましょう。

また、相続対策として収益物件を建てる場合は、税金の圧縮や資産価値の保持ばかりに目を向けるのでなく、相続人への財産の分配についても熟考する必要があります。

不動産は分割が難しい資産です。複数の相続人がいる場合、一つの土地に一つの収益物件では、不公平が生じやすく、公平性にこだわって共有名義にしても、状況によってはトラブルの種となる可能性が高まります。生命保険等の活用も検討して、大切な家族がトラブルを起こさないよう、配慮すべきでしょう。

まとめ

せっかくの土地も、単に所有しているだけでは固定資産税がかかる一方です。また、相続税の増税により、無策のままでは、次世代に引き継ぐことも難しくなります。この問題の解決策として、所有地への収益物件の建設があげられますが、建設に適さない土地の場合は、売却して資産を組み替え、例えば「駅近のワンルーム」のような、収益が期待できる不動産を購入する方法もあります。大切な所有地をどのように活用すべきか、専門家のアドバイスを受けながら賢く計画を立てていきましょう。