高層建物内で火事等の災害に見舞われると、多くの人がパニックに陥り、将棋倒しや逃げ遅れといった二次的な事故を招いてしまう場合があります。そういったことが起こらないよう、消防法や建築基準法では避難経路の確保や耐火建材使用など厳しいルールを設けています。

しかしそれらの法律を順守した建物であっても「安心・安全」と断言することはできません。万一の事態に備え、高層建物である「タワーマンション」に暮らす住民が日頃から行うべき「災害への備え」について解説します。

パニック回避が仇となり犠牲者増大

今から40年以上前、高層建物の火災をテーマにした「タワーリング・インフェルノ」という映画が製作されました。アメリカ・サンフランシスコにある地上138階建ての超高層ビルが竣工セレモニー中に火災に見舞われ、数百人もの犠牲者が出るというストーリーです。

この映画はフィクションですが、近年これに似たタワーマンション(タワマン)火災が現実に起きています。

2017年、イギリス・ロンドンにある地上24階建て公営高層住宅「グレンフェル・タワー」で発生した火災事故では72人もの尊い命が奪われました。当時ロンドン消防局が推奨していた火災マニュアルは、「炎や煙が届いていない場所にいる人は避難せず自室待機する」というものでした。

建物内に一斉避難指示を出すと住民がパニック状態になり二次災害も起こりかねません。そのため火元から遠い住民には自室待機を要請したのですが、グレンフェル・タワーのケースでは延焼が速く、待機住民の避難経路があっという間に閉ざされて多くの犠牲者を出す結果となってしまいました。

タワマンの火災発生状況とその原因

東京消防庁によると、令和2年に東京都内の高層共同住宅(=いわゆるタワマン)で発生した火災は195件あり、そのうち11階以上の上層階住戸が火元となったものは61件と全体の約3割を占めています。

出火原因として最も多いのは「ガステーブル(キッチン)」からの出火で、次いで「放火」、「たばこの不始末(寝室等)」となっています。たとえ耐火・防災性に長けた建物であっても、人為的なミスや悪意による火災のリスクは抑えられません。

タワマンの場合、上層階住民の避難には相当の時間がかかります。なぜなら、タワマンのエレベーターには火災発生を検知した際は直ちに避難階(一般的には地上1階)へ移動し自動停止する機能が付いているからです。

そうなると階段を使って非難するしかありません。ちなみに階段で地上30階から1階まで降りるのに要する時間は10分前後で、その分「逃げ遅れ」のリスクが高まります。また、火災発生場所が中層階部分であれば下階への逃げ道が阻まれるため、逆に屋上へ登っていくことになります。

消防法では、タワマンであれば階層を問わず、室内で使用するカーテンやじゅうたん・寝具等を「防炎物品」にしなければいけないというルールを定めています。これらはタワマン住民が万一の事態に備えるためにできる最低限の防御といえます。この他、日常生活の中でできる災害への備えにはどんなものがあるのか考えてみましょう。

避難経路の確認

非常口や避難階段がどこに何か所あるのか、それらが外部のどこに繋がっているのかを確認しておきましょう。少なくとも自宅住戸から最も近い非常口・非常階段の出入口ぐらいは覚えておきたいものです。

避難ハッチの確認

火の手がまわり、廊下側にある非常口や避難階段まで行けない場合は、バルコニーにある「避難ハッチ」からハシゴをつたって他階へ脱出するしかありません。緊急時にあたふたしないためにも、日頃から避難ハッチの開閉方法などを確認しておきましょう。

災害リスクは火災だけではない

タワマンにおける災害は火災だけに留まりません。台風や地震といった天災に見舞われ、避難が必要となる場合もあります。

台風(暴風雨)による浸水被害

2019年の大型台風来襲時には、近隣河川の増水により地下配電設備が浸水し、数週間にわたり電気・水道が使えなくなったタワマンがありました。ライフラインが途絶えた巨塔はもはや張子のトラ、先進機能を網羅したタワマンの思わぬ弱点が露呈する事態となりました。

地震による「長周期地震動」被害

タワマンの場合、地震発生時に「長周期地震動(長い周期で振り子のように揺れ続ける状態)」が起こりやすい構造になっています。揺れが長引けば室内の大型家具が倒れかかってきたり、避難移動中に転んでしまう危険性も高まります。

タワマン住民は避難所が使えない?

タワマン住民が災害に見舞われた場合、建物外に避難したその後はどこで過ごせば良いのでしょう?

近隣に頼れる親類や知り合いが居ればよいのですが、そうでなければ仮住まい先を探さなければなりません。地震や台風の場合は自宅待機も選択できますが、エレベーターはおろかライフラインも心許ない状況です。そんな時は自治体が用意した避難所に身を寄せるのも一つの方法ですが、そこもまた難関です。

タワマンが林立する東京の港区や江東区では、コロナ禍の影響により避難所収容定員を減らしているため、タワマン住民へは「在宅避難」を推奨しています。

港区では「災害時においてご自宅に倒壊や焼損、浸水、流出の危険性がない場合は、そのままご自宅で生活(在宅避難)を送ってほしい」とし、江東区は「小・中学校等への避難のほか、安全な親戚・知人宅への避難や、自宅が安全であれば在宅避難も選択肢として検討してほしい」と広報しています。

災害リスクを回避するためには

都会のタワマンライフは災害に対し実に脆弱であることがお分かりいただけたと思います。親類や自治体にも頼れないとなれば自力で生活維持していくしかありません。そこで、有事(災害発生)に備え、平時(日常)に購入・備蓄しておくべき物品を以下に挙げてみました。

・最低7日分×家族の人数分の水やレトルト食品
・救急箱、トイレットペーパー、ウェットティッシュ、携帯トイレ・ビニール袋等の衛生用品
・マスク、手指消毒液、体温計、除菌シート等の感染症対策用品
・カセットコンロ、懐中電灯、携帯ラジオ、発電機、ヘルメット等
 ※管理組合で準備している場合もあるので要確認

基本的に防災用備蓄品の消費・賞味期限は長期のものが多いですが、幸いにも災害が起こらなければ期限切れになってしまうものも出てくることでしょう。このようなムダを回避するためには、普段より多めに購入して、普段の生活の中でも消費しながら足りなくなった分だけ追加購入する「ローリングストック」方式が有効です。万全の備えも大切ですが、資源の浪費を避ける工夫も必要です。

まとめ

タワマン生活の中で火事などの災害に遭ったら、住民はどのような行動を取れば良いのでしょうか?

イギリスでのタワマン火災事例を見ると、「自室待機」が促される中で多数の犠牲者が出ています。日本国内においてもタワマン火災は絶えず起こっており、出火原因は人為的なものがほとんどで、いつどこで起きてもおかしくないような状況です。

上層階であるほど避難に時間がかかり、その分被災リスクも高まります。室内のインテリアを「防炎物品」にしたり、日頃から避難経路の確認をしておくなど万一に備えることが必要です。

タワマンに関わる災害は火災だけではなく、台風による浸水被害や地震による「長周期地震動」被害なども考えられます。加えて、タワマンが密集する地域では避難所が定員オーバーになる可能性があり、「在宅避難」を推奨する自治体もあります。

災害を自力で乗り越えられるよう、平時から食品や衛生用品などの備蓄をしておくことも大切です。