自宅の窓辺から「海辺の景色を堪能したい」「花火大会を鑑賞したい」など、魅力的な眺望目当てにタワーマンションを購入した人は少なくないと思います。

しかし入居後、その眺望を遮るように別のタワーマンションが建ってしまったら、暮らしに潤いがなくなるばかりでなく、マンション自体の資産価値も損なわれてしまいます。

このような失敗をしないためにも購入前の念入りな調査が必要です。その調査方法や、半永久的に眺望が守られるロケーションの選び方などについて解説します。

タワーマンション第一の魅力は「眺望」

一般的なタワーマンション(以下タワマン)の建物形状は四角柱型や円柱型になっており、その開口部は360度さまざまな方位に向いています。マイホームを購入する場合、多くのファミリーが「南向き」開口の住戸を選ぶものですが、タワマンにそのセオリーは当てはまりません。

立地によって人気の開口方位が異なるのがタワマンならではの特徴で、たとえば横浜・千葉の湾岸エリアならば東京湾を臨む東・西向きの方位、山手線沿線の目黒~新宿エリアならば都心のオフィスビル群を臨む北・東向きの方位に人気が集まります。

タワマン生活では“非日常”が求められるため、“日当たり”や“明るさ”といった生活感のある尺度で選ばれることはありません。それどころか、本来は一番人気の南向き住戸も、タワマンでは「夏の日差しが暑すぎる」と倦厭されるほどです。

タワマンといえば、「バルコニーに出られない」「携帯がつながりにくい」「毎朝エレベーターラッシュがある」「管理費や修繕積立金が高い」などのデメリットも取り沙汰されていますが、日常生活に不便があっても「ステイタスを手に入れたい」という富裕層に選ばれているのがタワマンなのです。

都心のタワマンに起こった悲劇

東京都内の湾岸エリアに完成した1,000戸超大規模タワマンでの出来事です。宣伝コピーが「ベイエリアを望む眺望」だったため、眺望を求める顧客からの引き合いが多数あり、第一期から最終期販売までの全期で即日完売となりました。しかし竣工から3年後、湾岸側の隣接地に同規模のタワマンが建ち塞がってしまい、眺望がシャットアウトされてしまいました。

一方、都内山手エリアの駅前で建設着工したタワマンの売りは「東京タワーやスカイツリーなど都心の夜景一望」でしたが、販売前に都心側の景色を遮るタワマンの建築計画が浮上したため人気はガタ落ち、竣工後5年経っても未契約物件が残っている始末です。

これらのような残念なタワマンを購入してしまった場合、売却するにも、賃貸運用するにも成約までにかなりの時間がかかることが想定されます。こういった失敗をしないためにも、購入前の念入りな調査が必要なのです。

眺望が阻害されがちな立地とは?

購入前の調査では、まず購入したいタワマン周辺の散策からはじめましょう。これはタワマンに限らず、不動産購入時には欠かせない基本的な調査です。

最寄り駅までの距離はもちろん、品揃えが豊富なスーパーマーケットはどこにあるのか、休日に散策が楽しめる遊歩道やサイクリングコースが身近にあるか、突然の体調不良に対応してくれる医療施設やドラッグストア、銀行や行政施設など、購入を決断する前にさまざまな生活インフラをチェックしておくことが大切です。

これらのインフラ調査と並行して、近隣に広大な空き地やコインパーキング、昭和築と思しき木造住宅街がないかをチェックしておきましょう。こういった遊休地や住宅街には、近い将来新たな建築計画や再開発事業が企てられる可能性があります。さらには、そこにタワマンが建つ可能性があるかどうかも確認しておくべきです。

タワマンが建つ可能性があるか調べる方法について説明します。近隣に空き地やコインパーキング、古い住宅街を発見したら、それらの土地の「用途地域」を市区町村役場で調べましょう。

「用途地域」とは都市計画法により定められた土地の利用方法のことで、全部で13種類あります。タワマンのような高層建物を建てることができる用途地域は、「第一種中高層住居専用地域」「第二種中高層住居専用地域」「第一種住居地域」「第二種住居地域」「準住居地域」「田園住居地域」「近隣商業地域」「商業地域」「準工業地域」になります。もしこれらの用途地域のいずれかに該当していれば、その土地にはタワマンが建つ可能性があるということです。

古い木造住宅街はタワマンが建たない「第一種低層住居専用地域」に分類されますが、安心はできません。地域活性化や土地の有効活用、または消防車や救急車といった緊急車両の走行が困難な細街路の拡張整備といった観点から市区町村が都市計画事業を施行する可能性もあります。

そうなると用途地域が変更されてタワマン計画が持ち上がるかもしれません。たとえ多くの住民が穏やかに暮らしている地域であっても半ば強引に実施される事例も増えています。

これまで「都市計画なんていつ実現されるかわからない」と言われてきましたが、東京オリンピック・パラリンピックで拍車がかかり、長年塩漬けになっていた計画が各地でどんどん事業決定されているのです。

近隣土地に限らず、購入を検討しているタワマンの敷地内にもう一棟、「弐番館」や「セカンドステージ」などと称して新たなタワマンが建つこともあります。

敷地内に二棟目の建築計画が決定していれば、不動産業者は一棟目購入者の売買契約時に重要事項として説明する義務がありますが、契約時点で計画が皆無であれば説明する必要はなく、その数年後に二棟目の建築計画が動き出すことは稀にあります。購入予定のタワマンの敷地面積が必要以上に大きい場合などは注意が必要かもしれません。

眺望が守られる立地とは?

では、半永久的に眺望が守られるタワマンはどういった立地に建つのでしょう?実は意外と原始的な方法で見つけることができます。

たとえば水辺の最前線、海岸や運河・河川沿い、湖のほとりなど、いわゆる「ウォーターフロント」立地であれば目の前に建物が建つ心配はありません。また公園の隣接地、行政機関の管理地であれば民間のタワマンが建つ心配はなく、しかも豊かな緑を借景に暮らすことができます。

しかし、このような風光明媚な立地は人気が集中するため物件価格も高くなります。そこで、少しハードルを低くしてみましょう。

次の候補は、丘の上や高台の立地です。こちらもまた、隣接する建物に眺望を遮られるリスクは低いといえます。難をいえば、駅からわが家へは坂道を登らなくてはならないため自家用車が必須なので、駐車場料金などプラスアルファの維持費がかかります。

さらにハードルを下げてみましょう。最後の砦として、墓地の隣接地があります。公園と同様、墓地は建物が建つ心配のない広大な敷地を有しており理想的ですが、一般的には忌み嫌われる場所です。

しかし、タワマンの本場である港区には墓地に隣接する物件はたくさんあり、その多くが高値で取引されています。高層階であれば地上の墓地が視界に入ってくることもありませんから、それほど気にならないかもしれません。そのように割り切れば、墓地隣接のタワマンはアリかもしれません。

まとめ

眺望目当てで購入したタワマンの隣接地に眺望を遮る別のタワマンが建つこともあります。都内某所では購入後に別のタワマンが建ったり、新たなタワマンの建築計画が決定したりしています。

こういった購入の失敗をしないためにも、事前の念入りな調査が必要です。眺望が阻害される心配があるのは、近隣の空き地やコインパーキング、古い住宅街などです。これらを発見したら、まずは用途地域を調べましょう。

用途地域上タワマンが建てられない土地であっても、行政の都市開発事業でタワマンが建つ可能性もあります。加えて、海岸や運河・河川沿い、湖のほとりなどは眺望を遮るタワマンの建設リスクは少なく、また公園や墓地に隣接下土地も半永久的に眺望が守られます。