街や住まいへ電力を供給する送電線は、毎日の暮らしになくてはならないものです。しかしその直下や送電塔に隣接する土地は価格査定において低く評価される傾向にあります。

その評価基準や、登記上の取り扱われ方、そこで建物を新築する際の問題点などについて解説します。

送電線下は「電磁波」の嵐?

都心部では送電線の地中化が進んでいるため、大きな送電塔や電柱を見かけることは少なくなりました。とはいえ、東京23区全域で見れば送電線が空中に伸びる地域はまだまだあります。

実際に試したことはありませんが、送電線の下で蛍光灯をかざすと発光するという話を聞いたことがあります。これは送電線付近に滞留する「電磁波」によるもので、いわゆる“都市伝説”ではなく実際に起こる現象です。

電磁波は少なからず人体に悪影響を及ぼすようで、送電塔や電柱の近くにいると頭痛やめまいを起こす人もいるといいます。そのため日本の法律(電気設備に関する技術基準を定める省令 第27条の2)では、「変電所や送電線、配電線といった電力設備付近の人体に相当(人が往来)する空間で、それぞれの電力設備から発生する商用周波数の磁界の大きさを200マイクロテスラ以下にすること」と定めています。

ちなみに一般的な送電線の磁界は6.4マイクロテスラ程度と法規制値よりかなり低く抑えられているようですが、それでも「電磁過敏症」などの症状を訴える人は後を絶ちません。

このような状況を鑑み、不動産業界では送電線や送電塔をゴミ処理場などと同じ「嫌悪施設」と捉え、該当する不動産の契約時はその旨を重要事項説明に盛り込むようにしています。

「高圧線下地」の見分け方

送電線の下に位置する土地は一般的に「高圧線下地」と呼ばれています。これから購入しようとする土地がこの高圧線下地に該当しているかどうかを確認するには、まず「登記簿謄本(全部事項)」を見ることです。

電力会社が送電線や鉄塔を設置する際、高圧線下地の所有者と事前に土地賃貸借契約を結び、次いで登記簿に「地役権」の設定を行います。

地役権とは、他人の土地を一定目的の範囲内で利用できる権利(物権)のことをいいます。登記簿に送電路線の架設を目的とした地役権設定の記載があれば、その土地は高圧線下地に当たるということです。

地役権の登記が完了すると、土地登記簿の権利部(乙区・権利者その他の事項)には以下のような記載が加えられます。

原因 令和○年○月○日設定
目的 送電路線の架設
範囲 全部
特約 電線の支持物を除く電線路を施設すること、及びその保守運営のための土地立ち入り、若しくは通行の認容ならびに当該電線路の最下垂時における電線から〇mを控除した高さを超える建造物等の築造若しくは竹木の植栽禁止
要役地 ○○区○○町○○番○
地役権図面第○○号

ここには、その土地で建造物を築造する際に建物の高さが制限される旨が記されています。送電設備の規模によって異なりますが、基本的には「送電線の最も垂れている部分と地上の建物との間を3m以上空けなければならない」というルールになります。

たとえば3階建ての戸建住宅が建てられる用途地域内でも2階建てまでが限度、または10階建てのマンションが建てられる地域なのに8階建てまでが限度、といった制限がかけられてしまう可能性があるのです。

高圧線下地は当初計画していた建物規模が実現できなくなるリスクがあることから、価格査定において低く評価(=減価)されることになります。

高圧線下地が減価される要因とは?

高圧線下地の評価額は、以下のような要因により近隣相場から減価されます。

・地役権が設定されると建造物等築造の際に高さの制限がかかってしまう。
・送電線が発する電磁波によって住宅のテレビ・ラジオ等に電波障害が出てしまう。
・送電塔が住宅の眺望を遮るなど生活者に圧迫感を与えてしまう。
・送電線が発する電磁波による人体への健康被害が懸念される。
・高圧線下地の所有者が地役権設定時に受け取った権利金相当額が減価される。

これらの要因を鑑みて不動産鑑定士が個別評価を行うことになりますが、その減価率は対象地の路線価に対し15~35%程度といわれています。

たとえば前面道路の路線価から算出した土地総額が1億円であった場合、高圧線下地の価格は良くて8,500万円、最悪6,500万円まで下がってしまうということです。

このように、高圧線下地は近隣相場より安価で購入できる傾向にあるため、減価要因にあるようなデメリットが気にならない人にとっては“お買い得”であるといえます。

ネット環境が整備されたことでテレビ・ラジオ等の電波障害は気にならなくなりましたし、すべての人が送電線下で頭痛やめまいを感じるわけではありません。自宅用地でなくとも賃貸住宅用地として考えるという手もあるでしょう。

基本的に、送電塔の近接地や送電線下の土地に住宅を建てることはできます。実際、電力会社の社宅や社員寮は送電塔近くの土地に建てられていることが多いです。現在はそれらの土地がハウスメーカーなどに一括売却され、高さ制限をクリアしつつ周囲の住宅街と遜色ない体で新築・分譲されています。

高圧線下地は、東京23区内では「下北沢」「三軒茶屋」「駒沢」「都立大学」「大岡山」「洗足池」と世田谷区から目黒区へ連なる送電ルートと、江戸川区の「小岩」周辺、葛飾区の「亀有」「金町」、北区の「王子神谷」、板橋区の「高島平」など変電所が集中するエリアに多くあると推測され、これらの周辺で比較的安価な土地が売り出される可能性は高いと考えられます。

日本の「無電柱化」は遅れている

土地の高度利用が進む都心部では送電塔や電柱を建てるスペースがないため、送電線は地下トンネル(電線共同溝)に埋設されています。

国土交通省では「景観・観光」「安全・快適」「防災」の観点から都市部の無電柱化を推進しており、とくに地震、竜巻、台風といった大規模災害が起きた際の電柱倒壊による道路の寸断を防止するための工事を急務としています。

日本の無電柱化構想は1980年代からはじまり、2020オリンピック・パラリンピック開催を一つの目標に工事が進められてきました。しかし、電線共同溝の新設工事は地上に建つ送電塔や電柱設置工事と比べてコストが高く、また管理体制においてもトラブルが露見しにくい上にメンテナンスも困難というデメリットがあります。

そのためか、香港・シンガポールといったアジア主要都市が無電柱化100%を達成しているのに対し、日本国内の無電柱化は遅々として進んでいないのが実情で、東京都であっても達成率5%と低水準に留まっています。このような状況から考えれば、今後まだまだ高圧線下地の売買は継続されていくことが予想できます。

まとめ

都市部では少なくなったものの、まだまだ空中に送電線が目立つ地域はたくさんあります。送電線から発せられる「電磁波」は人体に少なからず影響を及ぼし、これが原因で体調を崩す人も出ているため、不動産業界では送電線関連施設を「嫌悪施設」としています。

高圧線下地はこれらの健康被害のほか、建物築造時の高さ制限、電波障害、圧迫感などを理由に不動産評価額が減価されます。その結果、相場価格より比較的安価で流通することになるので、高圧線下地特有のデメリットが気にならない人や、賃貸住宅用地として活用する人にとってはお買い得になります。

しかし、安価であっても高圧線下地の購入には慎重さが必要です。将来の売却戦略もしっかり考えた上で決断することが肝心でしょう。