不動産を活用した資産運用の一種である「REIT」の特徴は、さまざまなジャンルかつ複数の不動産に分散投資が可能なところです。
日本におけるREIT系金融商品は「J- REIT」と呼ばれ、その投資対象は都心部のオフィスビルや居住用マンションなど意外と身近に点在しています。
J-REIT市場が開設されて早20年が経過しましたが、現在はどのような値動きをしているのか、また注目すべきジャンルやその収益性などについても探ってみたいと思います。
REITとはどんな商品?
日本独自のREIT市場である「J-REIT」が誕生したのは今から20年余り前のことです。2001年の東京証券取引所を皮切りに、2003年に大阪証券取引所、2004年には福岡証券取引所でJ-REIT市場が開設され、今では安定性の高い金融商品として広く認知されるようになりました。
しかしまだ「具体的にどんな商品なのかピンとこない」という人がいるかもしれないので、ここでREITのしくみについて簡単に説明しておきます。
REIT(リート・Real Estate Investment Trust)とは、不動産投資法人が保有している不動産に対し、複数の投資家が共同出資する形で資産運用を行う金融商品で「不動産投資信託」と訳されます。
株式の「投資信託」と同様、株のセレクトを専門家に一任する形となっており、REITでは株がオフィスビル・居住用マンション等といった不動産のジャンルにあたり、専門家の役割は不動産投資法人(J-REIT市場では「銘柄」と呼ばれます)が担います。
REITの投資対象となる不動産のジャンルは多岐にわたり、オフィスビルや居住用マンションのほか、ショッピングモールやホテル、そして物流倉庫なども含まれています。もしかしたらあなたの住まいや勤務先もREITの投資対象物件になっているかもしれません。
REIT関連物件の見分け方は、謄本が建物一棟の登記で、所有者欄に「〇〇不動産投資法人」「〇〇アセットマネジメント」「〇〇投資証券」「〇〇投資顧問」などの名称がある、または登記の目的欄に「信託」とあればREIT関連物件である可能性が高いです。
現物不動産投資との比較
通常「不動産投資」といえば、一人の投資家が単独で区分マンション等を所有して賃貸運用を行う「現物不動産投資」が一般的ですが、これには空室になると一気にマイナス収支へ転じるリスクが付きまといます。
一方、REITは不特定多数の物件に分散投資するスタイルのため、一部の物件が空室になってもそれは微々たるもので、大幅な減収に見舞われることはありません。すなわちREITは現物不動産投資より安定した収益が見込めるということです。
REITは数万円程度の少額投資からはじめられ、物件の管理運用は不動産投資法人に一任、そして純利益から分配金を得ることができます。また、現物不動産投資では買うにも売るにも理想的な買主・売主と出会うまでに数か月から1年以上かかってしまうことが常ですが、REITは株式と同じように取引市場の動きを見ながら自由に売買することもできます。
前述の通り、東京・大阪・福岡にはJ-REIT取引所があり、開設第1号の東京証券取引所では以下のような指標が公開されています。これらの情報から現在の市場動向が把握できるほか、注目されている銘柄(不動産投資法人)を確認することもできます。
東証REIT指数
東京証券取引所に上場されているJ-REIT商品の全銘柄を対象とした時価総額加重平均型の指数です。2003年3月末の時価総額(1000)を基準に数値化しています。
東証REIT Core指数
東京証券取引所に上場されているJ-REIT商品の中から、時価総額や売買代金の大きいものを選定して数値化した指数です。
さて、ここまで現物不動産投資と比較したREITの優位点について説明してきましたが、やはりデメリットもあります。
・株式市場と同様にREITの価格相場も日々変動しています。そのため、タイミングによっては購入時より価格が下がってしまう、すなわち元本割れしてしまう場合があります。
・REITはいわば不動産の管理運営を行う不動産投資法人の株式を購入するようなものです。不動産投資法人の経営状態に変化があると分配金が減額される可能性があります。または何らかの理由で上場廃止になってしまうと、その不動産投資法人で購入したREITの売買が難しくなる場合もあります。
・現物不動産投資の場合、投資用不動産の購入費用や管理運営のための経費(管理委託料・修繕費用等)は確定申告時に経費として計上することができますが、REITの場合はこれらの経費が計上できないため節税効果が薄いといえます。しかも分配金などの収益には取得税等が課税されます。
注目すべき銘柄は?
2001年の取引所開設当初、J-REITに上場したのはオフィスビルを投資対象とする銘柄ばかりでした。
その後、ショッピングモールなどをメインとした「商業施設特化型」や、居住用マンションなどをメインとした「賃貸住宅特化型」、大型倉庫などをメインとした「物流施設特化型」、オフィス・住宅・商業施設・物流施設など幅広い不動産ジャンルから投資対象を選べる「複合型」(不動産ジャンルから2種類)、「総合型」(不動産ジャンルから3種類以上)といったREIT商品が次々と誕生しました。
さらに「地域特化型」「ホテル特化型」、工場・研究開発施設などをメインとした「産業用不動産特化型」など、J-REITの守備範囲は拡大の一途を辿ります。
しかし2008年に発生した「リーマン・ショック」以降、J-REIT市場に関わる不動産投資法人の上場廃止や合併が相次いだことから、各法人ともこれまでのジャンル拡大路線から淘汰路線へとシフトチェンジせざるを得なくなります。
そして2013年をターニングポイントに、物流施設特化型の新規銘柄が増えはじめます。それに並行し、2020年開催の東京オリンピック・パラリンピック特需を見据えたホテル・商業施設への投資ニーズも高まっていきます。その結果、J-REIT市場開設当時から主力となっていたオフィスビルへの投資割合が減少していくことになります。
2020年以降、J-REIT市場はコロナ禍に翻弄されることになります。特需を見込んでいた東京オリ・パラも見事な空振りに終わり、新築ホテルの工事中断、開業直後の無期限休業・廃業が目立つようになります。
一方で宅配・デリバリーなど運輸・物流業者は多忙を極め、輸送車ターミナルや商品倉庫の需要は高まるばかりです。コロナ禍以降、「エッセンシャルワーカー」という呼び名が多用されるようになりましたが、それに該当するのは運輸・物流業者や医療・福祉従事者などです。これが新たなREIT需要のヒントとなり、医療系施設など「ヘルスケア特化型」のREIT商品を扱う銘柄も誕生しています。
J-REIT市場は当面、物流施設特化型およびヘルスケア特化型への投資が優勢になる見通しです。現在の分配金利回りは概ね4~5%台で推移しており、一番人気はさまざまな不動産ジャンルをバランスよく組み合わせられる総合型商品になっています。
まとめ
「REIT」は不動産投資法人の保有不動産に複数の投資家が共同出資する金融商品です。REITが取り扱う不動産のジャンルはオフィスビル、居住用マンション、ショッピングモール、ホテル、物流倉庫など多岐にわたります。
現物不動産投資の場合は空室リスクがデメリットとなりますが、多彩なジャンルかつ複数の不動産に投資可能なREITは対象不動産の一部に空室が出ても大幅減収の心配はありません。
しかし、売買のタイミングを間違えると元本割れしたり、不動産投資法人の経営悪化や上場廃止に見舞われると売りにくくなったり、節税効果が期待できないというデメリットもあります。コロナ禍におけるJ-REIT市場は、物流施設特化型・ヘルスケア特化型不動産への投資が優勢になると推測されます。