コロナ禍によるサプライチェーンの混乱は日本の不動産賃貸業にも少なからず影響を及ぼしています。一つは半導体不足による給湯機・エアコン供給の遅れ、そしてもう一つは木材資源の不足、すなわち「ウッドショック」です。

ウッドショックとはどのような状況をいうのか? 賃貸経営に与える悪影響とは? 今後の回復見通しは? などについて検証します。

「ウッドショック」って何?

昨今、「ウッドショック」という言葉を耳にする機会が増えてきました。「はて、ウッドショックとは?」という人のためにざっくり説明しますと、住宅などを建設するための木材が世界的に不足している状況のことをいいます。

なぜ今世界中がウッドショックに陥っているのか、その原因について探ってみたいと思います。

その前に、日本はどのくらい海外からの輸入木材に依存しているのかについて見てみましょう。日本では国内使用木材の約6割を輸入に頼っています。

「ウッドショックで輸入木材が不足しているのなら国産木材を利用すれば良いのでは?」と考える人もいるかもしれませんが、日本の林業従事者の高齢化率は全産業平均と比べ高水準にあり、後継者・人手不足は至極深刻です。そういった背景もあり国産木材に期待することが難しいのです。

木材はどこから輸入している?

次に日本がどんな国から木材を輸入しているのかについて品目別に見てみましょう。
※参考資料:2021年の木材輸入実績(林野庁)

「丸太」輸入量

丸太とは、森林から切り出された原木そのまま、または樹皮を剥いだ状態で出荷される商品です。住宅建築では飾り柱や化粧梁などに使われます。

もっとも輸入量が多いのは米国(57.3%)、次いでカナダ(28.3%)、ニュージーランド(11.6%)の順で、総輸入量は前年比で15%上昇しています。

2021年度は米国・大手丸太輸出業者の撤退や、カナダ・大手丸太輸出業者の自社有林の伐採停止などもあり資材調達は困難を極めました。

「製材」輸入量

製材とは、原木を製材機械で挽き切って角材や板材に生成した商品で、その製材方法から「挽き材」とも呼ばれます。住宅建築では角材は躯体や建具に、板材はフローリング材などに使われます。

もっとも輸入量が多いのはEU(44.5%)、次いでカナダ(25.4%)、ロシア(17.5%)で、総輸入量は前年比で2%減少しています。これは米国・大手製材輸出業者が日本向け供給から撤退したことも影響しているようです。

「合板」輸入量

合板とは、丸太をかつらむきにした薄い板を、木の繊維方向が交互(または直角)になるように貼り重ねた商品です。住宅建築では屋根材や床の下地材、壁パネルなどに使われます。

もっとも輸入量が多いのはマレーシア(42.6%)、次いでインドネシア(38.3%)、ベトナム(11.1%)で、輸入量は前年比で12%上昇しています。これはインドネシアが港湾混乱で北米へ輸出できなくなった商品を日本への輸出に切り替えたことも影響しているようです。

「集成材」輸入量

集成材とは、複数の板を貼り合わせた板状の商品です。天然材に比べて強度や耐久性に優れているため、住宅建築では柱材や梁材として使われます。

もっとも輸入量が多いのはEU(75.8%)、次いで中国(9.6%)、ロシア(8.7%)で、総輸入量は前年比で5%減少しています。これは米国や欧州における木材需要の高まりや、海上輸送の混乱等によるものと思われます。

「木材チップ」輸入量

木材チップとは、スギやヒノキなどの木材を細かく砕いた商品のことです。住宅建築では庭や花壇に敷き詰めて雑草が生えるのを防いだり、また住宅以外では紙・パルプの原料などに使われています。

もっとも輸入量が多いのはベトナム(37.6%)、次いでオーストラリア(17.7%)、チリ(9.6%)で、総輸入量は前年比で16%上昇しています。2021年以前はペーパーレス化で需要が下降気味でしたが、コロナ禍の影響でネット通販のパッケージングが増加したため再び需要が高まっています。

「木質ペレット」輸入量

木質ペレットとは、乾燥して細粉した木材に圧力をかけて小さな円筒形に圧縮成形した商品です。主にストーブやボイラーの燃料として使われ、近年人気が高まっている「ペレットストーブ」もこれを燃料として使用しています。

もっとも輸入量が多いのはベトナム(52.8%)、次いでカナダ(33.9%)、マレーシア(5.0%)で、輸入量は前年比で54%上昇しています。

これら木材全体の輸入額割合を見ると、1位はEU(13.9%)、2位は中国(13.5%)、3位はカナダ(12.3%)で、総輸入額は前年比で30%上昇しています。

ウッドショックはなぜ起こったか?

木材に関わる世界情勢を俯瞰すれば、ウッドショックがなぜ起きたかが見えてきます。

米国の状況

コロナ禍によるテレワークの増加と住宅ローンの低金利化が相まって住み替え需要が高まり、それに伴い木材価格が急騰しています。そこに輪をかけ、コロナ禍による作業人数制限や業務停止の影響で木材輸送船舶を受け入れる港湾の処理能力が低下し、複数のコンテナが港に滞留したまま動けなくなっています。この結果、世界的なコンテナ不足となったため、木材の輸送費までもが高騰してしまったのです。

カナダの状況

2021年夏、例年にない熱波に見舞われたカナダでは大規模な山火事が多ヵ所で発生したため、輸出用木材の伐採量が激減しています。さらに追い打ちをかけるかのように記録的な豪雨にも見舞われ、木材輸送の主要ルートまでもが寸断されてしまいました。

東南アジアの状況

マレーシアやインドネシアでは、コロナ禍により合板等の生産ラインがストップ、加えて林業従事者の移動制限により原木供給も滞っています。

各国の状況を見ると、ウッドショックの原因はコロナ禍の影響ばかりではなく、例年にない異常気象や輸送システムの脆さにもあるように見受けられます。

現場施工業者はどう見ている?

ウッドショックが続くと、賃貸不動産の現状回復リフォームの工期や予算にも影響が及ぶことになります。1カ月前に取った工事見積価格が上がってしまったり、エアコンや給湯器の調達が遅れて工期が延びるようなことも起こる可能性があります。

ウッドショックはいつまで続くのか? 不動産投資家にとっても気になるところですが、リフォーム工事を手掛ける工務店経営者はどのように受け止めているのでしょうか。

木材の調達の状況については工務店の多くが「悪化している」と感じています。木材価格は1~2割値上がりしており、それに伴いプレカット単価も坪額1~3万円程度値上がりしています。

これら木材価格の高騰分を顧客への請求に上乗せすることは憚られるようで、多くの工務店がコストアップの負担分を自社で一部負担、または全額負担しているといいます。とはいえ各社とも資金繰りへの影響は少なく、受注状況も横ばいで推移しているとのことです。

気になる木材調達、そして木材価格高騰の見通しについては「先行き不明」と答える工務店がほとんどで、ウッドショック脱出の糸口は未だつかめていない様子です。

まとめ

今、住宅などを建設するための木材が世界的に不足する「ウッドショック」に陥っています。諸外国と同様、ウッドショックに見舞われている日本は国内使用木材の約6割を輸入に頼っており、林業従事者の高齢化や人手不足問題を抱える国産木材市場にも期待はできません。

日本の木材輸入国はEU、中国、カナダなどで、総輸入額は前年比で30%も上昇しています。世界的なウッドショックの原因はコロナ禍のほか、例年にない異常気象や船舶輸送システムの脆さにもあります。

リフォーム工事を手掛ける工務店も木材調達、木材価格高騰の見通しは立っておらず、ウッドショック脱出の糸口は未だつかめていない状況です。