利用するあてもなく持て余している土地や建物を「タダでいいから」と第三者へ譲渡する「0円不動産」が世間に出回っています。
昔から「タダより高いものはない」といわれますが、この0円不動産も然り、譲り受けることにより高額な維持管理費や修繕・解体費用を背負わされるリスクが伴うこともあります。しかしこれらのリスクを上手く取り除くことができれば、一般の不動産投資と同様に収益を上げていくことも可能です。
そんな0円不動産のポテンシャルや、取得する際の注意点などについて説明します。
「0円不動産」が生まれる背景とは?
まず、0円不動産がどのような背景から生まれるのかについて説明します。
昭和40年代に横行した「原野商法」をご存知でしょうか。道路やライフラインが整備されていない山中の土地をあたかも“理想郷”のようなチラシで宣伝し、「別荘用地や老後の永住先としていかがでしょうか」と都会の消費者に売り付けるいわば悪徳商法です。
売買契約を交わせば土地の権利書は手渡されるものの、実際に現地へ行ってみると隣地との境界はおろか自分の土地がどこにあるのかさえわかりません。または境界確認済みで整然と区画分けされていても、土地販売会社に支払う管理費や水道設備使用料が高額で、所有している限りそれらを半永久的に支払い続けなければなりません。
路線価も付かない僻地なので、固定資産税が少額または非課税なのがせめてもの救いですが、別荘の夢も潰えて、都心での永住を決めた土地所有者にとってはムダな出費です。ましてや高齢になれば、これらの支払いが日常生活をひっ迫させる要因にもなってきます。
また、長年住んでいない元実家の土地・建物や、空室状態が長く続き老朽化した貸家・アパート等も所有者の重荷になります。これらは家賃収入がなくても固定資産税や都市計画税は徴収されます。多くは親からの遺産相続で所有権を得たもので、不動産投資の経験や興味がない人にとっては税金の浪費でしかありません。
上記の例から、0円不動産を世の中に流出させているのは高齢者、または相続を受けた中高年の所有者と察することができます。「ムダな管理費や税金がかかる“負動産”を子や孫の代まで残して逝くのは無責任。目の黒いうちに整理しておきたい」と考えての決断なのでしょう。
すでに突入したと思われる超高齢化社会において、「タダでもいいから引き取ってほしい」という0円不動産オーナーの声は今後さらに増えていくことが予想されます。
「0円不動産」の取引現場とは?
0円不動産は一般の不動産市場には出てきません。不動産業者の一部では取り扱っている会社もありますが、売値が0円では仲介手数料を請求することができず、請求できるものといえば契約書類作成手数料、交通費等の実費程度しかありません。
要するに不動産業者にとってあまり“おいしい仕事”ではないのでやりたがらない会社がほとんどなのです。そのため0円不動産の取引はSNSのグループ機能を利用した個人間取引(C2C)が主流となっています。
SNS上で0円不動産取引関連グループのページを覗いてみると、日々活発に情報交換が行われている様子が見られます。さて、どんな物件が取引されているのでしょうか?
事例1:原野商法で購入したものの不要となった雑木林
事例2:土地管理費や水道設備使用料の支払い義務があるリゾート分譲地
事例3:市街化調整区域内に建つ農家の土地と住居
事例4:親からの遺産相続で受け継いだ空き家 など
前述のとおり、原野商法で購入した土地は「自分の土地がどこにあるのかわからない」ようなシロモノです。そこに住宅を建てるためには鬱蒼と茂る樹木の伐採やライフランの新設が必要になりますから、莫大な費用がかかることは間違いありません。
土地の区画分けやライフライン整備が完了しているリゾート分譲地は住宅を建てる前から、または建てなくても管理費等を徴収されます。市街化調整区域内(農地等)に住宅を建てることが許されているのは、原則として農家とその後継者だけです。建築基準法上、公道に面していない土地に住宅は建てられません。空き家は放置するとホームレスが棲みついたり放火の被害を受ける懸念があります。
相続等で不動産をとして得ることは喜ばしい反面、条件の悪いものを受け継いでしまうとリスクが伴います。古い空き家を放置したため隣家とトラブルになったり、建物解体に想定外の費用がかかったり、高額な税金や管理費が請求されることになったりと、相続人にとっては青天の霹靂です。
それらを賄い切れる財力がなければ手放すしかありませんが、一般不動産市場で売り出してもリスクが伴う物件には誰も手を出しません。その結果として0円譲渡、または解体費用や当面の維持費(税金・管理費等)を支払って譲渡するに至ります。この場合、譲渡される側は不動産所有権のほかにお金が貰えることになりますが、物件に付随したリスクも当然背負うことになります。
では、これらの物件を譲渡された側はどのようにリスクを回避しているのでしょうか?
事例1の回避例:雑木を伐採し簡単に区画分けして「レンタル畑」として貸し出す。
事例2の回避例:リゾート地としての特性を活かし、グランピング施設を造って管理・使用費以上の収益を上げる。
事例3の回避例:地元の農業委員会と話し合いの上、体験農業イベント施設を造って有料運営する。
事例4の回避例:出来る範囲でリフォームを施し、古民家店舗やシェアオフィスとして貸し出す。
リスクを承知で譲渡を受けた人たちは、ムリのない再生・経営計画を立て、それを実践し、維持費以上の収益を上げることに専念しています。彼らは素人ではなく、賃貸経営で実績を重ねている不動産投資家や不動産業者、工務店経営者、または代々賃貸業を営んでいる大家一族など百戦錬磨の猛者ばかりです。すなわち0円不動産投資で実績を上げるためには、不動産に関する豊富な知識や経験が必要なのです。
「0円不動産」の落とし穴
不法占有者との共存
地方都市にある300坪の土の農地を無償譲渡したいという話が舞い込み、譲渡を受けることにしました。大きな土地面積に魅かれて引き取りましたが、敷地の中央にあぜ道があり、その突き当りに第三者Aの小屋が建っています。
前所有者から「Aさんとは古くからの付き合いだから、今まで通りあぜ道を使わせてあげてほしい」と頼まれたものの、あぜ道があることで大きな土地が分断され有効に使うことができません。Aが通行地役権の登記を備えているわけではないので拒否もできますが、争いを起こすのも厄介です。Aとの共存がいつまで続くのかが悩みの種です。
目に見えない欠陥のある住宅
「借地上に建つ築30年の戸建住宅を無償で譲りたい」という話がありました。外観も室内も築年程度の劣化で雨漏りなどの瑕疵もなく、一般の不動産市場でも十分受け入れられそうな物件です。所有者に聞くと「重大な設計ミスがあった」といいます。
一通り内見を済ませ玄関を出た時、設計ミスの内容がわかりました。まっすぐ歩けません。見た目ではわからない、大きな傾きのある家だったのです。所有者は解体して建て直しを考えたものの膨大な費用がかかるため、0円譲渡を決めたとのことでした。
まとめ
過去に購入したものの不要となった土地や、相続したものの管理しきれない空き家など、所有者が持て余している物件が「0円不動産」として世に出回っています。そのままでは“負動産”でしかありませんが、手を加えれば収益不動産として運用可能なポテンシャルも秘めています。
0円不動産は一般的な不動産市場ではなくSNSグループ内で取引されており、メンバーは建物施工や不動産投資のプロばかりです。隣地トラブルや建物瑕疵の対処ができる知識や経験がある人なら、0円不動産投資に着手しても良いでしょう。