土地評価額の目安とされる「路線価」は、空高くそびえ立つタワーマンションの資産評価にも少なからず影響を及ぼします。それを逆手に取り、「相続税対策」と称して大幅な節税を試みる投資家も少なくありません。

そんななか、路線価は2年ぶりに上昇へと転じ、また路線価を根拠とした相続税評価に法曹のメスが入るなど、2022年度はタワーマンションを活用した節税対策の大きな転換期となりそうです。

そこで、よく耳にするものの意外と知られていない路線価の基礎知識とタワーマンション節税との関わり、そして収益不動産を活用した相続税対策において今後注意すべきことについて解説します。

そもそも「路線価」とは

前面道路に付けられた価格

路線価には「固定資産税路線価」と「相続税路線価」の2種類ありますが、今回はタワーマンション(タワマン)節税に関りの深い相続税路線価に絞って説明します。

相続税路線価(以下、路線価)は、全国各地の公道や不特定多数の人や車が行来する私道に付けられた価格で、これが相続税の課税基準となっています。

街中ばかりでなく田畑や山林沿いの道路にも付いており、全国各地の路線価は国税庁のインターネットサイト「路線価図・評価倍率表」で調べることができます。

ただし、不動産取引事例が極端に少ない過疎地域では路線価が付いていないところ(倍率地域)もあり、そういった地域は市区町村毎に設定された「評価倍率表」をもとに路線価相当額を導き出すことになります。

相続税の課税基準は、路線価をもとに算出された「土地評価額」になります。土地評価額は、対象の土地が接面する道路の路線価に土地面積を乗じて計算します。たとえば、1㎡あたりの路線価が50万円の道路に面した100㎡の土地の場合は以下のようになります。

50万円×100㎡=土地評価額5,000万円

ちなみに路線価は㎡単位で表記され、下三桁の数字表記は割愛されています。坪単位と勘違いしたり、桁数を間違えないように気を付けましょう。

路線価決定の要は「地価公示価格」

路線価は毎年1月1日を評価基点として決定、7月1日に発表されます。路線価決定の基準となるのは国土交通省が発表する「地価公示価格」です。

地価公示価格も毎年1月1日が評価基点で、過去1年間の土地取引状況等をもとに不動産鑑定士が評価・決定します。地価公示価格は路線価より少し早めの3月中に発表されるので、路線価はそれを受けて地価公示価格の80%を目安に決定されます。

一般市場との価格乖離がタワマン節税の旨味

では、ここから本題に入ります。相続税の課税基準となる土地評価額は路線価をもとに算出されることは前述の通りです。次に考えなければいけないのは「建物評価額」です。

相続税の課税基準となる建物評価額は、木造や鉄筋コンクリート造等の構造毎に築年数による減価償却率で算出されます。一般不動産市場のように「眺望が拓ける高層階」や「ホテルライクな共用設備」といった生活快適性は加味されず、1階も最上階も一緒くたんに評価されます。

一般市場において、タワマン高層階住戸の売買価格は高額になります。

その理由は、豊かな眺望や設備仕様のグレード感といった不動産の個別特性に所以するものです。そこに相続税評価基準となる土地・建物評価額との「価格乖離」が生まれます。

たとえば、タワマン1階住戸の市場価格が1億円で、これと同じ間取りの最上階住戸が3億円だったとします。価格に大きな開きがあるものの、路線価をもとに算出された土地評価額は2戸とも同額です。

なぜなら、同じ間取りのため土地持ち分面積が同じだからです。仮に土地評価額が1,000万円だったとすると、1階住戸の建物価格は1億円から差し引き9,000万円、最上階住戸は3億円から差し引き2億9,000万円と考えがちですが、建物評価額は減価償却率で算出されますからこちらも2戸同額となります。

仮に建物評価額を3,000万円とすると、1階住戸は6,000万円、最上階住戸はなんと2億6,000万円が宙に浮く=非課税になります。このような土地・建物の価格乖離こそがタワマン節税の“旨味”なのです。

路線価高騰、そして「タワマン節税」の危機

2022年度の路線価は、全国約32万地点の標準宅地(平均)は前年に比べ0.5%上昇しました。コロナ禍の影響も少しずつ薄れ、路線価も全国的に緩やかな回復軌道へと乗りはじめているようです。

そこで心配になるのが相続税や固定資産税の上昇です。路線価が上がればそれだけ税額も高くなります。広い土地に建つ一戸建て住宅や一棟ビルだけでなく、土地持ち分割合が大きいファミリータイプマンションのオーナーにとっても増税は大打撃となりそうです。

とはいえ、総戸数が多いタワマンは各戸の土地所有面積(土地共有持ち分)が小さいためそれほどの打撃はないものと思われます。それより心配なのは、路線価を根拠とした相続税評価に対する国税・法曹の怪しげな動きです。

相続税更正処分等取消請求事件

上層階になればなるほど相続税の圧縮に有効とされてきたタワマン節税ですが、2年ぶりの路線価上昇に加え、路線価を根拠とした相続税評価にも法曹のメスが入るなど暗雲が立ち込めています。それは2022年4月、タワマン節税の主軸となる相続税評価方法が根底から覆らせる判決が下ったことからはじまります。

タワマンA:6億3,000万円のローンを組み8億3,700万円で購入
タワマンB:3億7,800万円のローンを組み5億5,000万円で購入

被相続人は生前、想像組税対策のため上記2戸の収益不動産を購入しました。被相続人の死亡後、相続人たちは減価償却率に基づく建物評価額と路線価等に基づく土地評価額を根拠にタワマンAを約2億円、Bを約1.3億円と評価し、課税対象額約2,800万円から基礎控除を差し引き、相続税額を「0円」として申告しました。

しかし、国税庁はこの申告について評価通達の定める方法によらず、他の合理的な方法によって評価するよう指示を下したのです。すなわち、路線価を根拠とした相続税評価ではなく、不動産鑑定士が評価する正常価格から改めて相続税額を算出するよう求めたのです。これにより課税対象額は約8.8億円となり、その相続税額は2億円超に膨れ上がる結果となりました。

この判例は一般の不動産投資家のみならず、タワマン節税を推奨してきた投資系不動産業者にも衝撃を与えています。しかし総額13億円超の資産を3億円まで圧縮し、さらには相続税0円で申請するというのは甚だ大胆すぎます。これだけ派手なやり方をすればお役所も黙っているわけにはいかないでしょう。

この判決によってタワマン節税が完全否定されたわけではありません。ただし節税はほどほどに、無税申告は控えた方が良いという教訓として今後に生かしたいと思います。

まとめ

路線価は全国各地の道路に付けられた価格です。路線価は地価公示価格の約8割程度の金額で決定され、毎年7月1日に発表されます。相続税の評価対象となる土地・建物評価額は路線価や建物の減価償却率で算出されるため、一般不動産市場の売買価格とは大きく乖離します。

この価格乖離によってタワマン節税が有効に働くのです。2022年度は2年ぶりに路線価上昇に転じましたが、それによる相続税の増大よりも、路線価を根拠とする相続税評価を否定した法廷判決が下ったことが気がかりです。

しかしこの判決によってタワマン節税が完全否定されたわけではありません。今後は極端な節税申告を控えることで国税の不意打ちを回避することも考えていかなくてはなりません。